太陽と月の鈴ちゃんside「私ね、その、千頭くんに、好きだって言われたことなくて」
その言葉を聞いて、はぁぁ!!?と普段なら出さないような大声を出してしまった。
カミシンは一体何をしているのか。好きなど、言われずとも分かるだろう、なんて思ってはいけないのだ。
人生において、大切な人に明日突然会えなくなることが起こり得るというのは、私が痛いほど良く分かっている。それが生死か、物理的な距離か、はたまた違う何かかという違いはあるけれど、伝えようとしなければ、その人が何を考えていたか分からないままになってしまう事なんてザラにあるのだ。
カミシンとのトーク画面を開き、急いでメッセージを打ち込む。
『鈴:カミシンてさ、ルカちゃんに好きって言ったこと無いの?』
『千頭:え?鈴ちゃん?』
『鈴:ルカちゃん、カミシンが好きって言わないから、ものすごい不安そうにしてるんだよ』
『千頭:あ、え、言ったことないかも』
『鈴:お馬鹿!!!早く!!音楽室!!!』
『千頭:はい!!』
吐き出したら元気になっちゃった、なんてルカちゃんは言うけど、絶対無理してる。大丈夫、もうすぐ来るから、と言ってろくな説明もしないうちに廊下の向こうから走ってくる音が聞こえた。
「ルカちゃん!!」
カミシンはかなりの勢いで音楽室に飛び込んできた。まさかカミシンが来るとは思っていなかったのだろう、ルカちゃんは目を真ん丸にしていた。
カミシンは息を切らしながら、必死に言葉を紡いでいた。なんだ、ルカちゃんの事ちゃんと好きじゃん。思い返せば、あの日の駅でも2人のアシストをしたような気がする。私は2人のキューピッドなのかもしれない。
ルカちゃんの瞳から涙が零れ落ちた。本人も驚いているみたいだから、泣くつもりなんてなかったのだろう。緊張の糸が切れたのかな。
一瞬ヒヤッとしたけど、2人がすれ違わなくて良かった、と胸を撫で下ろしてそっと音楽室を抜け出す。廊下の窓から茜色の空が見える。そういえば日が落ちるのが随分早くなってきた。
なんだか無性に恵くんの声が聞きたい。電話してみようか。それとも、<U>に行こうか。好きだよ、って伝えたらどんな顔をするかな。自然と浮き足立つ心に身を任せ、愛しい人の胸に飛び込む様を想像しながら<U>の世界へと躍り出た。