尻尾がある竜の幻覚見てる その1普段は見えないようにしているが実は立派な尻尾を持ってる竜。長いからあると邪魔なんだと普段は消しているが、アバターの整理をしているときにベルに衣装を着けていない素の竜を見られて尻尾があることがバレる。見てみたいと目を輝かせるベルに竜が否と言えるはずもなく、渋々といった体で初めてUにログインした時以来であろう尻尾の表示をONにした。たゆんと大きく揺れる漆色の尾には鬣と同じく夜のような深い黒の毛が流れている。触っても大丈夫かと伺う彼女にコクリと頷けば、喜色をにじませて意気揚々とその細い指先をゆらりゆらりと揺れる尾に這わせていく。
本来人体には存在しない器官だがなぜかちゃんと感覚があるそれに、ふわりと撫でる細い指先へと視線を伸ばせば彼女は楽しそうに何度も何度も愛おし気に優しく触れいく。なんだかとても恥ずかしいことをしているみたいだ。と心の中で冷静な自分が一言口をはさんでくる。そんな邪念を瞬きでごまかしながら、彼女が撫で始めてしばらく時間がたったころ、漸く青空色の瞳が竜の金色の瞳とかちあう。キラキラと瞳を輝かせる彼女の圧に、思わず少し背をのけぞらせながらもういいのかと聞けば、コクンと頷いてくれる。
「あなたの尻尾、とても気持ちいいわ」
「あっても邪魔なだけだ、足がもつれる」
「あら、そうなの?」
不思議そうに眼を見開く彼女にコクリと頷き返す。
「そうなのね・・・」
見るからに残念そうに肩を落とす彼女は、どうやら竜が想像するより何倍もこの長い尾が気に入ってしまったようだ。残念そうに竜の尾をちょいちょいと薄桃色の指先でつつくその姿は、どこかいじけた子供のような幼さを感じられる。自分より3歳も年上なのかと、少し疑ってしまいそうなほどだ。
「気に入ったのか?」
「えぇ、とっても。今ならあなたの尻尾だけで歌が歌えそう」
「やめてくれ・・・」
「ふふ、冗談よ」
気を持ち直してくふくふと笑う彼女の姿に、竜は直ぐに絆される自分に内心深いため息を吐いた。きっと、これからずっと彼女の頼みを自分は断れないのだろうな、と遠い目をする。
「・・・城」
「え?」
「城にいるときだけなら、出してもいい」
城内で戦闘だなんてことは滅多にないだろうしと小さく呟けば、ぱぁっと花が綻ぶような満面の笑みを浮かべた彼女が竜を見上げる。
「ほんとうに?」
「あぁ」
「無理してない・・・?」
「大丈夫」
「ほんとのほんとね?」
「ベルに嘘はつかないよ」
なんども繰り返し聞いてくる彼女に、無意識に口角が上がっていく。眼下ではきゃらきゃらと楽し気に自分の尾と戯れる彼女。竜は「あぁ、なんて穏やかで優しい時間だろう」と幸せそうに小さく眼を細めた。