伝染思慕便箋(仮)これは、アスティカシア高等専門学園のちょっとした珍事件である。
#1
「マスター、落し物に注意してください」
僕の日課、それはラウンジでハロと変わった物質や機械の観察・分析をすること。本日もまた、メカニック科の自由研究に勤しむべく訪れたのだが、ハロの呼びかけに気づいたら目の前に何かが落ちていた。
「えっと……?」
ほぼ無意識だけど、ちょんとつまんで拾い上げてみる。僕の握った手でちょっとだけ皺がついた、紙切れ。僕はこういう類のものは普段持たないので、きっとラウンジに訪れた誰かなんだ。そうに違いない。
「ロウジ~?」
僕の名を呼ぶこの気の抜けた声は、同じ寮で決闘委員会のセセリアだ。今しがたこの落し物をどうしようか相談する相手が欲しかったところなので、丁度いい。ハロが中身を読もうとしているけれど、こういうのは穏便に済ませようと思い拒否した。
「ねえセセリア。ラウンジって僕の前に誰か来た?」
「ん~?いや知らない。てか何それ、今どき紙?」
この反応からしてセセリアではないことはよくわかった。
誰の落し物かを考えるには、その人の特性を考える必要がありそうだ。紙で連想したのは、よくここで読書をするエランさん。確かに彼なら扱いそうだ。
「エランさんのかもしれない」
「あ〜、ぽいわ。でもさ、昨日と今日はザウォートの調整と報告がどうのでここに来てないし」
本社案件ならば仕方ない。一つ候補から外れた。
「とりあえず他の関係者に渡してみる?」
僕の手元から離れた紙切れをセセリアが上機嫌でポケットに入れた。まあ、彼女にかかれば(人脈が豊富だし)早く届くだろう。そう思い頷く。セセリアが嫌味を言うときの顔で微笑んだ。
……これは、ネタにするパターンかもしれない。ほんの少し不安が過ぎった。
(つづく)