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    hagi_pf

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    Passionate MOBiLE HOME!!展示
    アロルドとスヴェンについて雨クリが話したりしているだけの話です。

     日もすっかり沈んだ時間帯。新たに出演が決まった映画の稽古を終えたクリスは、恋人である雨彦の家を訪れていた。
     夕食を共にして、シャワーを借りて、この後の時間を心待ちにしながら入れ替わりにシャワーへと向かった雨彦を待つ。そんな風にこの部屋で過ごすのにも、すっかり慣れてしまった。
     手持ち無沙汰になったクリスは、稽古で使用していた台本を取り出して、今日の内容を振り返る。稽古は始まったばかりだ。まだまだ自分が演じる役の理解が必要だろう。
     魔術が当たり前に存在している世界。
     クリスとは性格が異なる、クールな印象の魔術師。
     けれどクリスは、彼のことが理解できるような、親近感が湧くような、そんな気がしていた。
    「映画の台本かい?」
    「雨彦」
     部屋に戻ってきた雨彦は、ソファに腰掛けるクリスの元へとやってきて、クリスの手元を覗き込みながら隣に腰掛ける。
    「はい、もう少し役の理解を深めたいと思いまして」
    「今回はまた、これまでとは毛色が違う世界観だからな。お前さんでいうと、以前演じたフリオが近いように思うが」
    「そうですね……ですが海賊であるフリオと違って、スヴェンはアロルドと共通の目指すものがあるわけでも、船長と航海士のような明確な関係性があるわけでもありません」
     クリスはそっと、台本に書かれたスヴェンの台詞を指でなぞる。この物語のサブキャラクターであるスヴェンには、複雑な設定や人間関係はない。
     そこにあるのは、アロルドに付き従い、彼をサポートするという絶対的な共犯関係だけだ。
    「アロルドは、史上最悪の魔術師として恐れられています。良い人、とはおそらく言えないはずですが、スヴェンは自分の意志でアロルドと共にいる」
    「ああ、アロルドもそれが当然のように振る舞っているな」
    「最初のうちは、何故なのだろうと考えていました。けれどそれを疑問に思うのは、私の価値観でしかないのかもしれません」
     ぽつぽつと言葉を紡いでいく度に、自分の中で確信のようなものが生まれていく。雨彦はクリスの言葉に静かに耳を傾けている。
     雨彦はいつだってクリスの話を聞いて、受け止めてくれるのだ。それが嬉しくて、つい話が止まらなくなってしまう。
    「私が、他人がどう評価しようと、きっとスヴェンにとってのアロルドは、信頼しついていこうと思えるような、魅力的な存在なのでしょう」
     性格も、生きてきた世界も異なるスヴェン。
     けれどクリスとスヴェンは、どこか似ている。
    「そういう意味では、私とスヴェンには共通する部分がありそうです。私は雨彦のことを信頼していますし、リーダーとして私達を引っ張ってくれるあなたに、ついていきたいと思っていますから」
     そういう気持ちであれば、クリスも持っている。だからきっと、上手くスヴェンを演じることができるだろう。
     納得がいったと頷きながら隣へと視線を向ければ、雨彦は虚をつかれたような顔をしていた。
    「雨彦?」
    「……いや、お前さんはそういうやつだよな」
     そう言いながら、雨彦は少し照れたように笑う。
     クリスの言葉は時に雨彦を動揺させている、と聞いたのはいつだったろうか。いつもは余裕たっぷりな雨彦が、クリスの言葉にペースを乱されるのだという事実を、内心嬉しいと思っていることは雨彦には秘密だ。
    「しかし信頼、か……どうだろうな」
     含みのある言葉に、今度はクリスはきょとんとした顔をする。そこに異を唱えられるとは思ってもいなかった。
    「違うでしょうか?」
    「確かにスヴェンにもそういう面はあるのかもしれないが、意外と逆かもしれないぜ」
    「逆……」
     クリスには、雨彦の言わんとするところがよくわからない。不思議そうに首を傾げると、雨彦はふっと微笑む。
    「アロルドの方がスヴェンを信頼して、スヴェンの存在に甘えているってことだ」
    「アロルドがスヴェンを、ですか?」
     ああ、と頷く雨彦に、クリスはますますわからなくなってしまう。台本に目を通した限りでは、アロルドがスヴェンをそんな風に思っているようには感じられなかった。
    「スヴェンだけは自分についてきてくれるとわかっているから、アロルドはあんな風に振る舞えるのさ。誰か一人でも、自分を理解して側にいてくれるなら、怖いもんなしってところだな」
    「それは少しだけ、わかるような気がします」
     伝えたいことが誰にも伝わらなかった、わかってもらえなかった頃がクリスにもあった。
     けれど今のクリスには雨彦が、想楽が、事務所の仲間がいる。それだけで、クリスの中の恐れは、どこかに消えていってしまうのだ。
     雨彦はアロルドの中に、そんな一面を見つけたということなのだろう。
    「そういう意味じゃ、俺もアロルドと似た者同士かもしれないな」
    「雨彦が、ですか?」
     今日の雨彦の言葉は、クリスにはぴんと来ないことばかりだ。けれどその分だけ雨彦のことが知れるようで、もっとたくさん聞きたくなってしまう。
     じっと雨彦を見上げるクリスの頬を、雨彦がゆっくりと撫でる。その大きな手は、いつだってクリスに優しい。
    「ああ、お前さんが側にいてくれると思って、それに甘えているのさ」
    「そう、なのですか……?」
    「お前さんが受け入れてくれるとわかっているから、こんな風に台本に夢中なお前さんの気を引こうとだってしちまう」
    「雨彦……っ、ん……」
     やんわりと引き寄せられて、唇が重なる。
     その気になればいつでも逃れられてしまいそうな、優しい腕の中。それを受け入れてしまうのは、クリスも雨彦を望んでいるからなのだということは、ちゃんと伝わっているだろうか。 
    「アロルドは自分本位な男だが、俺も人のことは言えないな」
    「ですが私は、そんな雨彦も好きですよ」
     髪を梳くように撫でられるのが心地よくて、クリスは静かに目を閉じる。
    「ふふ、なんだかスヴェンの気持ちが少しわかったような気がします」
     雨彦が自分に心を許して、自分を望んでくれることを、愛おしいと感じる。側にいてもいいのだと、クリスの居場所はここなのだと、当然のように用意された彼の隣は、誰にだって譲りたくない。
     それはきっと、スヴェンも同じなのだと思う。
    「雨彦」
     台本を閉じて、静かにテーブルヘ置く。
     スヴェンを見つめる時間は終わりだ。この後は、雨彦だけを見て、雨彦のことだけを考えていたい。
     そんな意思が伝わったのか、雨彦が嬉しそうな顔をするものだから、湧き上がる愛おしさのままに、クリスは雨彦の胸元へと飛び込んでいった。
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