キミの名前『ヤスくん!』『ヤスくん?』『ほわあ、ヤスくんってすごい!』
あの子は多彩な感情を乗せて自分の名をよく呼んでくれる。呼ばれる度に、総てに赦しを与えそうな柔らかく優しい彼女の歌声を独り占め出来ている気がして、胸が熱くなった。
彼らの間に存在する関係性は“同じスタジオを利用するただの音楽仲間”という、至極シンプルなものだ。
たまに互いのライブを見学に行くくらいのなんでもない仲間。ただ一つ違うのは、自分があの子にどうしようもなく惹かれている事。
自然と癒されてしまう歌声、柔和な人柄に見えて遠方の故郷から此処まで一人旅して来た度胸、周りの空気を自然と解きほぐす明るい笑顔。それらへと触れる度に、彼の心拍数と体の熱は上がるばかりだ。
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