目隠ししてたらどこまでできるの?「先生ってさ、目隠ししてたらどこまでできんの?」
隣でスマホをいじっている悠仁の言葉に五条は「えっ⁉︎」と声を上げた。悠仁は五条の反応に全く興味がないようで、そのまま話を続ける。
「変顔はしてたじゃん。もっと他にもできんじゃね?」
「た、例えば?」
恐る恐る尋ねる五条。悠仁の顔がスマホから上げられることはない。
「んと、すんげぇダサい服を着るとか、ブーメランパンツを履くとかさ履いたり、全裸で外を歩くとかさ」
「────ッ!」
悠仁の口からすらすらと出てくる内容に五条は言葉を失った。どれもアウトなものばかり。特に、最後のものは確実に通報され、警察にお世話になるものだ。
五条は固唾を呑む。
「で、どこまでできんの先生?」
「ど、どこまで…………」
今までスマホに向けれていた悠仁の視線がようやく五条に向けられる。
光のない、何も映していない、冷たい目だった。いつもだったら読めるはずの彼の心が全く読めない。
背筋が凍り、冷や汗が止まらなくなる。心臓もばくばく鳴って五月蝿い。
五条はじわり、じわりと追い詰められていた。
「仮にも祓ったれ本舗を名乗ってんだからさ」
どくり、と心臓が一際大きく鳴った。口の中が一気に渇き、己の瞳孔が開いていくのがよくわかる。
何か返さなければと、五条は口を開いた。
「や、やめて悠仁。僕のライフはもう────」
「と、いう夢を見たんだ」
お土産の饅頭を頬張る悠仁に、五条は夢の内容を全て伝えた。
「ソレさ、本人に言っちゃうのヤバくね?」
「だってぇ〜。悠仁にしか言う人いないんだもん」
「だもんってWW」
五条は涙目で頬を膨らまして口を尖らす。悠仁がその白い饅頭を指で突っつけば、「ぶッ」と空気が抜けて萎んだ。
「思ったんだけど、俺に夢の内容を言うってことは俺に何かしてほしいことがあるってことじゃね?」
「ナニか?」
「ナニかでも」
二人して首を傾げて、顔を見合わせる。
「ナニかしてもいいの?」
「まぁ、先生だったら大丈夫じゃねぇかな?」
「いいの? いいの? 僕、悠仁のことが好きだからナニかしちゃうよ〜」
手をわなわなぬるぬると動かして、襲い掛かかる仕草をしてみるが、嫌がる気配はない。寧ろ、その手は悠仁によって絡め取られ、がっちりとホールドされてしまう。
「全然、ナニかしちゃっていいからさ」
歯を見せて笑う悠仁に五条は驚き、頬を染めた。高校生でもあるまいのに、手を握られたぐらいで心臓がどきどきし始め、五条は苦しくなってきている自らの胸元を掴んだ。
そして、悠仁から視線を逸した瞬間、襟ぐりを掴まれて引き寄せられた。
「悠仁」
「先生黙って」
首まて降ろしていた目隠しが悠仁の手によって引き上げられる。
目隠しなど六眼をもっている五条にはあまり意味がない。細かい表情がわかりにくくなるだけで、目の前の人物がどんな行動をしようとしているのか、呪力の流れでわかってしまうからだ。悠仁の顔が傾けられて、五条の顔に近づいてくる。
そして────五条と悠仁の唇が重なった。触れ合うだけの青いキス。火傷しそうなくらい熱いキス。
あっという間に唇は離れ、肌に感じていた吐息は唇から離れて耳元へ。
「俺さ、先生が目隠ししてたらここまでできるよ」
「…………」
そう堂々と言ってのける悠仁に、五条は言葉を失う。最近の高校生はこんなにも大体なのだろうか。自分の唇を人差し指でなぞった。まだ感触が残っている。熱と、高校生らしい手入れがされていない、カサついた唇。五条は唇を震わせた。
「ねぇ、悠仁……」
呼び掛ければ、目の前にあった呪力がふっと目の前から消えた。色々と混じった特有の呪力は大きな音と共に遠のいていく。逃げられたのだ。
「マジ?」
取り残された五条は呆気にとられながら、ぼそりと呟いた。同時に全身から力が抜け、五条は腰掛けていたソファからずるずる滑り落ちた。