にゃんにゃんぱにっく 東京の奥地に潜む呪術高専。その傍にある山や森には様々な生き物が住み着いていた。鳥肌が立つような見た目の虫から息を呑んでしまうほど美しい鹿、中にはカピバラを見たとも噂がある。高専にやってくる野良猫達もその一部だった。
高専を囲んでいる森に住んでいる野良猫がおやつを人間に強請る為、中庭にやってくる時がある。殺伐とした生活の中で訪れる、憩いのひと時。
勿論、あの五条でさえ体験している。それは青い思い出。まだ三人でいた時は猫のおやつを夏油と一緒にどっさりと買い込み、硝子に後輩の七海と灰原を巻き込んで野良猫達をここぞとばかりに構い倒していた。伝統は五条が高専生だった時から現在に至るまで続き、猫が里香に怯えて近寄らない憂太を去年見たばかりだ。悠仁もその程度だろうと五条は警戒せずにした。
この異常事態に気付くのが遅くなっただけではなく、あんな浅はかな行動に出てしまったのだ。
時は既に遅し。五条悟は虎杖悠仁に翻弄されることになる────。
五条がその光景を初めて見たのは書類を夜蛾学長に提出した後の帰り道。
二階から淡い赤色の
悠仁が一人でいた時だ。
「あ、悠仁じゃん」
思わず、ぼそりと声に出してしまう。
中庭でこっそりと猫を可愛がる悠仁の足元には、彼の靴が見えなくなるぐらいの毛玉の塊。どの猫も我先にと匂いを擦り付けている。
「悠仁ってば、僕だけじゃなくて猫にもモテモテなのねー」
くらいにしか思っていなかった。密かに想いを寄せている生徒に群がる毛玉どもに嫉妬心はあるが、野良猫達をライバルに認定するなど、そこまで落ちぶれてはいない。
次に見た時、五条はやっとその違和感に気がついた。一回目はこっそり遠くから見ていたので声を掛けず、距離もあったのであっちも五条に気付くことはない。
しかし、二回目は違ったのだ。
一回目と変わらず猫は蕩けていた顔をしていた。
悠仁が五条に気が付いたのだ。
「お、五条先生! おかえり!」
「ただいま、悠仁」
笑顔で手を振りながら挨拶をする悠仁は柴犬の如き。
「今回は地方出張だっけ? お土産
「
何気ない会話、他の生徒や七海から見なかったことにされている五条にとっては心のオアシス。
(ああ、なんて悠仁は可愛いんだろう)
そう呑気なことを考えながら視線を足下に向けた。手を振りながらこっちにやってくる悠仁を猫達が行かせまいと必死に止めていたのだ。蕩けていた顔が一瞬で鬼の形相へ。
正直に言って五条はドン引きし、トんで逃げてしまった。
(いや、誰だってあれを見たら怖くなるって。僕は悪くない、僕は悪くない)
何度も心の中で自分にそう言い聞かせて
逃げてしまった五条でもそれなりに疑問はある。
なんで猫があんな風に?
その答えを求めるべく、五条はアマゾンの奥地へ────なんて面倒なことするわけがなく、任務終わりに運転手を務めていた伊地知を脅すことにした。
「伊地知ぃ、僕とオマエって明日非番だよな?」
蹴りつければ、「ひぃっ」と情けない声が上がる。
「
「どこに向かうんですか?」
「そりゃあ、決まってるデショ。青島だよ、猫島」
「コンビニ寄れよ」
「理不尽っ……!」
深夜。伊地知の睡眠を犠牲にした運転により、
港まで
「猫が沢山いますよ、五条さん」
「猫島だからね。はい、ちゅーる」
「ありがとうございます。何故、ちゅーるですか?」
「猫のご機嫌をとるっていったらコレしかないでしょ」
「は、はぁ……」と受け取ると
「五条さんのご機嫌も簡単にとれればいいんですけどねぇ」
「伊地知ぃ~何か言った?」
「言ってません、言ってません……」
「じゃあ、僕は山の方に行くから。今から別行動な」