『春の兆し』※付き合ってない風情(両片思い)
まだ日の昇らない薄暗い朝、人界の南方に何千と存在する『南陽殿』の一つに光が降りた。
南陽殿の主殿内に降り立ち、風信はぶるりと体を震わせた。
「クソッ、寒いな」
まだ、明け方は随分と冷え込む時期なのだなと、そんな事を今更ながら知る。
ここの所巡察の任務も無く、ずっと上天庭にいたから気付かなかった。
上天庭のある神界と言うのは、年がら年中光に溢れ、暖かな空気が満ち、そこら中に花が咲き乱れている、季節もクソも無い場所なのだ。
“アイツ”に言ったら、きっとあの冷淡に見える顔に少し愉悦を混ぜた笑みを浮かべ、「そんな当たり前な事も分からなかったのか?」とでも言うんだろう。
いや、その前に、まずはこの神像をこき下ろす事から始まるんだろう。
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