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    白い桃

    @mochi2828

    @mochi2828

    白桃です。
    リンバス、アクナイ、その他ハマった色々な物

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    白い桃

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    キスを拒む博と拒まれるムリナールのムリ博です。後半はスケベです(当社比)。

    クランタのチン…て夢があると思って……
    馬の形と人の良い所を兼ね備えたハイブリットtntnが書きたかったんですが無理でした。
    よろしくお願いします

    #ムリ博

    Don't touch my rip! 夜。夜が来た。
     大地に住むであろう殆どの生き物が眠りにつく、昏い時間。疲れ切った身体を休める為に穏やかに過ごしても、萎んでしまった精神を少しでも奮わせるのに夜通し騒いでも、夜の帷はその全てを隠して包み込み、そして許してくれるだろう。

     嗚呼、夜と言えば。
     旅人の夜の歌、という詩がある。リターニアのとある詩人の作品で、たった八行程の短い詩だが数多の言語で翻訳されている位には有名な詩が。

     小鳥が森で沈黙し、眠りにつく。
     そうして待っている内に、やがてお前もこの小鳥のように憩うのだ。

     全文ではないが詩の一節、その訳を頭の中だけで誦じる。
     そう、夜は憩うものだろう。一人で過ごそうとも、愛しい誰かと共に過ごそうとも。それが自らの休息になるのであれば、前者でも後者でもきっと構わないのだ、と。
     ドクターは、夜と同じ程の暗い色に隠された己の頬に手を添えている、自身にとっての憩いになる筈の愛しい人。我らの頭上で見守るかのように光る月よりも、遥かに輝いて見える金色のクランタ──ムリナールの顔を、澄んだ瞳でジッと見上げていた。

     彼は、添えていた手をフードとフェイスシールドの隙間にそっと差し込んで、そのままドクターが深く被っていたフードを取り去った。パサリ、と音を立てて落ちるそれに視線を向ければ、自分から目を逸らす事は許さないというように、今度は頬ではなく顎を捕らえられる。
     ぼわ、と熱の籠った瞳と目が合って、それからムリナールの整った顔がドクターへゆっくりと近づいていく。最初は露わになった旋毛に口付けを一つ。そして二つ三つと続けて唇を落としていき、額や頬、本命である唇へ向かう為に、未だそのままであった顔の覆いをさっさと退けてしまおうと手をかけて──骨張った指に止められた。
     
     自身の行動を止められたのが不服だったのか、ピクリ、とムリナールの眉が動いて顰められる。何と言っても、止められる理由が解らないのだから、彼の反応は正常と言えるだろう。
     此処はドクターの部屋で二人きりの状態で。第三者は居る筈もないし、抱えていた仕事も無事に終わりこの場に持ち帰っている案件もない。何より今は、夜も深まってきた時間帯である。睦事ならまだしも口付け自体を断られる謂れはないのでは、と納得がいかないムリナールは、じとりと視界に入れる事が叶わなかったドクターの顔を睨め付けて、自分が納得出来るだけの理由を聞きだしていった。

    「……この手は何だ? 何故止める」
    「キスは駄目」
    「はあ?」
    「ゆっくり過ごすのは大歓迎だし、セックスも……マア良いけれど。キスだけは許可出来ないよ、ムリナール」
    「……身体は良くて唇が許されない理由が解らない。此処は部屋、仕事もないし特に緊急の問題が起きている訳でもないだろう」
    「そうだけど……とにかく、駄目ったら駄目なんだ。それも今日だけじゃなくて、うーん、一週間位?」
    「一週間? それを待つ間に、私は既にこの艦から発っているだろうな」

     理由は聞けないまま、期間だけを提示されてムリナールの額に青筋が走る。一週間? 冗談じゃない。その頃には己は故郷に戻り、またこの本艦に来る用が出来るまで、仕事にひたすら励む日々が続くのだろう。何が悲しくて情人の口を吸うのにそんなお預けを喰らわねばならんのか。黙ったままドクターを見下ろしていれば、隠された口から呆気らかんとした答えが返ってくる。

    「うん。少し期間を置く……それが狙いでもあるんだけど」
    「……何故だ? そう言えば今日の貴方は、依然として顔を晒さないな。日々の不摂生が祟りでもして、常に隠さねばならない程の吹き出物でも出来たか?」
    「……は? 何でキスの一つや二つをしないってだけで、そこまで言われなきゃならないんだ? そもそも、隠さなきゃいけないのも貴方とキスできないのも、全部ムリナールの所為なんだからな?!」
    「私の所為だと? はっ、全く身に覚えがありませんが。一体何を根拠に、そんな話をしている?」

     早速始まった、嫌味のようなムリナールの言葉にカチン、と苛立ちを覚えたドクターは声に感情と勢いをそのまま乗せて反論し、ムリナールもムリナールで身に覚えがない事を言われたが為に、何の事だと低い声のトーンを更に下げ問い質す。
     そっちがその気なら言ってやろうじゃないか──とドクターは声を荒げてムリナールを糾弾した。それはもう大きな声で。此処がドクターの部屋でなければ、隣人の誰かに聞かれているのではないか、という位の声量で、キスを拒むその理由を目の前の犯人にしっかりと告げてやった。

    「貴方がキスをする時、ずーーーーっと私の唇を舐めて吸って噛んで……またその長い舌でベロンベロンに舐めるから! 唇がもう荒れに荒れて、すっかり腫れてしまって! みっともない位に真っ赤になっちゃったんだよ! 深あいのをしてる訳でもないのに!!」
    「は、」
    「! ほら、証拠!!」

     グイ、と思っていたよりも呆気なくフェイスシールドが取られていったその顔の下部分。ムリナールの視線は直ぐに鼻から下、唇へと向かっていって、告げられたその箇所を黙って確認した。
     普段であれば色素も厚さも薄いと断言できる筈のドクターの唇は、今やぽってりと膨らみ赤々と腫れ、見ている方の唇がヒリヒリとしそうな位の状態になってしまっていた。皮も所々剥けてささくれていて、本人も気になって仕方がないのか、ちょんと捲れた小さな皮を摘んでは軽く引っ張って、という行動をとっている。
     そんな有様になっているドクターの唇を悪化させない為にもムリナールは、少しずつ弄るその指を止めながら、自分はそんなにもみっともなくドクターの唇を貪っていただろうか? と最近の夜においての、己の行動を顧みた。



     唇同士を軽く合わせる口付けを数回繰り返して、ツン、と少しだけ突き出された小さなそれを舌で一度なぞってから、薄く開いた口の中へ舌を差し入れる──のではなく、そのままドクターの下唇に舌の広い箇所を押し付けて、ゆっくり舐る。そうして舐った箇所を自身の唇で柔く挟んだのちに、傷つけぬように軽い力で歯を立ててから、じゅ、と強く吸い上げる。
     唾液の所為か吸い上げた所為で赤くなってしまった故か、ぷるんとして見えるドクターの唇を一頻り眺めて満足してから。ムリナールは己の厚く、長い舌を漸くその口内に捩じ込んだ。



     なんて、そんな何時何度目かの夜の出来事でありましたが。
     己の行動を振り返り終わったムリナールはソッ…と顔を逸らして、しっかり剣だこが出来ている自慢の大きな手のひらで自らの顔を覆い隠す。
     そして、普段であれば威厳に溢れ全てを断ち切るように発する声を、それはもう小さくちいさく潜めて心底参ってしまったのだろうな、と思われる位の静かな声色にして、「……すまなかった」と額に汗をかきながら謝罪を絞り出していた。
     本当に無意識、と言うか自分でもそんなにしつこく口付けていた自覚が無く。居た堪れなさでムリナールの頭上の耳がぺたん、とへたり込んでいった。
     理解したのなら宜しい、とドクターは口の前まで手を上げて、それから両の指でバツを作り無慈悲に嫌の意思表示をする。

    「治るまでキスは致しません」
    「待て。重ねるだけならそこまでの負担は、」
    「重ねるだけえ? 今までの経験から見て、貴方を信用出来ないから言ってるんだよ」
    「ぐ、ぅ……だが、また暫く会えない日が続くだろう」
    「んん……そ、そんなにしたいの?」
    「したい」
    「はあ。…………一回だけだよ」

     待ってましたと解りやすく顔も耳もバッと上げる恋人に、たは、と破顔しながらドクターは、よちよちベッドの上を手足で這って歩き彼に近寄った。キス自体が嫌なのではなくて、治す為には必要な事なのだという想いを伝えるべく。熱を乗せた瞳でジ……、と彼の黄金を見つめてから、そっと引き結ばれたその唇に自分から口付けた。
     ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて一回。やはり名残惜しく思うのか、更にもう二、三と単調な動きを繰り返すドクターをムリナールは一通り眺めてから。口を薄く開き、向かってくる唇に己の舌でぴとりと触れた。触れた瞬間に、ハッとしてすぐに引っ込めたものの、目の前の瞳がジト、とした恨みを込めて睨んでくるのを見て、ムリナールは肩と耳を下げていった。

    「…………違うんだ」
    「癖になってるじゃないか……」
    「キス……」
    「今日はもう閉店でーす」

     ガラガラーと言いながら、ドクターは先程下げたフェイスシールドを元の位置へと戻していく。そして、肩と耳、何なら眉も頭も下げているムリナールを見て少しの罪悪感を覚えつつも、心を鬼にせねば治るものも治らない、と丸まった背中に手を回しよすよすと慰めた。
     ムリナールの手から比べれば随分とちんまいサイズの手のひらが、腰の少し上に当てられてゆっくりと背骨に沿って上へと昇る。そうして今度はみっちり詰まった筋肉の、でこぼことした凹凸をなぞりながら下へ下へと向かっていって、また昇って。そんな風に手を行ったり来たり動かしながら、ドクターは空いている方の手を彼の首裏へと回し、グイ、と顔を近づけて囁いた。

    「私だってキスはしたいんだからさ。少しだけ辛抱してよ、ね? 可愛い人」

     こしょこしょ耳元で話しかけて、カプリと耳たぶに齧り付く。チロチロ煽るように舌先で擽ってからすぐに口を離し、体重をかけて二人でベッドのやらかいマットレスへとダイブした。「今日はハグしながら寝よっか」なんて何でもないように言いながら、ムリナールの逞しい背に回した腕でぎゅうとしがみつけば、むすりとしているムリナールがペッ、とフェイスシールドを取り上げて、部屋の何処かへと放り投げてしまった。
     
     落ち込んだのが治ったと思ったら、今度は機嫌を損ねてしまったかとドクターが眉を下げて笑っていると、旋毛にじんわりと温かく、柔らかいものが当てられる。その温かさは額へと移り、やがて頬や擽ったさに閉じてしまった瞼へと向かっていった。要は唇にだけ口付けなければ良いのだろう、とムキになったかのように顔中の至る所に唇を落とされている。
     そんな彼とこそばゆさにくふくふ笑って、ドクターは穏やかな眠気に揺れるとろりとした声で「おやすみ」と呟いた。コツンとムリナールの胸に額を預けてゆったりすやすや眠りに着くドクターを見て、釣られてしまったのか彼もくわ、と欠伸を一つ。
     そして起こさないように気をつけてモゾモゾ体勢を整えてから、ムリナールも漸く月みたいにキラキラ輝くその瞳をギュ、と瞼の奥に押し込めた。


     ⬛︎


     その夜から、幾らムリナールが表情を切なげに歪めながらいじらしく「頼む、ドクター」だとか、「貴方が恋しい」であったりとか、普段の彼であれば言わないような様々な言葉で強請ってみても、ドクターから返ってくるのは一貫して、ノーとバツ印の二組のみだった。
     決して触れ合う、話し合うのが嫌な訳ではないので夜は共に過ごし“は”するのだ。ムリナールの膝に乗ったドクターがそのまま彼を背もたれにして、腹の辺りで組まれている手や時折覗き込んでくる顔などと戯れながら、ゆったりと一緒に一つの本を読んだり。
     互いにギュウギュウと抱き締め合って隙間を埋め、それからドクターはムリナールの胸元にゴロゴロ懐きリラックスをする。ムリナールはムリナールで、自らの胸に押し付けられている透き通りつつも、日頃の無精か乾燥の所為か少しパサついた髪の毛をくるり、と指に絡めて巻き取りツルツルさらさらとその感触を楽しんだり。

     そんな風にして過ごしつつも、やはりふとした瞬間にムリナールの視線は、ドクターの赤くぽってりと色付いた唇へと向かってしまうのだ。
     己の所為で腫れてしまった唇は昨日よりツヤツヤと輝いて見え、腫れて深い赤に覆われている故に毒々しさが増し、余計淫靡に見える。彼の髪が黒曜ならばその肌の白さと背格好も相まって、御伽話のスノーホワイトもかくや、と言う所であろうか。
     マァ幾らそんなくだらない事を想像したとして、ドクターが己が好いたドクターである事は変わらないし、自分を乱す彼の唇の毒々しさと艶やかさが変わる訳でもない。そこまで考えてムリナールは「ん?」と違和感を覚えて顔を上げる。ドクターの唇はやはり昨日より遥かにツヤツヤしていた。
     色も軽い腫れもそのままだが、部屋の明かりに照らされてらてらと艶めく唇の違和感を確認する為に、ムリナールは深い赤をじっくりと見つめて──仮初のスノーホワイトに「見過ぎだよ」と、クスクス揶揄うように笑われた。弧を描いソレにやっと違和感の正体を悟った彼は、そのままそっくり浮かんだ言葉を口に出す。

    「……何か、塗っているのか?」
    「あ、解る? ミュルジスに相談したら、未使用のリップクリームがあるってそのまま貰ったんだ。女性用? のだから少し何だか厚ぼったい気もするけどね」

     ドクターはロドスに居る女性達の中で、自分が一番相談しやすい存在だと思った彼女に、唇が荒れてしまった時どんなケアをしているのかを聞いたのだ。
     そうしたらミュルジスはポカンとかわゆく口を開けて、「スクラブしてからしっかり保湿してるけど?」と容易く教えてくれたのだが。聞き慣れない単語が出て来た故に、ドクターはすくらぶ……と首を傾げて、それをまたかわゆい彼女に笑われて。それから、これ私が愛用してるヤツ! とパッケージを開けたばかりのリップクリームの未使用品を渡されたのである。
     今度買って返してくれたらそれで良い、と軽い調子で言って、理由も特に聞かずにリップを与えてくれたミュルジスに礼を言いつつ、その場で別れ渡されたソレを有り難く使わせて貰っている、というのがドクターの唇をツヤツヤにしている物がある事の経緯だった。

    「って訳なんだけど」
    「……荒れた原因を聞かれなくて本当に良かった」
    「や、流石に聞かれてもそれは言わないかな……」

     話している最中にも口元を見続けているムリナールに、ドクターは苦く笑う。
     大概の事は相談として話せる程に彼女と仲が良い自信はあるが、それでも「恋人とのキス、ソレも中々のヤツをし過ぎて唇が荒れました」なんて話をしたのなら、どんな苦情が入っても可笑しくはないだろう。きっとアーミヤに諸々の事情を聞かれる前に証拠隠滅、とケルシー辺りに物理的に首を千切り取られてしまう筈だ。ロドスに相談窓口のような存在があるのかは知らないけれど。
     
     はは、と空々しい声を漏らしたドクターの頬をムリナールはもちもちと弄りながら、その指で保湿されている唇をツン、とノックした。ぷにぷにとした感触と保湿剤特有の纏わりつく感覚を一遍に楽しんでいれば、「いーっ!」と嫌がったドクターが首をブンブン振って指を退ける。
     スリスリと名残惜しむように、細い顎や口周りを親指で丹念に擦ってから、ムリナールはようやっと観念したのか重い溜息を吐き出した。次いで、ゴソゴソとコートのポケットを漁り、今の心が荒みきった自分に必要なアイテムを取り出していく。
     ゴツゴツとした大きな手には、購買部で一番安く売り出されているそこまで質の良くない煙草が一箱と、百の龍門幣と消費税で買えるチープな作りのライターが握られている。それをドクターは意外そうに見つめてから、「煙草吸うの?」と尋ねつつムリナールの腕にモチ! と頬を押し付けた。

    「別に好んで吸う訳ではないが、吸えない事もない」
    「ふうん?」

     太い腕に頬をペちゃりとくっつけたまま、ドクターは見慣れぬ煙草に指先でチョイチョイ悪戯をする。好んで吸うのではない、という事は吸わざるを得ない理由がある訳であって。
     嗚呼口寂しいのだな、と彼にしては可愛らしい理由ににんまりとした笑みを浮かべた。その笑みに一度バツが悪そうな顔をして、これまた観念したのか何も言っていないのに、「口寂しさに耐えられなかったら、吸おうと思っていただけだ」と言いながらピッ、と煙草のフィルムを切った。
     
     煙草を指に挟みフィルターを咥え、直ぐに火をつける。そうした一連の流れを、ドクターは興味がありそうな様子で眺めていた。
     深く煙を吸い込んだ際に動く胸板、ほんの少しの力で煙草を挟む節榑立った長い指。だらしないというには色気がありすぎるように思える、薄く開いた唇。そして、何を考えて見ているのか解らない、大して感情の乗せられていない気怠げな表情。そんな男盛りの全ての魅力を詰めました、みたいなムリナールの姿を見て、ドクターはちょっとした欲を抱いてしまった。

     一度も使った事のない備え付けの灰皿にトン、と灰を落とし、また煙を吸い込もうと口元に手を持っていくムリナールの、少し傷がついた如何にも鍛えている人間特有の手の甲に、ドクターは欲に動かされるまま、ちう、と口付ける。
     キスは駄目だと言っていたその人から与えられた唇にムリナールはギョッとして、うっかり煙草を落としかけた。何とか落とさないよう指に力を込めながら、どういう心持ちなのかと気まぐれな恋人に、胸をドギマギさせながら問いかける。

    「な、何だ。どうした」
    「煙草吸ってるだけなのに、何だかセクシーだなあって」
    「……そうか」
    「手の甲だからセーフだもんね。私からしてるから、やりすぎる事もないし」
    「あ、ー……くそ、ドクター。私もキスがしたいんだが? 唇もしっかり保湿しているようだし、なあ、一回だけなら良いだろう……?」

     頭上にある可愛らしいふわふわした耳を、見ている方が可哀想になる程に倒しながらも、キスを拒んだ理由を思い出させた時より遥かに熱を感じる表情で、懇願するムリナールを見てドクターは驚いた。この人はこんなに哀れっぽく、そして甘えるように強請る事ができるのか、と。口角が上がる。だってこんなにも素敵な人に、自分だけがこんな顔をさせる事ができるのだと思うと、それはもう誰だって堪らなくなるだろう。
     仕方がないと言った様子で、「……一回だけだよ?」とドクターが許可を出せば直ぐさま灰皿にジュウと煙草を押し付けて、ムリナールはその唇に吸い付いた。けれど、今までドクターを散々困らせたようなキスではなく、余裕がなさすぎるティーンのような。そんな勢いで長い舌を真っ赤な唇の中へと突っ込んで、ちいちゃな薄い舌を絡め取って余す所なく掻き回す。
     ドクターは互いの唾液と差し込まれた厚い舌に溺れそうになりながら、いつもの技巧も何にもない欲に任せたキスを受けて、随分おぼこい反応をするようになったな、と胸の中だけでコロコロと笑うのだった。


    ⬛︎


     ムリナールが珍しくも沈んだ様子でカジミエーシュへ戻っていくのを、ヒラヒラ手を振りながら見送ってから幾日経って、ドクターの唇は落ち着きを取り戻しつつも、以前より遥かに綺麗な状態になっていた。中途半端に剥がれ、ささくれた皮もなければ腫れてもいない自分の口にそっと指を当てる。例え熱い食事や辛いものを食べたとて、痛み染みる事もないのが嬉しいと、最近のドクターはさながら虫歯の治った子供のようにご機嫌だった。

     熱いコーヒーを淹れたマグカップに口をつけ、ズズ、小さな音を立てて啜りながら、検閲が済んでいる“ロドスのドクター”へと宛られた手紙や荷物をゆっくりと確認していく。
     これは以前にアーミヤの代理として参加したパーティの開催者から。この押し花の栞やキャンドルは、きっと子供達からの贈り物だろう。それぞれ並んでいる小さな包みは、本艦に居ないオペレーターが、「自分は今こんな所にいるよ!」と細やかながらも送ってくれるお土産達か。クッキーのような日持ちする焼き菓子から、紅茶の茶葉、入浴剤までと様々な品があって。バリエーションが豊富だなあ、とゆったりと眺めるのが、ドクターが小休止を取っている時の楽しみの一つである。
     その中の一つ。黒地に金のラインが入り、ラメがキラキラと反射し映えて見える細い金色のリボンで括られている、シンプルな包装の小箱が目に入った。今現在本艦に居ないであろう、一癖も二癖もあるオペレーター達の中で、一見シンプルながらも小洒落て見えるような小箱を贈るセンスのある奴は居ただろうか。それもきっと男達の中で、だ。
     
     うーん? と考えながら、細いリボンの結びを解いていく。シュル、といとも簡単に解かれたソレを横に置いてから、そーっと箱を傷つけぬように開けてみた。
     中には柔らかな梱包材に、見覚えのあるリップクリーム。ドクターがミュルジスから貰った、彼女の愛用品だ。そして、その隣にもう一本。此方はちっとも見覚えがないが、形状的にリップクリームで間違いはないだろう。それから隙間に雑に捩じ込まれている煙草の箱が一つと、小さなメモ用紙。
     二つ折りにされたその紙を手にとって、かさりと軽い音に促されるまま開いていけば。この小さな包みの贈り主のように、硬く見えつつも綺麗に整った文字に反して、短くかつぶっきらぼうな文章が綴られていた。さらりとした紙には、「貴方も口が寂しくなったなら、一日一本。これに火をつけると良い」と書かれている。
     直ぐにその、手紙とも言えない文章を読み終えてしまったドクターは、だは! と大笑いしながら足をダバダバと動かした。

    「ズーールーーーー!!」

     彼が目の前に居れば咎められそうな位に笑って、ブチ上がったテンションのまま見覚えのない方のリップクリームのパッケージをブチ開ける。
     商品説明やリップの外見を見るに、男性用のケア用品らしい。実はミュルジスから貰った事だとか、私が付けない筈の香りとかに嫉妬してたりしたのかしら。なんて、故郷にいるであろう男に聞かれたらさぞ怒られそうな事を考えてから、自分の唇に新品のソレを滑らせて、ついでに煙草も開封する。
     ムリナールは一日一本と言ったけれど。この箱の中身が無くなる頃に、彼は私の所へ来てくれるのだろうか。いや──。

    「私の方から会いに行くのも、良いかもしれないね」

     口元にシトラスの香りを乗せながら、苦い煙も辺りに漂わせて。
     ドクターは煙草を片手に端末を弄り、慣れた手つきでカレンダーを開く。既に入っている二十日後、否十九日後のスケジュールや業務内容諸々を確認し、太腿を軽く叩いて立ち上がる。画面はさっさと通話画面へ移行して、綺麗な液晶に映る名前はロドスが誇る女医の名前だった。

    「すまない、ケルシー。カジミエーシュ近辺でやろうとしてた仕事があったろう?アレを──」

     煙草をジュ、と灰皿に押し付けて、話しながら部屋を出る。これから少し忙しくなるぞ。……彼女の許可が出れば、だけれど。
     淡々とした声で、急すぎる提案を偉大なる我らがケルシー先生に詰問されつつドクターは笑った。癒される予定があるのならば、多忙なスケジュールなんて些細な事だろう、と。
     詰めに詰められた仕事に煙草、それから自身のケア用品。嗚呼、全く──寂しくなる暇なんてないんだろうなあ!



      
    Don't touch my rip!
    (寂しいから吸うんじゃなくて、貴方が恋しいから火をつけるのさ)







    注意!


     ここから先はすけべになりますのでワンクッション置いてます。
     濁音、♡喘ぎ好き勝手してますので苦手な方はご注意下さい。






    ⬛︎



    「ん、……っは、ム、リナー、ル……」
    「……ふ、……、ぅ……」

     ちょっとの息継ぎの時間も惜しい、と黄金色を持つクランタは腕の中にいる最愛をしっかりと抱き締めながら、その薄い唇を貪り喰らう。
     完全に癒され以前よりもつるりとした唇を喰んで舐り、早々に舌を捩じ込み擦り付けて。尖らせた舌先で小さな上顎をチロチロ擽ってから、ムリナールは戸惑うような動きをしているドクターの舌に肉厚な己のものを絡ませ、可愛らしく揺れるその動きすらも阻害した。
     最早どちらのかも解らない唾液を飲み下し、気持ち良さと酸素の薄さの所為でクラクラとし始めている恋人の姿を見て、ムリナールは漸く唇を離す。銀の糸が引いて、ぷつりと途切れていく様をドクターは濡れた瞳でぼんやりと眺めながら、自分を見下ろしている金色の、その眼から見て取れる熱。その温度の高さに身震いした。



     カジミエーシュに居る筈のムリナールの腕の中に、どうしてドクターが居るのかと問われれば。自分から会いに来た、と言うしかないのだけれど。
     仕事にどうにか都合をつけて、ドクターは多少の倦怠感を抱えたままカジミエーシュの支部へと向かった。ケルシーには呆れられ、アーミヤには心配そうな顔をされたのを何だかんだで流しつつ、件の恋人にはどんな顔をされるだろうか、というワクワクを胸に抱いて彼の故郷へ赴いたのである。
     勿論護衛のオペレーターは必須であるが、目的地にさえ到着してしまえば後は帰りまでそれぞれ自由行動が取れるだろう。なんたって、今回の目的はムリナールに会いに行く事なのだから。
     彼の側であるならば、幾ら護衛につくオペレーターがどんな腕前の持ち主であったとしても、特に文句は出ないし、人によっては出せないだろう。そうなってしまえば後はもう此方のものだ、と着いて諸々の準備を終えたドクターは、カジミエーシュに着任しているオペレーター達の歓迎をそこそこに、目標の部屋へと向かうのだった。

     少し本艦のデザインに似ているように思える扉を軽くノックする。
     コン、と軽い音を立ててからソワソワしつつ数秒待ち。そうこうしている内にガチャ、と目の前の扉がゆっくり開いて、「……何か?」などと、ドクターがいつも耳にしているよりもずっとずっと低い声で、部屋からのそりと顔を出した男は言う。
     その瞳が段々と開かれていって、彼の表情が全部驚愕に染まった頃に、ドクターは「や、ムリナール」と手を挙げて挨拶をしたのだった。

     ムリナールの故郷は確かに此処であるものの、一々家に帰るのも億劫だし、仕事をするに当たって部屋があった方が良いだろう、と本艦のように一つ部屋が割り当てられている。ドクターはそれを知ってはいたものの、その部屋に入るのは今日が初めての事だった。
     呆然とした顔のムリナールの横をするりと抜けて、此処がムリナールの部屋なのか、とドクターは良く見えるようにフェイスシールドを外しながら、キョロキョロと辺りを見渡していく。その姿を見てやっと理解が追いついたのか、ムリナールは静かに「……ドクター?」と訪問者の名を口にした。
     そんな恋人の様子にドクターは軽やかに笑って、持ち歩いていた小さな箱をするりと取り出し、手のひらに置いたソレをムリナールの前に差し出す。それから、かぱ、と蓋を開け三本しか入っていない中身を見せつけて、その顔を綻ばせた。

    「一日一日、日を追いながらこの煙草を慰めにしていたんだけど……。流石に貴方が恋しくて、待ちきれなくなっちゃった」
    「だから、遠路遥々カジミエーシュまで足を向けた、と?」
    「そう! 貴方の贈ってくれた物で唇もしっかり綺麗になったし! ほら、どう?」

     ドクターはムリナールの手を取り、そのまま己の頬へと当てさせる。そして彼の親指をしっとりとしている唇へと移動させて、その感触を楽しんでもらおうと宛てがった。それが間違いだとも気付かずに。
     ドクターからしてみれば、「貴方のお陰で綺麗になったんだよ!」という完全に善意からの行動であるが、ムリナールからすればその行為はもう、ただの起爆剤に等しい物だ。
     それもその筈。散々“待て”をさせられた唇に自分から触れさせて、あまつさえ溢れんばかりの好意と恋しい寂しいと泣くその心に触れさせた。
     濡れたような感触を親指で味わいながら、ムリナールはドクターを静かに見下ろして嗚呼、と思う。このような、余りにも毒に近い劇物に触れてしまったのなら。

     ──此方も溢れるに決まっているではないか、と。

     ドクターの唇に触れたまま、空いた腕で目の前の身体を強く抱き締める。片腕とはいえ、ムリナールの体格からすればドクターの痩せた身体を覆う事など容易いもので。一度額に口付けてから、とろりと安心したように微笑むドクターの、その柔い唇にムリナールは衝動のままキスをした。


     
     再びじゅる、と唾液を啜る音。
     最早何度目のキスかもあやふやになったドクターは、頭蓋に染み入るようなその音のおかげで、ぼんやりとしていた意識をどうにか引き戻した。啄んでくる唇を首をイヤイヤと横に振る事で逃れて、筋肉で覆われている胸板をすっかり力が抜けてしまった腕で、咎めるみたいにきゅ、と押す。そうしてようやっと深い呼吸ができるようになった所で、ハフハフと乱れた息を落ち着けていった。

     その様子を目の前の男が面白いと思う訳もなく。
     ムリナールは眉間にも口元にも力を入れて、不満だと言う感情を隠しもせずにドクターを見下ろしている。何故、とでも言いたげのその表情にドクターも心底呆れたような顔をした。確かに自分も浮かれていたし、キスもしたかったが。幾ら何でも執拗過ぎるだろう。意思の表れとして逞しい胸をドン! と強く叩いてから、ドクターは自らの口の端をペロリと舐めてその口を開いた。

    「もう、しつこいったら……。また荒れちゃうだろ!」
    「……すまん」
    「まァ久々だから良いけど。……その、さ」
    「ん」
    「そんなに唇が気に入ったんなら……口で、する?」

     ぽそ、と小さく紡がれたその言葉を、優秀なムリナールの耳は聞き逃す事は無かった。
     己が散々貪った、あの口で。色々と。そりゃあもうと想像してしまった彼はぐ、と押し黙る。グルグルと巡る思考や感情をちょっとした時間をかけて抑えつけ、沈黙したムリナールが出した答えは、「……しなくていい」の一言で。
     苦渋に満ちた決断だったのだろうな、と解る程に歪められた顔だった。この提案が嫌な訳では無かったのだ、とドクターはホッと胸を撫で下ろすも、どうしてそんな表情をしてまで断ったのかが理解できず、ムリナールの腕の中で軽く首を傾げる。

    「なんで? 気分じゃない?」
    「いや、魅力的にも程がある提案だった。だが……」
    「無理はしないけど……あ、他に何かして欲しい事がある?」
    「そうだな、何と言えば良いのか……。貴方は、その、咥えた後にキスをしたがらないだろう?」
    「そりゃそう。ばっちいでしょ、気分的にも良くないし」
    「私はキスをしたい。離れていた分、待たされていた分ひっくるめて、貴方の唇が欲しい」
    「ああー。……成程?」

     合点がいった、と目を細めてから手を叩く。こんな所が可愛いと思えちゃうんだよな。そんな事を思いつつドクターはにっこり笑って、ちゅうと自分から唇を押し付けた。
     頬や顎先に可愛らしい音を立てながらスタンプし続け、仕上げだとでも言うように最後はムリナールの大きな口に向かって唇を滑らせていく。ふにふにと到達した箇所をある程度堪能してから、「あ、」と間抜けた声を出すドクターを見て、今度はムリナールが首を傾げる事になった。

    「どうした?」
    「あー、えっと……そのぅ……耳、貸してくれる?」
    「何をそんなに……構わないが」

     モゴモゴと、どこか言い難そうにしている彼の為にムリナールは傾けていた首を更に倒して、ドクターの頼みの通りの体勢になる。ホッとした様子でムリナールの耳──頭上にあるクランタの耳ではなく、顔の直ぐ側にある、他の者と同じ形をした方の耳だ──にちょい、と触れながら、ドクターは申し訳なさそうにこしょこしょ囁いた。

    「あのね……? お腹の中はキチンと綺麗にしてきたんだけど、シャワーは浴びれてないんだ。……ここのお風呂、借りても良い?」

     ヒソヒソと囁かれる事によるこそばゆさと、与えられた内容の衝撃にムリナールの頭上の耳がぴる、と揺れる。この人は今何と言ったのか。考えて考えて、ごちゃごちゃ頭の中を掻き混ぜてから。ムリナールは溜息を吐いて脱力し、目の前の身体を掻き抱いた。
     目の前の人間はどうしてこう、人を煽るような事を簡単にほざくのか。恐らく指摘しても治らないだろうな、なんて感想を浮かべながら、浴室を借りても良いかという問いに対しての解りきっている返答を、形の良い小さな耳にしっかりと聞こえるように入れてやった。


    ⬛︎


     我慢していたさせていた詫び、とまではいかずとも罪悪感に似たものは感じていたからこそ、直ぐにでも身体を重ねられるように準備をしてきた筈なのだが。
     当のムリナールは肝心の空っぽな腹の中には未だ触れず、首や薄い腹の上をなぞるだけの単調な動きに留めたり、かと思えば急に服の上からかり、と硬い爪で乳首を引っ掻くなどの刺激を施してくる。
     じわじわと身体の熱を着々と高められているドクターは、「んぅ、」と小さく喘ぎながら白い喉を軽く反らす。そしてその熱で茹る頭で、少し前に自分が確実にムリナールの耳元で告げた言葉を何とか引っ張り出して、浮かんだ疑問が一つ。自分の言った言葉は誘いの内に入らないのかしら。なんて事を、結局シャワーを浴びる事はできなかったドクターは、ムリナールの腕の中でふるりと震えながら考えていた。

     唇で柔く首筋を喰みながら、ころりと収まっている鎖骨に齧り付いて。カリコリ感触を楽しみつつ、武骨で節くれだった指はその見た目に反してリズミカルに、一定の速度で隠された突起を掻いては弾いてを繰り返している。
     その度に身体を震わせ控えめな声を漏らすドクターの様子を、ムリナールは目を細めて眺めていた。この賢人の理性が己の手によって、じっくりと火に炙られるように削られていく様を見るのが心底楽しいのだと。されどもその視線からは、愉悦よりも熱情などの想いの方が読み取れるようだった。
     自らの手管に翻弄されて乱れてくれるのが堪らなく楽しい、嬉しいと思いながらも、その行動原理はあくまでもドクターの愛情から来る物である。故にムリナールは、ドクターが与えられる快楽によって、どれだけぐちゃぐちゃのドロドロになって酷い有様になったとて、その顔がどんな表情をしていたとして。柔らかに目尻を下げて、その全てを「可愛らしい」の一言で受け止めるのだけだった。

    「ァ、は、うぅ……、、ッ……、……なん、でぇ……?」
    「ん……? どうした、ドクター」
    「ぅッ♡ ど、して、は…ふ、ぅ……ぅあッ……♡♡」

     ムリナールはずっと、服の中で勃ち上がってしまった粒を布越しに弄り続けている。繊維を乳頭の割れ目に押し付けるように擦り、尖ったそこに軽く爪を立てて穿って。すっかり開発されて敏感になってしまった箇所を執拗に弄られてしまえば、ドクターの身体の主導権はムリナールに渡されたようなものだった。
     
     パカ、と開きっぱなしの口からはとろりと唾液が滴り、身体は熱に促されるまましっとり汗ばんでいる。くったりと力なく投げ出された足は、与えられる快感によって跳ね上がっては爪先が丸まり、弛緩してを繰り返していた。
     裾の長い防護服の所為で詳しく見る事は叶わないが、股座もきっとドロドロで、さぞ美味そうな事になっているのだろう。ちろ、と舐めるような視線をムリナールは、「、♡ひ、ぃっ♡♡」と腕の中で縮こまってガクガクと身体を揺らし、“美味そうな状態になっている”存在に向けていた。

     そんな蕩けてしまうような快楽を与えてくる腕に縋り付くようにしながら、ドクターは何とか自分の意思を伝えようと口を開く。服をクイクイ引いて喘ぎを交えつつも、どうしてやらなんでやらを譫言のように話しているドクターの旋毛に一度口付けてから指を止めて、ムリナールは意地が悪く聞こえないよう慎重かつ丁寧に聞き出してやった。
     止められた指に安堵したのか、ふ、ふぅ、と頬を真っ赤に染めて息を整えるドクターは、不気味な程に穏やかな瞳をしている男をソロソロと見上げてから、口から伝う唾液を拭いつつ先程伝わらなかった誘い。その時に抱いた疑問を口にする。
     
    「あ、のさ……お腹の中ちゃんと綺麗にしてきたんだけど……? その、しっかり解した訳じゃ、ないけど……ローションも持ってきたし……」
    「先程聞いたが。それが一体何だと言うんだ」
    「うん。だから、その、い、挿れないの……? 直ぐに出来たら嬉しいかな、と思ってちゃんとしてきたんです、ケド……」

     段々と小さくなっていく声にムリナールは溜息を吐きたくなってしまった。何を今更照れているのかと。
     ドクターの服を解くに急いだ様子も見せずに剥きながら、吐く息の代わりに薄い腹の上に大きな手のひらを置き、押し込むように全体に力を入れる。
     
     ゆっくりと、じんわり浸透させるかの如く込められていく力と重さに、不意に訪れた質問タイムという名の休憩でどうにか整えたドクターの呼吸が、また少しずつ乱れ始めた。外側からぐうっと押されている筈なのに、腹の内がグパグパと収縮して、蠢いている感覚がする。くぅ、と幼い雲獣のように控えめに鳴いて健康的な色のゴツゴツとした手の甲の上に、生白く骨ばった手を置いた。
     止めてくれとでも言いたいのか、きゅうと握られる己の手を静かにムリナールは眺めている。痩せた手の、ぬるい体温が精一杯動くのを一通り見届けて、それからドクターの誘いを聞いていないように振る舞う理由を、ダメ押しと言わんばかりに腹に手を押し付け乗り上げるみたく体重をかけながら囁いた。

    「貴方の思惑通り、今直ぐにでもナカへと挿れて、しゃぶりつく胎の感触を楽しんでも良いんだが……」
    「ん、、耳やだ、あ……ッ♡」
    「生憎と、離れていた分時間をかけて貴方の身体に触れていたくなった。堪え性のない私をどうか許してくれ、ドクター」
    「ッ?!♡ぁひ、なん、ふ……♡♡ぃ、ぁ……♡」

     桜貝のように赤く染まった可愛らしい耳に齧り付き軟い骨をコリコリと歯で動かしながら、ムリナールはしっとりとした声をドクターの頭蓋の中へと入れていく。耳触りはとても良いのに欲に塗れた低い声が、するりと流れるように鼓膜に入る。蕩けそうなバリトンが脳髄から背骨の内側へと染み渡っていく心地がして、ドクターはゾクゾクと身体を震わせた。
     しかしドクターの想いを無碍にするのも如何なものか、と耳朶を唇でなぞりながら彼は考え直すように視線を上へと向ける。悪戯に耳の奥へ息を吹き込んだり、舌で擽ったりをする内に答えが出たのか、ドクターが持参したらしい荷物の所在を尋ねていた。
     
    「……だが、そうだな。貴方の言う事も一理ある。ドクター、持ってきた物は何処へ?」
    「、ぁ♡かじ、かじるの、、めて゛、ッ♡♡なか、ポケットのか、っ!」
    「そうか。失礼、少し漁るぞ」

     はひはひと息も絶え絶えにしているドクターから少し身を離して、ムリナールは分厚い防護服のポケットへと手を入れ、触れていく物全てを取り出した。
     
     自分が与えたであろう軽くなった煙草の箱にリップクリーム、それからメモ用紙と飴玉が二つ。
     子供の持ち物のようでいて、煙草の所為でアンバランスになっている荷物を見てムリナールは目尻を下げる。目当ての物はなかったが、これはこれで面白かった。定期的に持ち物検査でもしてやろう、と思いながら反対側も漁っていくと、つるりとした筒状の物が指先に引っかかって、これがそうか、と小さなそれを掴んで引っ張り出した。
     大きな手に握られているのは、小さめながらもそこそこの量が入っている液体のボトルのみ。確かに目当てではあるのだが、これの他にもう一つ荷物がある筈だ。ムリナールは首を捻りながらドクターに再び荷物の在処を問いかける。

    「ドクター、スキンはどうした? ローションまで用意しておいて其方は忘れたのか?」
    「、……? スキン……コンドーム?」
    「ああ」
    「持ってきてないよ……? クランタ用のなんて解らないし……サイズだって知らない」
    「……そうか。いや、そうだな」

     失念していた。
     それはそうだ、態々自らのサイズを伝える事などする筈もないし、クランタではないドクターがそんな場所の細かな所まで思い描く事も難しいだろう。それが理由で物の用意していたのはいつも自分自身だったのだ、と額に手を当てる。この部屋でドクターに会うなんて欠片も想像していなかったから、在庫なぞある訳もない。
     どうしたものか、なんてムリナールが考え込んでいれば、防護服とスラックスをいつの間にか脱ぎ捨てて薄い白衣とインナーだけの姿になっていたドクターが、のそりとムリナールの足の上に身体を乗せていた。
     白衣の生地が薄い所為で、上気したドクターの肌色がぼんやりと浮かび上がって、とても艶やかに見える。目を丸くしているムリナールの逞しい太ももを、しっとりと汗ばんだ自らの足で挟み込んで、ドクターは目の前の身体に頬をぴと、と押し付けて擦り寄った。

    「解らなかったのもそうだけど……要らないかなって思ったんだ」
    「は? 駄目だ、貴方の負担が大きすぎる。それはちゃんと知っているだろう?」

     クランタの逸物は、そのサイズも射精量も桁違いだ。馬並み、という表現があるが間違いではない。駄獣の特徴である持久力であったり瞬発力であったりをクランタは有しているが、下半身にもしっかりとその特徴が受け継がれているのだから。
     サイズこそ駄獣そのままではないにせよ、形に殆ど違いはないし精液だって勢いも量も明らかに多い。それ故挿入される側の負担になりすぎると、ムリナールはスキンをつけることだけは徹底していた。……一度だけ、ドクターに流されるままその胎にぶち撒けた事はあるが。あの時のドクターはそれはもう──などと考えている場合ではない。
     ハッとして頭を横にブン、と振る。それからもう一度、「駄目だ」と言おうとして、その続きを細い人差し指に止められてしまった。目の前にいるドクターは薄い腹を撫でながら、「良いから、」と言う。ふ、と熱っぽい息を吐いて、胎の中に全部をぶち撒けて欲しいと、切なげに眉を寄せて希っていた。

    「お願い。あの、お腹がとんでもなく熱くて、タプタプになる感覚……その状態のナカを貴方ので掻き混ぜられた、あの感覚が忘れらないんだ。だから……」

     要は、癖になってしまったのだ、と。
     真っ赤になりながらドクターはそう言った。知らなかった解らなかったからスキンを持って来なかったのは事実である。だけれど、例えムリナールの部屋にそれがあったとしても自分は断っていた、と。自分も気持ち良くなりたいのもあるし、ムリナールもスキンがないほうが気持ち良さそうだったからそうしたいと。その全てを聞いたムリナールは顔を覆いながら天井を見上げた。
     興奮よりも、胸を占めるいじらしさや愛らしさ、気付かれていた申し訳なさやらの奔流でどうにかなってしまいそうだった。  

    「わかった、わかったから……」
    「本当? じゃあ早く触って、はやく……」
    「人の努力を無に帰す天才だな貴方は……ッ」

     ムリナールが顔を覆っている間にドクターは胸を彼の胸板に押し付けて、硬くなったままの乳首を捏ね潰していた。くりくりと転がして、ムリナールの太ももには下着越しにその下半身を擦り付ける。どちらもずり、と擦られる度に「、ぅ♡」と甘い声が口からとめどなく漏れ出していく。それに照れる様子も見せず、我慢の限界だったドクターはムリナールの身体を使ってただ雄を煽るだけの自慰行為に励んでいた。
     愛しい者のそんな痴態を見て何も思わない、なんて事はなく、咎めるように舌を打ってムリナールはドクターの身体を抱えた。急な動きに驚くドクターを無視して、その下着を粗雑に引き摺り下ろす。ぺちん、と痩せた腹にぶつかる勃ち上がった性器を見て、興奮の余りクラクラと目眩がしそうになった。
     
     先端からトロトロと先走りを溢し既にびちゃびちゃになったソレをねっとりと扱き、自分で慰めていた乳首を今度は直に嬲っていく。捏ねて潰し、ギリギリと絞るように引っ張ってから突き出た先っぽを爪先で遠慮なく弾いてやれば。急に訪れた性感にドクターは嬌声と共に首を振った。

    「〜〜〜〜ッッ♡♡、ぁッ♡それだめっ♡♡いっしょぇッッ♡♡♡」
    「私の身体を使って自分でやっていた事だろう? ほら、触ってやるから好きなだけイけば良い」
    「ぁ、ーーッ♡♡♡ッぎ、♡♡ク、ッう゛、ク゛ぅう゛ッ♡♡♡」

     最後に、と赤くなった乳頭を爪だけでぐうっとバツ印をつけるように押し込んだ。痕が付くくらいに力を入れられて、肉茎もじゅこじゅこと絞られているドクターは首を逸らして与えられる刺激に没頭する。
     とうとう快楽に耐えきれなくなった性器からはびゅくりと精液が飛び出して、ドクターの腹もムリナールの手も汚していった。自らの腹を濡らしたソレすらにも感じるのか、「ぃう゛ッ♡♡」と身体を跳ね上げている。
     ヒ、ヒ、とひきつけを起こしたように硬直して呼吸するドクターの背を擦って、ムリナールは額に口付けるが、それでもくたりと少しだけ力がなくなった肉茎を苛む手を止める事はしなかった。逆に溢れ出た体液の滑りを借りるように満遍なく擦り込んで、もっともっと追い詰めていく。再びぎく、と痩躯が強張り、足はピンと突っ張って。イヤイヤ首を振り髪を乱すドクターにしょうがない、とムリナールはキスを送ってその悲鳴を全て飲み込んだ。かぱりと開いた喉に厚く長いぬめつく舌も差し込んで、上顎と一緒に舐め上げれば途端にドクターは気を遣ったように大人しくなる。プシャ、と何かが噴き出す音が聞こえたが、ムリナールは特に気にせずに狭い咥内を己で満たしては溢れた蜜を啜っていく。

    「ッ?!♡♡う゛、ぶ、ぅ♡ッ、〜〜〜〜ッ♡♡♡ぁ、う゛ん、ッッ……♡♡…………ッ、ッ♡♡♡」
    「はっ、……ふ、う……、……ドクター?」

     訂正。気を遣ったように、ではなく既に気を遣っていた。
     常ならばガラス玉のように輝き煌めている瞳は瞼の裏に隠れていて、解放された口からは小さな舌がだらりと溢れている。先ほど気にしていなかった音は潮を吹いた音だったらしい。びしょびしょになってしまった手と服を見て、ムリナールは流石に急すぎたか、とふわふわの耳を下げた──が、彼が望んだ事だ、と開き直ってベッドの適当な場所に転がしていたローションを手に取る。

     とろりとした液体を手のひらに広げて多少温めてやるが、自分もそこまで構ってやる余裕はないと、ドクターの腹の上や既に体液塗れの陰茎にどろ、と手を傾けまぶしていく。温めたとはいえやはり冷たいのか、「っヒ?!」と声を上げてドクターは身体を揺らした。
     どうやら意識が戻ってきたようだ。ムリナールは少しだけ笑みを浮かべてそのまま蟻の門渡を伝うようにローションを滴らせ続ける。敏感な箇所に粘度の高い液体が伝うのが堪らないのか、覚醒したドクターはきゅ、とシーツを握りながら喉を鳴らして腰を上げていた。

     ひく、と震える穴に粘液を纏った指が挿れられていく様を、ドクターはごくりと唾を飲み込みながらじっと見つめている。此方が焦ったいと思える位にゆっくりと肉縁に触れられて、それからつぷ、と待ち望んでいた硬い指が一本、二本と挿されていく。
     キたぁ♡♡と満足そうに仰け反るドクターは腰をカクカクと前後させて、早くはやくと動きだけでムリナールを煽り始める。彼はその様子に苛つくように眉を寄せるも、歓びにヒクついている粘膜をとりあえず拡げる為の行動を優先する事にした。 
     蠢いては指に吸い付く腸壁を無理やり剥がすように人差し指と中指で拡げて、空気を入れるようにグパグパと動かす。それから柔い壁を擽るように擦って、敏感な腸壁を刮げられて身悶えする姿をじっとり眺めながら、ムリナールは指をさらりと一本増やしつつ奥へ奥へと進めていった。

    「く、、……っ♡あ、ふ、ぅ♡ぅ……♡♡」

     甘えるかのような声を出すドクターに軽く口付けてから、胎の中を再び暴いていく。だいぶ拡がりローションの助けもあってかトロトロになった肉壁を確認して、今度は拡げるだけではなく弱い所を虐めるべく、ムリナールは硬くしこったある一点へと指を向ける。察したドクターが目を見開くが、その動きを止めるには少し判断が遅かった。ザラついた指がしこり──前立腺を撫でて、容赦なく叩き潰していく。
     泣き所を責められ逃げるように身を捩るも、長い指はその動きを物ともせずただドクターをドロドロに蕩かす為だけに、指の腹、爪先で捏ねては摘み揺さぶってから、ぐり、と力を込めた指先で押し上げる。かひゅ、とドクターの喉から掠れた音が鳴って──翻弄されるがまま、声も出せずに絶頂した。

    「〜〜〜〜〜〜ッ♡♡♡♡、♡♡♡………ッ?、?♡♡」

     舌を突き出し、ブリッジするように背を反らせ後頭部を白いシーツに押し付ける。ただただ怖い位の、シーツを握るだけでは逃せぬ程の気持ち良さが波のように訪れて、ドクターは身体をずうっと痙攣させる事しか出来なくなっていた。力なく、くたりと垂れ下がった陰茎からはトロトロとした蜜しか出ておらず、雌のように絶頂せずにはいられなかった快楽を物語っている。
     口から投げ出された舌をムリナールはじんわりとした力で喰んで、ぢゅる、と下品な音を立てつつ甘く啜っていく。びくりとのたうつ身体を簡単に抑えつけ、呼吸と一緒に考える理性すら剥ぎ取りながら、ドクターの痴態の所為で腹につく程完全に勃ち上がった己の怒張を肉筒に捩じ込んだ。

    「ァ、ひっ、ぅーーッッ♡♡ぁ、〜〜〜〜〜〜〜ッッ♡♡♡♡ぁッッ♡♡♡♡」
    「フーッ、ふうーー……くそ、締め過ぎだドクター……!」
    「って゛、え……!♡♡きち゛ひ、ぃっ♡♡ぁ、や、、ッッ♡♡」

     ムリナールの肉茎に浮き上がった血管が、ずるる、と出し入れする度にゴリゴリとドクターのむしゃぶりつく腸壁の凹凸を虐め抜く。駄獣のソレのように扁平になっている先端は、意識せずとも胎の最奥に辿り着きその結腸をぐじゅ、と濡れた音と共に突き上げた。太い幹が前立腺ごと全てを擦り上げる。性感帯全てを刮がれ穿り、抉じ開けられたドクターは頭を振り乱しながら悲鳴のような濁った嬌声を上げていた。

    「〜〜〜〜ッ♡♡〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡、ほ、ッ……♡♡」
    「随分と、良さそうだな……っ、はーー……」

     ずるぅ、とまた引き抜いて、今度は平たい亀頭でふっくらと主張している前立腺をじっくりと押すように嬲っていく。突いては離し、腰だけをぐるりと回せばその度に「、♡」「ーッッ♡♡」と雄を煽る声を叫ぶドクターに、ムリナールの陰茎は更に膨れ上がった。
     ふう゛ーーっ……と深く息を吐いて、ズンッッっと奥を突き上げれば、びしゃびしゃと腹が濡れた感覚がする。それでもムリナールは止まらずに、跳ねるドクターの腰を鷲掴んで奥へ潜り込んでいく。グネグネと動く肉壺を何とか引き剥がして、ガツンガツンと只管に奥だけを虐め抜いて──漸くムリナールは胎のナカへそのグラグラになった体液を注ぎ入れた。

    「ッッ♡♡♡ぁぐ、は、ぁッ♡♡キ、つ゛、つ、♡♡♡」 
    「人の善意を無碍にする貴方が悪い……、は、ぁ……くそッ……」
    「ぁ、?!♡♡っ、てる、♡♡ってう゛、のぃッッ♡♡♡ーッ♡♡」
    「貴方が言ったんだろう、胎のナカをビシャビシャにされてから掻き混ぜられたい、だったか? 叶えてやるから大人しく──」

     喘いでいろ。
     酷く掠れて高圧的な低い声に囁かれて、ドクターの背筋にぞくりと被虐的な快楽は奔る。ひ、と声を上げかけて──溢れる唾液と共にごくんと飲み込んだ。だって、勿体無い。ギラギラとした瞳で自分を射抜いて虐め抜く男がこんなにもセクシーなのだ、と。今だけ見れる光景を濡れた目で見つめて、ドクターはこくんと震えながら頷いた。

     きゅうきゅう蠢く蜜壺からゆっくり舐るように引き抜いて、しっとりと白濁に塗れた肉棒を速度をつけて戻し入れる。ぼぢゅ、ぐじゅ、と響く水音が何とも生々しい。ぐぽぐぽと水音を鳴らしつつ、ぐり、と先端で吸い付く結腸を穿り、体重をかけながらじわじわと押し開いていく。
     パサ、と頭を振る事で揺れるドクターの髪を見つめながらムリナールはがぽんッっと結腸の奥の奥まで自身の亀頭を全力で嵌め込んだ。ぎくりとドクターの身体が強張る。呆然と目を見開いたまま、その瞳にじんわり涙が浮かぶのをムリナールは黙って眺めていた。

    「、♡ぉッッ♡♡、そこ、ッ♡♡♡」
    「無理に、喋るな。舌を噛むぞ」
    「、はっ、♡♡ッ、♡〜〜〜〜〜ッッ♡♡♡♡」

     ガポガポと骨に響くような酷い音がドクターの胎の奥から鳴り響く。硬く熱い肉にずっとナカを、腸壁を、その奥を嬲られている。その所為で身体は痙攣しっぱなしだし、足はずっと開脚し続けて力無く投げ出されたままだ。開いた口はもう唾液でドロドロで、意味の無い母音をずっと叫んでいる。ムリナールに言われた通り喘ぎ続けるだけだった。
     仰け反っては身を捩り、跳ねて暴れる腰を力で押さえつけられて揺さぶられる。チカチカと点滅する視界の中、ドクターはどうにかムリナールの首に腕を回して、首筋に齧り付いた。この方法が、自分の意見を聞いてもらえる最善だと思ったのだ。狙い通り、少し驚いたムリナールの動きが止まる。奥に捩じ込まれたまま止まられるのは少々辛いものがあるが、それでもドクターはふる、と身震いしながら男の名前を呼ぶ。

    「、……っ♡、りな、ー、ッ」
    「は、……何だ、ドクター」

     熱い、お腹がジクジク疼いて困る。疲れた。早くもっかい射精して。
     言いたい事は沢山あるが、どれも今一番言いたい事とは違っていた。齧り付いた首筋に少しついた跡をペロリと舐めて、ドクターはムリナールの顎先に唇を押し付ける。それから、ちゅう、と引き結ばれた口元に吸い付いた。

    「キス、キスしたい……ちゅーして、むりなーる……」
    「あ、あ……? キス……?」
    「……口吸って、いっつもみたいに舐めて噛んでぇ……」

     最後はもう泣き言みたいに吐かれた台詞に、ムリナールは困惑した。
     てっきり、癖のようになってしまっていたあのキスのやり方は嫌いなものだと思っていたが。成程、癖になってしまったのはお互い様だったらしい。
     ぐぐっと体重をかけながらドクターに覆い被さる。「、う゛ッ♡」と声を漏らすその口を己の唇でしっかりと塞いでやった。一度深く息継ぎをしてからまた塞ぐ。唇を舐め上げ柔く喰んで薄い舌を絡め取って。ちゅる、と啜り上げ上顎も喉奥も全部舐めて擽れば、苦しそうにしながらもとろりと瞳を蕩けさせているドクターがいた。
     唇を合わせたまま、再び奥を埋められ捏ねられ抉られる。喘ぎは全て腔内へと吸い込まれ、ドクターは互いの唾液で溺れそうになりながら、必死でムリナールへと縋りついた。ぎゅうぎゅうに蠢く内壁にムリナールも眉を寄せながら、力任せに引き剥がし遠慮なしにしゃぶりつくナカを味わって。

    「、…………♡……ぶ、ぁ♡〜〜〜〜ッッッ♡♡♡」

     二回目とは思えない量の精液をドクターの胎の奥へとぶち撒けた。ローションと腸液、それから性液と存分に濡れそぼり、ずるぅと陰茎を抜かれてぽっかり開いた穴からは、トロトロととんでもない量の白濁が漏れ出ていく。
     落ち着き次第掻き出してやらねばな、とムリナールは深い息を吐き──固まった。
     開いた肉縁にかかる白濁をドクターが掬い上げて、胎の奥へと戻していた為に。絶頂の余韻に浸り跳ねる身体はそのままに、くちゅ、と粘ついた音を立てて今し方犯され乱暴され続けていた穴に、再び指を捩じ込むドクターの扇状的にも程がある姿を見て。ムリナールはピキリと額に青筋を立てた。


    ⬛︎


     ピリリ、と聞き慣れないアラームの音が鳴る。
     自分の端末からではないその音に、ドクターは目をしょぼしょぼさせながら顔を上げた。横ではムリナールが眉を寄せながら、ボスボスと己の端末があるであろう箇所を叩いている。薄目でそれを止めてから、ぽんとその辺に端末を投げていた。ベッドのスプリングの反動で軽く跳ねる端末を横目に、ドクターはコテリとムリナールの胸に頭を預ける。

    「起きー……?」
    「ああ……。酷い声だ、先に水を飲んでおけ……」
    「そう゛す……ふ、あ……」

     あくびをしながらのっそりと起き上がり、適当に靴を引っ掛けて水を注ぎに行く。
     身体も声も、酷い有様だけれど気分は結構爽快だった。口を一度濯いでから、ごくごくとコップ一杯の水を飲み干す。ついでだし、と顔を洗いアメニティのような未開封の歯ブラシを使ってシャコシャコと歯を磨く内に、幾分か覚めた目でドクターは鏡で自分の顔を見た。
     目は昨夜泣いた所為で割と腫れぼったい。肌はいつも通りで、唇は──少し荒れてしまったか。また口腔内を濯いで、んー、と唇を弄る。「傷でもついたか?」と低い声が聞こえて振り返れば、いつもの青いシャツを着たムリナールが立っていた。

    「もう着替えたの?」
    「いつまでも裸でいるのもな……貴方も風邪を引く前に着込め。白衣だけでは寒いだろう」
    「はーい。ア傷はついてないよ、またちょっと荒れたなって思っただけ」

     ほら、と唇をとがらせるドクターをじっと眺めて、ムリナールはスラックスのポケットからドクターのリップクリームを取り出した。そのキャップを引き抜いて、そっとドクターの顎を捕まえる。

    「自分で塗れるよお」
    「私が荒らしたんだ。これ位はやらせてくれ。……実は一度やってみたかった」
    「リップを塗るのを?」
    「貴方の身体をケアするのを。唇でも足でも何でも良い、目に見えて綺麗になる貴方を見ると気分が良くなる」
    「んふ」

     ぐりぐりと塗りたくられるリップクリームを見つめながらドクターはくふくふと笑う。「よし」という声と共に離された顔を上へと向けて、ぷちゅ、と艶やかな唇をムリナールへ押し付けた。

    「……キスは禁止なのでは?」
    「たっくさん塗ってくれたからお裾分け。ムリナールもケアしなきゃね」

    準備して朝ご飯食べに行こ。言いながらムリナールの手を引いてドクターは来た道を戻る。
     ご機嫌な様子のドクターを見下ろしながらムリナールも、ふ、と笑みを浮かべて──弧を描くその唇に口づけた。「!?」と声を荒げ、勢い良く見上げてくるドクターを見た彼は、くふりと堪えられぬ笑いを漏らしてドクターを抱え上げたのだった。



    私の唇に触らないで!
     (許可してないぞ!)
     (もう許してくれドクター。これからもしっかりとケアをする)
     (……煙草とリップをくれるなら良いよ)
     (了解した。……煙草は葉巻にしても?)
     (持ち運び難くない? 良いけどさあ)
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    Replies from the creator

    白い桃

    DONEカリオストロとか言う男なに?????????
    どすけべがすぎるだろあんなん好きになっちまうよ……
    尚私は巌窟王さんが一人来るまでに何人かカリオストロが重なれば良いかなあと思ってガチャに挑んだんですが……
    結果は250連でカリオストロ7人、巌窟王が1人でフィニッシュとなりました
    おかしいって…二枚抜き二回とかくるのおかしいって……だいすきなのか私のこと…ありがとう……
    伽藍の堂の柔らかな縁注意!

     ぐだお×カリオストロの作品となっております
     
     伯爵や他キャラの解釈の違いなどがあるかもしれません

     誤字脱字は友達ですお許しください

     ぐだおの名前は藤丸立香としていますが、個人的な感覚によって名前を“藤丸”表記にしています
     (立香表記も好きなんですが、作者的にどうも藤丸のがぐだおっぽい気がしてそのようになっております)

    以下キャラ紹介

     藤丸立香:カリオストロの事が色んな意味で気になっている
     カリオストロ:絆マフォウマ、聖杯も沢山入ってるどこに出しても恥ずかしくない伯爵。つよい。最初以外は最終霊基の気持ち
     蘆屋道満:藤丸からはでっかいネコチャンだと思われている。ネコチャンなので第二霊基でいてほしい、可愛い
    21966

    白い桃

    DONEドクターがとっても好きなイグセキュターと、そんな彼に絆されたけど自分もちゃんと想いを返すドクターのお話。

     
     先導者の時もカッケーとは思っていましたが、そこまで推し!って程じゃなかったんです。
     イベントと聖約イグゼキュターに全てやられました。めっちゃ好きです。天井しました。ありがとうございました。
    その唾液すら甘いことその唾液すら甘いこと


     ラテラーノに暮らすサンクタは、その瞳まで甘くなるのだろうか。
     否、もう一つ追加する箇所があった。瞳だけではなく、声まで甘くなるのだろうか、とロドスのドクターはラテラーノにおわすであろう教皇殿に抱いてしまった疑問をぶつけたくて仕方がなかった。何故かと言われれば、自身の背後に居るサンクタ──イグゼキュターの視線もその声色も、入職当初とは比べ物にならない位に、それこそ砂糖が煮詰められているのか? と言えそうな程に熱が込められているからなのだけれど。
     
     教皇に問い合わせれば執行官とかのクーリングオフとかって受け付けてるのかしら。若しくはバグ修正。他の子達に聞かれたら大不敬とかでぶん殴られそうだな。なんて余計な事を考えながら、手元の端末を弄っていれば後ろから「ドクター」と名前を呼ばれたので振り返る。
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