養父尾鯉ボツシーン 唇が触れて、離れる。
「寝るか」
律儀に日課をこなした養父は、性的な雰囲気をかき消すように明るい声を出した。
ふわりと残り香が鼻をくすぐるが、動いた空気によりすぐ霧散した。階段を上がる後ろ姿を黙って見上げる。
待つ条件として求めた「親愛のキス」は毎日の日課となっていた。加えて、追加の要求もなんとか通した。
続いて階段を上がった尾形は、躊躇なく養父の寝室に入り、いつものように水なしで飲める錠剤を服用するところを見せた。鯉登には医師から処方された睡眠導入剤だと言っているが、ビタミン剤とすり替えてある。
睡眠障害については、夏よりは回復したものの治ってはいなかった。なので、服用は続けている。薬が効いて眠りにつくのは服用十五分後である。寝間着のポケットにいれたそれを、後でこっそりタイミングをずらして飲むのだ。
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