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    桧(ひのき)

    @madaki0307

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    桧(ひのき)

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    二代目東京卍會が反社となった未来ifの話です!
    捏造&支離滅裂です。
    ギャグを目指した成れの果てです……。
    宜しくご査収くださいませ🙇

    「胃潰瘍ですね」 2018年、都内某所。
     とある料亭の前。黒塗りの外車はひっきりなしに。その組織の中では下部組織である三次団体の組長が次々と降りてくる。「今月はどうだ?」「ぼちぼちだな」と一言二言を交わして中へと入っていく。


     その日会食に選ばれた料亭は貸切の為、他の客はおらず。
     宴会用の大部屋であるとは雖も「こんなには詰めない」とばかりに黒塗りのテーブルが並べられ、大部屋は厳かな雰囲気に包まれていた。二次団体の組長が到着すると、下部組織である三次団体の組長は立ち上がり、一斉に腰を折る。
    「「「「「お疲れ様です!!!」」」」」
     三次団体の組長達とその側近、組内の有力者達が揃って頭を下げる光景は、一目で堅気の者達ではないことを指し示していた。
     料亭の中居や女将はその様相に臆す様子もなく、せっせと食事の支度を始めている。
     ――彼らがここで会食を行うのは初めてではない上に、この料亭こそが、所謂〝フロント企業〟であるからだ。飲食店であるので、企業という言葉が当てはまるのかは何とも言えないところではあるが。
     到着した二次団体の組長達は端的に挨拶をしたり。視線を寄越すだけであったり。将又、自身の参加の組織の者と世間話をしたりと、彼らの性格やそれぞれの特色が見え隠れする。
     二次団体の組長が五名と、その側近達が揃って上座へ。この一行は一次団体の構成員であり、日本の裏社会を担う両翼の内の一方、〝二代目東京卍會〟の最高幹部達なのだ。

     ――〝二代目東京卍會〟とは。

     元を辿れば暴走族から派生した組織である。よく勘違いされるのは、『二代目』と言う文言が接頭にあるが故に、〝東京卍會〟二代目組長なのかと思われがちなのだ。けれども実はそういう事ではない。
     暴走族時代に二代目を名乗ったのであるので、反社会的組織となってからは初代なのである。これに混乱したのは界隈の者たちだけであるので、特に不利益はなかった。
    「二代目東京卍會の初代首領の花垣武道です!倫理観を大切にしながら品行方正に反社会的組織をやってます!」
     とは今や、二代目東京卍會の首領の常套の自己紹介だ。反社会的組織であるのに倫理観やら品行方正やら、似つかわしくない言葉だろう。
     しかし、その自己紹介に何か茶々を入れようものならば、梵天の首領から銃口を向けられて威嚇されると専らな噂であるが故にツッコミもできず。当たり障りのない返答を絞り出すので、同業者は精一杯。最初の頃は本人の前で、「何を馬鹿なことを」と鼻で嗤ってみせた者もいたのだが、花垣の側近が般若の如き面持ちで威嚇した為に口を噤むことになっな。
     疲労困憊な顔をしつつ、花垣の善性溢れる微笑みに当てられて、複雑な心中であるのだ。
     ――余談だが、梵天首領である佐野万次郎の前でも勿論既に述べている言葉である。

     先述にもある通り、二代目東京卍會の前身は暴走族である。暴走族時代、そ 東京卍會初代である関東卍會初代総長の佐野万次郎へ勝負を挑むに際し、花垣は『二代目』を襲名したのである。
     では何故、花垣率いる二代目東京卍會が反社会的勢力になったのか。
     
     これにも、暴走族時代の出来事が関係している。
     六破羅単代を吸収した佐野万次郎率いる関東卍會に、二代目東京卍會は決戦を申し込んだ。つい1、2ヶ月前に三天戦争で佐野に瀕死一歩手前まで殴られたのにも関わらず。果敢にも挑戦状を叩きつけたのである。これには、花垣の怪我の状況を知っている九井は複雑な心境で。更に、寺野の死が、佐野によって齎されたものだと知る鶴蝶も精彩を欠いた。
     花垣が死ぬかもしれなかったからだ。
     結果として、案の定花垣は重傷を負った。
     〝黒い衝動〟に呑み込まれた佐野は、理性が殆ど働いていない状態である。その上、守る為に不良の世界から突き放した仲間が、再び薄暗い世界に戻って来てしまったのだ。引き戻した人物こそが花垣であり、そんな彼が目の前に現れれば箍が外れるのも無理からぬ話。想像に難くないだろう。
     しかし、これは二代目東京卍會も――その中でも瓦城千咒は特に神経を尖らせていた――想定していたこと。死ぬ一歩手前で、「今日のところは撤収!!」と帰っていったのである。
     思わぬ撤退の掛け声に、開いた口の塞がらない佐野。隊員達は一斉に波が引くように、単車に跨って帰ってゆく。統率の取れた、まるで示し合わせたかのような迅速過ぎる撤収の仕方に、揶揄してやりたいのに二の句も告げられない三途。

     そう。戦略的撤退である。
     決して敗走したのではない。体勢を立て直して再び挑む為の、意義のある撤退だ。
     逃げるのか、らしくもない、と挑発すれば。傷だらけの顔に瞳の輝きを失わないまま、彼は言うのだ。
    「オレらしくしててマイキー君が救われてるなら、今頃関東卍會は解散してる筈だ。」

    「最後まで粘って殴られるのは別にいい。骨折だろうと、銃だろうと、痛みなら耐えてみせる。
    ……だけど、オレが死んだら、君を人殺しにしちゃうだろ。」
     口端の血を乱雑に拭う。喧嘩で崩れて垂れ落ちた前髪を掻き上げて。悪戯っぽく笑うのだ。
    「だからこうやって、勝敗を持ち越してるんですよ。粘って粘って、諦めないで何度も挑んで。最後にはオレ達、東卍が勝ちますよ。
    ――だから万次郎、オレに救われる準備して待ってろ。」
     ラピスラズリのような紺青は、鮮烈な光輝を揺蕩わせる。迫り来る闇の衝動を易く跳ね除けるように。これ程までに熱烈な宣戦布告が、この世にあるだろうか。
     何度転んでも、起き上がる。逃走したフリでその実、一周回って再びやって来る。流血や骨折なんて上等だ、とでも言わんばかりに。殴られ慣れているからか、佐野から受ける衝撃にも幾らでも耐えてみせた。引き際を見定め撤退指示を出すのは、松野と三ツ谷の役目。担いで引き上げるのは林田の役目。攪乱は河田兄弟が。殿は乾と瓦城。
     息の合った団体行動。壱番隊隊長時代の花垣の功績や姿も知っていればこそ、少数とは雖も集まった隊員達は不利な中で二代目総長の後ろについて行った。弱くても、どれだけ傷を負っても、不撓不屈の姿は、関東卍會の隊員にはさぞかし異色に思えたことだろう。


     そしてそれが繰り返されること五度。
     骨折させても、およそ二ヶ月後には何事もなかったかのように綺麗さっぱり治した状態でしれっと抗争を仕掛けてくるのだから、〝頭を抱える〟という単語を覚えた佐野万次郎である。二、三ヵ月に一度は抗争に引っ張り出されていることになった関東卍會の隊員達には明らかに疲弊の色が見え始めた。絶対的なカリスマを持つ佐野ではあるが、強さとは度が過ぎれば恐怖が混じるもの。存在が雲の上であれば、一介の隊員達にとっては何のために喧嘩をしているのか、その意義を見出せなくなるのだ。意味はある。二代目東京卍會側に。それを知るのは、幹部達だけである。隊員達が状況を掴めぬままに抗争を見守ったり参加していたのだ。
     そもそも、彼らの総長が過去に置いてきた〝東京卍會〟は当初、影も形も無かった。当然であろう。佐野本人が解散させたのであるから。しかし、三天戦争終わり、己が所属する関東卍會が三つ巴の戦いに終止符を打ち頂点の座を勝ち取ったと興奮冷めやらぬ間に、待ったをかけた人物こそが、花垣武道率いる二代目東京卍會だ。それからは怒濤であった。堅気に戻った筈の〝花垣武道〟の帰還。関東事変での活躍は数多の不良が聞き及ぶところ。
     そんな関東卍會の君臨に異議を唱え、勢いよく追いかけて来たチームである。関東卍會にこそ毎回敗北同然であったが、逆に二代目東京卍會に喧嘩を申し込んだチームは黒星しか得ていないので、弱い訳がなかったのである。

     六度目の抗争が終わるか終わらないかの内に、佐野は遂に花垣に向かって告げた。
    「タケミっち、出禁。」
    「」
     頬をボコボコに腫らした花垣は素っ頓狂な声で尋ね返す。
    「二代目東京卍會は関東卍會との抗争、出禁な。」
     彼は、決意した。
     毎回花垣達がギリギリのところで逃げてくれるからこそ、二代目東京卍會の者を誰一人殺さずに済んでいる。数度にわたる、〝祭り〟のような喧嘩のお陰で黒い衝動が薄れてはいるのだが、抑えが効かないのは事実。
     暴力で突き放しても追ってくるのであれば、追い付けないように此方も去ってしまえばいいのだ。
     出禁を言い渡した頃、佐野は十九歳。そろそろ暴走族や不良ではなく、より悪の世界へ。その身を闇に浸す為に、新たな局面に入ろうとしていた。暴力団やヤクザのような邪道・外道の世界までは追って来られないと思っていたのである。

    「大間違いだよね。」

     そう、にっこり笑って。ヒーローは目の前に現れた。ヒーローはヒーローでもダークサイドのヒーローだ。特攻服の代わりにスーツを纏って。突き付けられる銃口に笑いながら。佐野の持つ銃の先をつつと、指でなぞってみせたのだ。その指先は何とも妖艶で。つい半年前まで、暴走族として対峙していた年相応の青年らしい爽やかさは微塵もなく。
     穢れなき眼できゅうと目を細められれば、喉が獰猛に鳴る。そんな佐野を制するように彼の襟をぐい、と引っ張って引き寄せて。耳元で放ってみせるのだ。
    「マイキー君、オレは、アンタを救う為に戻って来た。アンタとの幸せと引き換えに手に入る安寧なんて、そんなの欲しくない。」
     啖呵を切るその姿は、彼が闇夜を跋扈しながらも鮮烈に瞬いて明るく照らす花火のような。或いは燃え尽きる頃にいっそう強く光る流星のように。花垣武道は花垣武道のまま、闇の道を行脚するのだ。仲間と共にパレードでもするかのように。

    「君が不幸になったら、マイキー君の勝ち。でももし仮に君が少しでも幸せになったら、オレの勝ち。……じゃ、我慢比べしましょうか!」
     そもそも本来の人の道から逸れようとしている彼らに幸せも不幸せもないだろうに。人の道から外れておいて、人としての価値観で〝幸せか否か〟を判断しようなんて。そんな無茶なことをしようと言うのだ。無邪気に。当たり前のように。

     佐野は閉口して。凛々しい花垣と、生き生きとした表情で控える二代目東京卍會の幹部達。梵天に対抗するように殆ど時を同じくして、反社会的組織〝二代目東京卍會〟が誕生した瞬間であった。


     前置きが長くなった。
     前述までの通り、彼ら二代目東京卍會は梵天に負けず劣らず大きな組織になった。しかし、反社会的組織であるのは、その少数で。ほとんどはフロント企業の、親会社がヤクザ者だとは知らない、堅気の――一部は訳ありだが――社員で占められている。

     首領は未だ到着していない。余程、仕事が長引いているらしい。

     ここで、反社会的組織――暴力団を例にとって――少し説明しよう。
     反社会的組織の組織構造はピラミッドのような形となっており、ざっくり表すと〝親分と子分〟の関係性である。頂点に座す組長――分かり易いこの後は〝首領〟と称す――と組員で組織される場合を一次団体。その一次団体の組員が組長として組織した団体を二次団体と言い表される。つまり三次団体の組長は、二次団体に所属している組員が組織した団体ということになる。
     三次団体の組長や側近達が敬意を表すのは、到着した彼らが二次団体の組長。つまりは一次団体の組員ということになる。それだけではない。首領から直々に自身の組を起こすことを許された幹部達でもあるのだ。

     二次団体の組長は、暴走族時代に隊長や副隊長であった者達で。己の〝組〟やフロント起業を持ちながらも、一時団体――二代目東京卍會――の最高位の幹部達でもあるのだ。不良時代から上下関係が身についている彼らは、恐縮しない訳がない。
     彼ら意外に、一次団体の直下に組を起こすことを許された者はおらず。仮に許されても二次団体の管轄下である三次団体となる。だがそれでも、三次団体として起業の経営を許される恩恵を思えばこそ、誠心誠意、二代目東京卍會に身を捧げるのだ。

     さて、〝恩恵〟とは何か。首領の遅参の経緯と共に説明しよう。

     言わずと知れた反社会的組織、二代目東京卍會は、反社会的組織ではあるのだが、暴力団などを捜査する組織犯罪対策部――以下、長いので組織犯罪対策部である捜査第四課を〝第四課〟と呼ぶこととする――をして、課に配属された者に手始めに「あそこは放っておいて大丈夫」と教える程度の組織なのだ。
     そもそも、首領である花垣は昼間、レンタルビデオ店の店長をしている。非番の日に店に訪れた捜査官が、レジでバーコードをピッ、とスキャンしている花垣を見て最初素通りしたくらいには馴染み過ぎていた。
     アルバイトの若い女性が、「花垣さ~ん、ちゃっちゃと処理してくださ~い」と急かす様子に、『その男は一応犯罪組織の首領だぞ、気を付けろ!』と内心でどれだけ制止したかったことか。

     まさか、公には言葉にできない方法で作成された、いかがわしいビデオでもあるまいか、と。捜査機関が調査を試みたが真っ白もいいところであった。近隣の大学や専門学校の学生たちによって制作された自主制作映画やドラマ特集が組まれていて。頬を掻きながら、公園とかで一生懸命撮ってたので、応援したくて……と照れくさそうに。
     捜査官たちは泣いた。反社の首領よりも心が汚れている――ような気分になる――自分達の仕事の世知辛さよ、と。

     何故ここで堅気のようなことを、と問えば。花垣は怪訝そうな顔で。「労働と納税は義務ですし……」と言ったのである。真人間過ぎる。これこそが義務教育の勝利であるとでもいうのか。
     そこから、二代目東京卍會の構成員達の〝表の顔〟が調査された。

     二代目東京卍會、ナンバー2、松野千冬。昼間はペットショップ店の経営者。その他、ペット同伴可能のカフェも経営していた。動物愛護の案件かと思えば、その逆で。多頭飼いで飼育崩壊された動物を保護して人間慣れさせた上で譲渡会へ。殺処分間近の動物を引き取って。積極的に保護していることも判明した。動物愛護団体から表彰されてもいい案件じゃないか!と天を仰いだ。松野曰く「夢だったんで」とはにかむ。何故、反社会的組織を名乗っているのか。

     乾青宗。少年院に入っていた経験を持つ。彼はバイク屋を経営している。店を開けた頃には、今は亡き青年龍宮寺堅と共に店を切り盛りしていた。
     盗難車を改造したり、ナンバープレートを付け替えたりしているのかと問い詰めれば、その綺麗な顔を凄惨に歪めて、汚物を見るような顔で見下げられた。「信じられない発想だな」と言わんばかりに。歯噛みして、カマをかけるのも手法なんだと主張したかった。

     その後も幹部達の実態調査が進められるも、後ろ暗いものはほぼ見られず。
     己の工房に入り浸り、私生活が疎かになっている三ツ谷隆であったり。
     ――彼の捜査担当が不安げに見守る中、首領である花垣が訪ねて彼の世話を焼くという上下関係を超えた関係性も垣間見せるという謎な事態も露呈している。

     己の経営するスポーツジムで、自身を鍛える瓦城千咒であったり。
     ――運動不足を指摘された花垣は一緒になってトレーニングするも、早々にへばって地に伏していた。
     河田兄弟はラーメン屋を。林田と林は不動産屋を経営。八戒は何をしているかというと、三ツ谷専属のモデルをしている。

     一連の流れで何となく察したことだろう。
     二代目東京卍會は、幹部や傘下の組長クラスになると、己のやりたい事業を起こすことが許され、大抵は〝店〟を持つことができるのだ。
     フロント企業という体裁ではあるが、実は首領から上納金は要求されておらず、全て部下が凡そを決めて〝寄付〟しているだけ、という実態なのである。企業でも寄付はできるのだが、詳細は割愛する。
     〝やりたい事業〟をして貰うこととは、各個人が叶えたい夢であり、来るはずだっただろう次善な未来の形を体現させることと同義なのだ。そして、目標が達成された場合速やかに堅気に戻れるようにする為の事前の準備でもあるのだ。
     花垣は彼らが迎える筈だったより良い未来を曲げたことを理解している。しかしそれでも、佐野万次郎を救い、皆にとっても最善で最高の結末を迎えたかったのである。

     それは幹部達だけではない。呼びかけに応じて集まってくれた隊員達もそうである。彼らの将来と命を預かって、反社会的組織の首領をやっているのである。彼らのやりたい事や夢に対して、真っ当に、そして最大限に報いることこそ、現在の花垣武道の使命。
     そんな、クリーンで〝良い子〟な不良達が全力で大人になった結果と、その過程が反社会的組織の二代目東京卍會なのである。子供のまま全力で大人にならなければ、佐野万次郎を救おうと根気強く追いかけ回すことなど到底不可能であっただろう。
     そうはいっても反社会的組織である。決して褒められないような方法でお金を荒稼ぎしていたりもするのだ。
     林田の実家の不動産業を活かして、土地の売買で得たり、これから伸びるであろう仮想通貨に先んじて手を出してみたり。伸び代のある分野、企業の株を青田買いして、折を見て売ったり……。
     2017年から2018年までの知識の世情の知識を有する花垣だからこそ取れた力技なのだ。

     関東卍會と争っていた時、日本はリーマンショックに揺れ、景気は絶不況。東京の土地の価格も落ちたが、しかし買える者もいない。買ったとしても今後の景気が読めないことには宝の持ち腐れである。土地を維持する為の税金やら、建物を維持する維持費だけが嵩んでいってしまうという状況であった。
     そこに目をつけたのが花垣である。

     彼は知っていた。
     2013年に、2020年のオリンピック開催地が東京に決定したということを。
     この決定により、少しずつ数字上の景気は上向き東京の土地の価格は順調に上がり始める――勿論、場所によって変わるので一概には言えないのだが――。
     上がったタイミングで売ったり、景気が悪くなって首が回らなくなった別のヤクザや暴力団の土地を買い上げて、後々に高く売りつけたのだ。裏の世界の者同士での売り買いでもあるので、公にはなっていない。それでも、企業の合併や吸収、などのタイミングを見計らって情報を流す二代目東京卍會に、いいえも知れぬ薄ら恐ろしさを感じていたのは事実だろう。
     花垣はただ〝知っていた〟だけであるのだが。

     他者からすれば、そんな半ば予言めいた首領の先見に神聖さすら感じて頭を垂れる部下が増えたのだ。
     清く。正しく。楽しく。
     それらをモットーに、犯罪行為をしているようで、法律は犯していない反社会的組織へと成長していったのである。

     やらかした犯罪と言えば、バイクの窃盗団を締め上げる際に怪我をさせたくらいであろうか。青少年の頃にバイク乗りだった彼らは、愛機が盗まれて悲しむライダー達のことを想って胸を痛めていたのだ。少し荒療治になるのも致し方ないのかもしれない。とはいえ、きっちり五体満足で警察所の前に置いたのだし、犯人たちはちょっとガタガタと歯を震わせていただけである。銃もナイフも持ち出していない。
     このことについては、ウチが怖いだなんて心外ですよ!と頬を膨らませる花垣である。
     それを己達の店である高級クラブで聞いていた灰谷兄弟は、「ウチの首領の寝床に連れて行って諭すとか、気でも狂ってんのかと思ったわ。しかもボス寝てるし。」と三途に語ってみせた。
     それを聞いて、またか、と死んだ目で呟く三途である。初めてじゃねぇんだ……とドン引く灰谷達。
     花垣が来ることによって、何故か佐野は入眠することができるのだが、それを知らない窃盗団などの懲罰対象者。日本最大の巨悪組織〝梵天〟のボスが今にも目を覚まして、自身を殺すのではないかと生きた心地がしないのだろう。
     花垣本人曰く、「自分が誰か連れてきてお小言を並べてると、マイキー沢山寝てくれるんですよね。もしかしたら、少し雑音があった方がいいんですかね……」とのこと。真意を得てはいないが、大筋では合っている。
     この会話で一番怖いのは、他組織の首領たる花垣が、異なる組織の首領の佐野の私室に当然のように入っていることに誰もツッコミを入れていない事実である。



     二代目東京卍會の反社会的な活動風景を説明し終えた所で、丁度首領が到着したらしい。
    「皆さん、お疲れ様です。」
     厳かな空気の中、上座に座った花垣が口を開く。あどけなさの残る顔立ちではあるが、それでも歴戦の猛者としての雰囲気を纏っている。
    「忙しいのに定期的に集まってくれて、ありがとうございます。……そろそろ、マイキー君と決着付けようと思うんだ。」
     部屋の中は一気に騒がしくなる。しかし、それは動揺ではない。皆が皆、来たる時に備えて覚悟を決めていたのだ。
    「――俺はこの十年間、平和的な方法でマイキー君に説得を試み続けた。でも、彼は頷いてくれなかった……。」

    「だから、もう実力行使に出ようと思う。」
     その決意に溢れた言葉に、その場の空気は熱を帯びる。
    「一週間後、マイキー君を誘拐します!!!」
     野太い声で、おぉぉぉ!と雄叫びが上がる。
    「飛行機に乗せちゃえばこっちのものです!」
    「同窓会に行ってきますとかなんとか適当に書き置きすれば大丈夫だと思います!マイキー君初代総長だし、嘘じゃない……!」
     自信満々だが、支離滅裂でおざなりな計画である。しかし、今年の二代目東京卍會の主要人物たちが参加する社員旅行の行き先はカナダでオーロラ観測なのだ。佐野を幸せにしたいという目的を持つ花垣は、どうしても彼を連れて行きたく思い交渉していたのであるが、まぁ当然のように聞く耳を持たない――のではなく、「反社が社員旅行?」と背後に猫を背負っていただけである――佐野。
     悩んだ末、偽造したパスポートとプライベートジェットで連れて行ってしまえばいいんだ!と閃く。〝子供のまま全力で大人になった〟彼らであるので、誰も止める者はいない。頼みの綱である筈の松野と三ツ谷も、ツッコミが追い付かない為に開き直って早々にツッコミを放棄し楽しむことに振り切っている。
     二代目東京卍會は、ブレーキの壊れた列車状態と言えよう。そうであるので、花垣が「こう」と決めたら、構成員達は全力で遊び倒すのだ。

     今回も例に漏れず。
     いいぞ!やら、やってやる!と煽る彼らの声。
    「行先はカナダ!!二代目東京卍會の社員旅行で、皆でオーロラ見ましょう!!」
     花垣は拳を突き上げる。

     戦いの火蓋は切られたばかりである。



     収集がつかなくなったので、この辺りで、この話はおしまいである。
     このあと、佐野と梵天の彼らに何が起こったかは、想像に難くないだろう。



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    桧(ひのき)

    DONE五十路真一郎×四十路武道……と言いつつあまり年齢操作感の無い真武

    花垣武道誕生日記念本 web公開 真武分。
    佐野真一郎(初代総長)23~24時の出来事。

    ※本の中では4839字だったんですが、ポイピクでは5千字超えてしまっています。
    愛の特権 散々な一日だった。
     近年稀に見る程に、疲れた日であったとも言えよう。

     その地域のレンタルビデオ店のエリアマネージャーであるとは雖も、その日は久方振りの二日間連続での休暇であった。だが悲しい哉、脆くも崩れ去る。
     その店の社員は三人。本来、この日に出勤予定であった社員の家族が緊急入院したのである。良く言えば少数精鋭、悪く言えば人員が不足気味な職場である。故に急遽、花垣が休暇の予定を返上して勤務に入ることになったのだ。

     記念すべき四十歳になる日。世では『不惑』と定められる年齢になったが、物事に惑わされない精神を保つ事は難しく。感情に振り回されてしまうことも屡々。己の精神年齢は成長していないように思えて。ただ無意味に年齢だけを重ねているのではないかと、毎日思う。同棲して既に二十年を越した恋人からの十分大人になったよ、という言葉を胸に、今日も〝大人〟を演じるのだ。
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