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    @vermmon

    @vermmon 成人済/最近シェパセ沼にはまった。助けて。

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    スズランとシェーシャの話を思いついたので。大陸版統合戦略にのっとり、シェーシャとケーちゃんは仲良しです。

    #アークナイツ
    arkKnights
    #シェーシャ
    sheesha
    #スズラン

    ひみつのおはなし スズランは素直な子供である。聡明でもあったので、沢山の「やってはいけないこと」「入ってはいけない場所」にもきちんと理解を示し、大人たちとの約束を守っていた。
     だが、ひとつだけよくわからない決まりがある。

     それは「シェーシャに近づいてはいけない」というものだ。

     場所や物ではなく「誰か」に近づいてはいけないと言われたのは初めてだった。ロドスには沢山の「こわいひと」がいるが、かつては怖ろしい仕事をしていたとしても、今は仲間なのだから。
     フォリニックにそう言われたとき、スズランはいつものように「どうしてですか?」と尋ねた。ロドスの大人たちは、それを説明すること自体が危険である場合を除いて、きちんとスズランに理由を話してくれる。
     だが、フォリニックが苦い顔でしてくれた説明は、いつもと違って少し不明瞭だった。
    「貴方に悪い影響を受けて欲しくないの。アイツの話す事は、なんていうか……子供たちへの影響力が強いのよ。あなたは大丈夫だと思うけど、それでも……心配なの。だから、お願い。約束して頂戴。ね?」
    「あの……もし、その『シェーシャ』さんが話しかけて来たら、どうしたらいいですか?」
    「無視して。走って逃げて」
     完全に変質者扱いだった。だが、シェーシャはロドスに正式採用されたオペレーターのはずである。そんな人物がロドスで堂々と生活しているはずがないのだ。
     何か誤解があるんじゃないでしょうか。話しかけられただけで走って逃げるなんて、とっても失礼ですし──スズランはそう思ったが、必死に懇願するフォリニックを無下にもできず、曖昧に頷くことしかできなかった。
     ロドスは広く、入り組んでいる。スズランは何年もロドスで過ごしているが、いまだに一度も話したことのないオペレーターは数えきれないほどいる。うまくすればシェーシャとは、今後も関わらずに済むかもしれなかった。


     などという甘い期待は叶うはずもなく、ほどなくしてスズランはシェーシャと一緒の外勤任務に就くことになった。
     「ぼろぼろの服を着た」「とても背が高く」て「黒い角」の「赤毛」の「ヴィーヴル」。間違いない。というか、そう名乗ったし。
     大きくて怖そうな銃を持っているし、ほとんど真上を見なければ顔が見えない。だが、フォリニックがいうほど危険な人間には見えなかった。じっと見ていると目が合い、それに気づいたシェーシャは牙を剥いてニヤリと笑う。驚いたスズランは思わずブレイズの背中に隠れてしまったが、ブレイズに「この子にちょっかいかけないで」と叱られて肩を竦める彼は、やはりそこまで悪い人には見えないのだった。だって、ケオベが「シェーシャお兄ちゃん」と懐いているのだから。彼が本当に悪い人なら、彼女だって慕ったりはしないはずだ。


     ──どうしてシェーシャお兄さんとお話してはいけないんでしょうか?
     任務を終え、輸送装甲車の座席で揺られながら、スズランの脳裏は疑問符でいっぱいになっていた。この二日間、こっそりシェーシャを観察していたが、どう考えてもそこまで警戒すべき人物とは思えなかった。
     彼は自分がヴィーヴルであることを自覚しているのか、率先して重い荷物を持ったり、力仕事に手を貸したりしていた。支部と付き合いのある住人の車が壊れていると聞いて、親切に修理してあげたりもした。
     ブレイズが何か言ったのか、彼は任務中あまり喋らなかったし、スズランに一定以上近づくこともなかった。何度か口を開いたのは彼が暴走するケオベを諭すときだったので、それを見たスズランはむしろ感心したくらいである。シェーシャは変質者どころか、とても優しくて面倒見のいいお兄さんではないだろうか?
     シェーシャは座席の一番前に座っている。スズランがいまにも天井に突き刺さりそうな黒い角を眺めていると、彼の隣に座るケオベが唐突に言った。
    「シェーシャお兄ちゃん、何かおはなして!」
     その瞬間、車内に迷惑そうな空気が漂った。「げっ」と呻いたのはスズランの隣に座るブレイズで、同行していた数名の一般オペレーターも一様に顔を顰めた。だが、ケオベはワクワクした表情でシェーシャを見つめている。
     乗員の非難の表情を眺めた彼は「ロドスに帰ってからな」と言った。だが、それで引き下がるケオベではない。
    「やだ! おしごと終わったらおはなししてくれるって言った!」
     彼女の中では、悪いやつをやっつけた時点でお仕事は終わっているのだ。むしろ、今までよく我慢したというべきかもしれない。
     シェーシャに視線を向けられたブレイズは、不承不承「小さい声でお願いね」と許可を出す。彼女は「何かおかしい事を言ってるなと思ったら耳を塞ぐんだよ」と囁いた。シェーシャがこれから毒電波を発すると信じているような口ぶりだ。
     スズランはケオベに負けず劣らず退屈していたので「はぁ…」と曖昧な返事をした。輸送装甲車には窓もない。気を紛らわせてくれるなら、ちょっと奇妙なお話でも大歓迎だ。むしろ、どれだけ変な話なのか興味を引かれてしまう。
    「昔々、あるところにカシムという男がいた──」
     シェーシャがお話を始めた。よくある昔話の導入に、ブレイズも皆も「意外と普通だな」という顔になる。ケオベにだけ聞こえるような小声で紡がれる物語──任務後の倦怠感を漂わせながら聞くともなしに聞いていた彼らは、しばらくすると押し黙って耳を澄ませるようになった。エンジンの唸り声やタイヤが地面を削る音さえ煩わしく感じる。スズランも、耳の毛をぴんと立て、アーツの訓練をするときと同じくらい集中していた。
     彼は巧みに声を高めたり低めたりしながら、砂漠の国の冒険譚を語った。スズランはまだサルゴンに行ったことがない。砂漠と荒野の違いも、はっきりわかってはいない。だが、シェーシャの声に導かれ、頭の中には見たことのない町や、巨大な砂丘や、旅人を襲う怖ろしい野獣たちの姿が鮮やかに再現されていた。カシムとともに喜び、闘い、時に怒りに身を震わせ、恐怖に震えもした。
     やがて、物語は佳境に入った。カシムは、彼を冒険に連れ出した怪しげな術師に裏切られ、宝の眠る洞窟に置き去りにされてしまったのだ。
    「冷たく吹き込んだ風がランプの明かりを掻き消し、辺りは真っ暗になった。術師がカシムを嘲る声がする。『栄光は俺のものだ! 愚かなカシムよ、お前は永遠にこの暗闇を彷徨い続けるがいい!』。カシムは声が聞こえる方を振り向いたと思ったが、音が反響してあちこちから聞こえてくる。そうしているうちに、カシムは自分がどの方向から来たのかさえ、わからなくなってしまった──……おっと」
     唐突に物語が途切れる。お話をせがんだ当人であるケオベが、シェーシャにもたれかかって寝息を立てていた。
    「また途中で寝ちまったのか。仕方ねえ……今宵はここまで、だな」
     彼は苦笑し、自分もひと眠りするつもりなのか目を閉じる。

     ──えっ、続きは……?

     物語の世界にどっぷり浸かってたスズランは、信じられない気持ちでシェーシャを見つめる。隣のブレイズも、他のオペレーターたちも呆然とした顔をしている。
     全員が「ここでやめられたら、今夜は続きが気になって眠れそうにない」と思っていることは明らかだった。
     ──ど、どうしましょう……続きを話してくださいってお願いしてみましょうか? でも、フォリニックさんはシェーシャさんとお話しちゃダメって……。
     スズランが絶望していると、運転手が言った。
    「おい、良いところで終わるな。続きを話してくれよ」
     シェーシャは目を閉じたまま答える。
    「やなこった。ケオベが寝ちまったんだから終わりだ、終わり。聞き耳立ててた分際で勝手な事言うんじゃねえ」
     彼の言い分も尤もだ。シェーシャにお話をせがんだのはケオベで、最初は皆は迷惑そうにしていたのだから。お話しの続きなんてしたくないと思っても仕方ない。
     ケオベを起こせば──だが、あんなに気持ちよさそうに眠ってる彼女を起こすなんてできるだろうか。それも、自分がお話の続きを聞きたいという理由だけで!?
     ──それは悪い子です……悪い子の考えです……
     スズランの脳裏に、フォリニックの言葉が蘇る。

    「貴方に悪い影響を受けて欲しくないの。アイツの言葉はなんていうか…子供たちへの影響力が強いのよ」

     スズランは再度絶望した。
     フォリニックの言葉は事実だ。確かにシェーシャの言葉には力がある。自分は彼が語った物語の世界からどうしても抜け出せない。わくわくして、どきどきして、目を閉じるまでもなく、見たこともない景色すら鮮やかに浮かび上がるよう。
     彼は間違いなく、ロドスでも指折りの語り部だ。
     ──私は悪い子だ私は悪い子だ私は悪い子だ私は悪い子だ……
     イマイチ腑に落ちない曖昧なものであっても、「フォリニックとの約束」を破るには心を振り絞らなくてはならなかった。
    「お、お願いしますシェーシャお兄さん……続きを、お話の続きを聞かせてください」
     半泣きで訴えると、シェーシャは苦い顔でそっぽを向いた。
    「ちょっと、スズランがこう言ってるのよ! どうして無視するの!?」
     ブレイズに叱られたシェーシャは彼女を睨む。
    「うるせえ。俺は医療部の連中から『14才以下の子供と話したら減給』って言われてるんだ!」
    「君の給料なんかどうだっていい!」
    「ンだとこら!」
    「ううーん……くっきー……」
     ケオベの寝言が二人の口を閉じさせる。シェーシャは声を落とし、誰にともなく言った。
    「とにかく、続きが聞きたきゃレンジャーの爺さんに頼みな。サルゴンの有名な昔話だ。あの人ならきっと知ってるさ」
     確かにレンジャーおじいさんのお話も面白い。スズランも、沢山の子供たちと一緒に何度もお話を聞かせてもらった。
     だが、それはレンジャーのお話だ。
    「それは、シェーシャさんのお話じゃありません……レンジャーおじいさんのお話も大好きですけど、シェーシャさんのとは違うんです」
     レンジャーがこの話を最初から話してくれるなら、別の物語として楽しめるはずだ。だが、それは『続き』ではない。物語の顛末を知ったところで、自分は絶対に満足できない確信がある。
    「こうしよう、シェーシャ……私が頭を下げて頼むから、続きを話してくれない? スズランが泣きそうなの」
     ブレイズが、何かプライドとかそういうものを断腸の思いで捨てるという感じで言った。だが、シェーシャは最初に「小声で」と注文を付けた彼女に冷ややかな視線を向ける。
    「アンタは、別に俺の話の続きが聞きたいとは思ってないだろうが」
    「そんなことないよ! あたしだって続きが気になって仕方ないよ!」
    「なら子供を引き合いに出すな」
    「ごめんねスズラン! 卑怯な大人でごめんなさい!」
    「い、いえ……私は、あの……」
    「ともかく」
     シェーシャが語気を強める。
    「ケオベが寝ちまった以上、続きを話せば俺がスズランに話したのと同じことになるだろ。それともお前ら一人残らず、この事は秘密にするって誓えるか? お前らは何も聞かなかったし、俺も何も話さなかった。俺の話が気に入ろうが、そうでなかろうが、今後一切知らんぷりをする──そうできるなら、続きを話してやる」
    「…………」
     大人たちが、お互いを伺い合う。だが、誰もスズランを見なかった。見れば、「君がうんと言ってくれれば、我々も同意する」という意味になってしまうからだ。だが、逆に誰も自分の方を見ようとしないことが、何より雄弁に大人たちの気持ちを伝えていた。
     秘密。内緒。知らんぷり。帰ったら、自分はフォリニックに嘘をつくことになるだろう。「大丈夫? シェーシャには近づかなかった? 何も話さなかったよね?」「はい。何もお話ししてません」──真っ赤な嘘。嘘をつくのは悪いことだ。
     だが、抗えなかった。シェーシャの問いかけに「うん」と言わない限り、自分の心の一部は勇敢なカシムと共に、永遠に暗闇に閉じ込められたままなのだ。
    「ち……誓います。誰にも言いません」
     絞りだした声は震えていた──後ろめたさと興奮で。これが秘密を持つという事なのか。大人たちの多くがそうであるように、誰にも言ってはいけないことを胸に抱えるということ。
     頷いたシェーシャが、「あんたらはどうする?」と言いたげに大人たちを見回す。彼らはそろって魂を売り渡したような虚脱感を顕わにしながら、次々に頷いた。
    「いいだろう」
     シェーシャは厳かに呟くと、物語の続きを話し始める。
     それはまるで、夢のような時間だった。
     低い声で語られるクライマックスに心躍らせながら、スズランは密かに納得していた。
     自分が──子供たちがこんな素晴らしい語り手から遠ざけられてるのは、きっと物語中毒にならないようにするためなのだ。
     レンジャーおじいさんもお話の途中でお仕事に呼び出されて、やむを得ず中断する事はあるけど、もしもシェーシャにそんなことをされたら、子供たち全員、その夜は眠れなくなってしまう。
     だから秘密なのだ。彼の物語を聞いても途中で眠れてしまうケオベにしか、聞くことを許されていないのだ。


     その後スズランは、お話し会がある度に「シェーシャお兄さんにも、お話してもらいませんか?」という言葉をぐっと我慢しなければならなかった。
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