傷と誘惑6 ──pipi、pipi、pipi、pipi
無粋なアラームが泥沼のような狂騒から意識を引き剥がす。すぐ目の前には、ぐったりとしたパッセンジャーの顔。彼は随分前から声も出なくなっていた。閉じることさえできなくなった口から突き出た赤い舌を痙攣させ、唾液をだらだらと零すままの彼は、それでも美しかった。長い髪が乱れてシーツに広がり、まだらな夜明けの光景を描き出している。一晩中犯され、それでも懸命に雄を受け入れ続ける腫れぼったい粘膜が、電子音に反応してひくりと蠢く。
突然冷水を浴びせられたような空白。呆然としてると、パッセンジャーが億劫そうに腕を上げて手首の装置を探り、ピーピーわめいているアラームを止めた。
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