数百年後の幸せな物語の続き目覚めると、薄手の下着を身に着けただけのしどけない姿の彼女が隣で寝ている。
ゆっくりとその長身を起こした彼は、黒く垂れている自身の髪を払って、そっと彼女の頬に触れる。
柔らかで血色のよい、薔薇のような肌だ。彼女が人間であったときと同様に。
すらりと伸びた彼の指の感触に、くすぐったそうに身じろぎしてから、彼女は目を開ける。
「おはよう、レオくん。今日も健康?」
「おはよう。今日も元気だよ」
体調を尋ねる彼女に、彼は微笑む。
彼女を実体化させるために、彼は常時悪魔の力を解放していて疲れやすくなっている。
とはいえ、今しがた眠りから醒めた者に尋ねる言葉ではない。
だが、彼女の声がするたびに、彼はいつも愛おしそうに返事をする。
彼女は彼の顔を覗き込む。星の瞳と微笑んだ口元が可愛らしい。彼女はひとつ大きく伸びをしてから、ぎゅっと彼に抱きついた。
重みが集中し、ベッドがしなる音がする。
「これじゃあ動けないよ」
「やっぱりいいにおい。これで今日も一日頑張れる」
彼は、艶かしい線を描く彼女の腰に手を回す。
「今日は何をするのかな?」
「ちょっと城を改造しようかと」
「やめてね? こないだカモシュに怒られたばかりじゃないか」
「えー、いま住んでいるのは私たちだよ?」
「それでもダメ」
固く抱擁しながら、とめどなく語らいを楽しむ。
これが彼らの、数百年来の日課だった。
彼女が人間であったのは、ほんの100年くらいのことだったろうか。
人質として攫われた地で彼と出会い、季節を重ねる中で互いを知り、互いにストーキングを繰り返すという風変わりな求愛行動を経て、彼女と彼は共に生きることを誓った。
ただ、彼は寿命の長い悪魔だった。彼女は、彼をひとり置いていきたくなくて、いつまでも一緒にいたいと願った。
禁断の魔導書を駆使し冥界の神までも説得して、彼女は自分の運命を捩じ伏せた。誰も思いつかなかった裏技的発想で、彼女は彼の使い魔として生まれ変わり、彼の命が尽きるまで共にあることを選択した。
そしてふたりは、今日も幸せな時間を過ごす。
いつまでも甘い、幸福な結末が訪れた物語の続きを。