通信玉から姫の声がする。
(は?)
気づけば身体が勝手に動いていた。
ぷつりと通信を切り、コートを羽織る。「ちょっと出かけてくるから」と砦の者に言い残し、荷物も置いて空へ飛び出した。
魔王様の部屋に、姫がいる。
一体どういうことだろう。
最初からいた? 衣ずれの音や髪がなびく音、女性の気配などは、全部姫だったのか。
なんで隠した? 隠すような事案があったのか??
……いや、そんなことはないと信じたい。
どうせ紛れ込んでしまったとか、姫が勝手に着いてきたとか、そういう他意のないことだろう。
でも、身体が勝手に動くのだ。
自らの目で確かめないと、納得できない。
はやる気持ちは飛行スピードに表れ、未だかつてない時速で移動している。
確か相当な距離があったはずなのだが、いつしか魔王の部屋に立っていた。
「なんでこんなことになっているんですか……?」
魔王はただ震えるのみ。姫は隣の部屋の布団で寝ているが、見事な寝相の悪さだ。
「そしてなんで隠したんですか……」
「あっ……いや……これは……事故で……」
事故。一番聞きたくなかった言葉。
「事故!?事故があったんですか!!!」
最悪の結末になってしまった。事案発生だ。詳細を聞かねばならない。でないとここは帰れない。
姫の身に起こったことを正確に把握しなくては、悪魔教会を守る聖職者としての立場がない!
「その中身を教えてくれませんか」
詰め寄ると、顔を上げた魔王が血相を変えている。
「いや、さっきも言ったけどそういう事故じゃないのだっ!ちゃんと聞く耳持って?」
「姫に旅館に来いと迫ったのですか? 温泉と食事の見返りに、自分の部屋で寝泊まりするよう約束させて……」
「違うーっ! ねぇ話を聞いて!? だから事故だ事故!姫が勝手に来て……」
「勝手に来た姫に寝泊まりさせてあげるから隣で寝ろと迫った……?」
「……もう、そこから離れてほしいのだ!我輩を容疑者に仕立て上げないでー!」
【以後、本当にメモ】
魔王様との和解後(すごく時間がかかった)、姫起き出す。
「おはよう。あ、レオくんだー。せっかく来たならレオくんも温泉入るー?」
「……おはよう、姫。でもね、もう砦に戻らなければならないんだ。城から迎えが来るまで、魔王様の言うことをよく聞いておとなしくしていてね」
「えー、一緒に温泉入りたかったのに」
「!?」
「混浴じゃなかったっけ?あ、あれは柵が壊れていたからか」
「……そそそ、そうだね(今わたし、何を勘違いした!?)」
「じゃあ温泉街散歩しよ?」
「だからね、砦で仕事が……」
「レオくんとジゴ=クサツ、もっかい歩きたい」
「!……うん、ちょっとだけならいいよ……?」
(雰囲気に流されるAS)
魔王:「我輩の心労を返せ!」