無題「好きだ」
宗雲が何を言っているのか、理解するまでやや時間がかかった。というのも「今日は予約が多い」だとか「ドリンクのセットアップを」だとか、そういった " 普段の支配人 " とまったく同じ声音だったから。
「……それは、嬉しいな」
わずかな逡巡ののちに絞り出したのはそんな陳腐な言葉で。レディが相手であれば赤ペンものである。
ただ、こう言えば宗雲が言う「好き」の意味には深く触れずに済む……
「言っておくが、同僚……クラスの一員に対する『好き』ではないからな」
……ということはなかった。
逃げ場を塞いできた宗雲は、不満を訴えるかのようにやや反目気味だ。その様が、どうにも「好き」という言葉と繋がらなくて。
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