その手紙はなんともうすら寒い一行から始まった。
あなたに恋をしている、と。
長い金髪の美しさに見惚れ、透徹とした瞳の中に世俗に交じっても汚れぬ純真性、完全性を見たという。あなたがこの業界からいなくなるのが、なによりの損失である。いまからでも卒業という選択を考え直してはくれないかという懇願。しかしそれは自身のわがままであり、舞台を降りたあなたの活躍を今後も祈っている。
まとめてしまえばこんなものだが、どうにも距離が近いくて、正直に言えばちょっと気持ち悪い。
拾った手紙をなんとも言い難い気持ちで眺めた。
これはいったい、どっちの話をしているんだろう
「何をしている」
「あ、監督」
「廊下に手紙が落ちてまして……封筒になにも書いてなかったので、なんの手紙か確かめようと中を見たんですが……」
気が付いたら黒い髪の男がそばにいた。妙に陰鬱な雰囲気をまとったこの男は、この芸能会社の実権を握っているといっても過言ではないのだ。妙なことは言えない。
差し出した手紙を受けとった監督は、手紙の内容に目を通し始めた。
その眉根が徐々によりはじめる。珍しい渋面だ。笑顔のまま機嫌を悪くすることはあるが、目に見えて表情を崩すのは珍しい。
「なんだ、馴れ馴れしい手紙は」
「ですよね~、ちょっと気持ち悪いですし。それにしても……」
「ハイドリヒに身辺に気を付けるよう言っておくか」
「え? マルグリットさんのほうじゃないんですか?」
そう、うちの会社に金の長い髪で、そろそろ引退する人はふたりいるのだ。だからどちらに宛てたものなのか、悩んだのだが……。
監督は何も言わずに手紙を握りつぶしてゴミ箱に叩き込んだ。
「遊んでないで、そろそろ仕事に戻れ」
「え!? えっ、あ、はい!」