「ああ、まったく、戯れがすぎるのではないかな、獣殿」
遊びが行き過ぎているとたしなめるような、こんな序盤にご破算にされたのを抗議しているような、それはそれとしてこの男はこうあるべきなのだからと微笑ましく思っていそうな、そんな複雑な色合いの声だった。
大橋から落ちていく最中、ゆったりと引き延ばされた感覚は永遠にも似て。
遠ざかっていく光輝の化身のそばに、ぬるりと影が寄り添ったのを藤井蓮の目は捕らえていた。
不思議と彼らの会話は耳に届く。
「ふふ、卿の肝入りというから、つい、興が乗って」
「つい、で始まってすらいない劇に幕を下ろされては困りますな。雛が殻を破るのも待てぬあなたではありますまい」
影が刺そうとした釘を、光は微笑を持って受け流した。
「卿に連なるものなのだから、これくらいはと思ったのだがね」
光がすこしばかり肩をすくめた。
不思議なことに、それに対する影の情動が藤井蓮にも伝わってくる。そしてその傍から抜け落ちてとどまらない。
総身にかけめぐる、そう、まるで血の流れのそれのように、よろこびと優越感が皮膚の下を巡って、傷口からこぼれていく。
「いやはや、これは汗顔の至りというもの。あなたの期待に沿えぬこの身を恥じ入るばかり」
といえども、その声音は申し訳なさのかけらも含んでいない。むしろつねの平坦さを保っているというのに、どことなく弾んでさえ聞こえる。
光はそれに片眉をあげて、影から視線を外した。
それにあわせて影の視線が下りて、感情のうすいそれで落ちていくものを観察する。
嘲りも落胆もなにも含まれていないことが、逆に不気味さを際立たせた。
――ああ、殻を破るのを待てとはいえ。
するりと脳裏に入り込んでくる独り言。
――すこしつついた程度で崩れるやわさなのだから、我が友のせいと言い切ってしまうのは理不尽かな。私の代替なのだから、はしゃぐ我が友のかわいらしい悪戯くらいは受け止めてほしいものだ。
影の表情に変わりなくとも、その笑み、その薄皮一枚の下に友からの信頼、最高~~~!!!!!が潜んでいるのをひしひしと感じて、川に着水する寸前の藤井蓮は虚無を体現しているかのような表情になった。雛が殻を破るのを待てといった舌の根も乾かぬうちになんという無茶振りか。
そして落水。おのが体からすべての血が抜け落ちていくような、気絶。