モブとたいみつ「いる。すっげぇ、かわいい人だよ」
三ツ谷先輩がそう言った瞬間、列島──厳密に言うと渋谷センター街鳥貴族第3テーブルが──震撼した。
三ツ谷先輩は俺の憧れだ。同じ専門学校を卒業、同じ会社に就職し仕事でもいろいろとお世話になっている。専門学校時代から三ツ谷先輩のセンスは群を抜いていて、卒制では滅茶苦茶厳しいと有名な先生からもベタ褒めされていた。将来有望なデザイナー、しかもイケメンときたらモテないわけがなく。うちの女性社員たちはみんな三ツ谷先輩に彼女がいるのか、気になって仕方がないらしい。
そんなハイエナたち(口が裂けても本人たちには言えないが。ぶっとばされるので)から白羽の矢を立てられた哀れな存在が俺だった。つまりは、退職して独立する先輩を送迎するこの飲みの場で、彼女の有無を聞き出せと命令を受けたのだ。
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