The night is still young 魔法舎に泊まれる日のアーサーは、寝る前に談話室などで皆とゆっくり過ごすことが多い。この日も幾人かの若い魔法使いたちと談話室でおしゃべりをしていたが、リケが船を漕ぎ出したところでお開きとなった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
それぞれ挨拶をして部屋へと戻る。カインとアーサーはうつらうつらしているリケを彼の部屋へと送り届けてから、連れ立って二階の自室へと向かった。
「おやすみ、アーサー」
「カイン、おやすみ」
それじゃあ、とアーサーが自室のドアを開けようとしたときだった。
「アーサー」
呼ばれて、振り向く前に、ぎゅっとカインに後ろから抱きとめられた。
「わ、カイン」
「……この前の仕返し!驚いたか?」
この前というのは、きっと中央の魔法使い4人でアーサーの部屋に泊まったときのことだろう。ベッドを大きくして、4人でいるのが楽しくて、高まる気持ちのままに宙返りでカインの胸に飛び込んだ。あのときカインは笑っていたけれど焦ってもいたようだったので、今度は逆にアーサーのことを驚かせようとしたのだろう。
でもこれくらいじゃ、全然仕返しとは言えない。
「あはは!驚いた!じゃあカインも来て!」
「わっ!?」
カインを部屋の中へと引っ張り込んで、勢いのままにベッドへ倒すと、脇腹をくすぐった。
「アーサー!はは、ちょっと……」
「私も仕返し!カインはどこが弱い?」
「待て、アーサー、……っ、」
「……?」
突然カインが抵抗をやめて静かになったので、やりすぎてしまったのかと手を止めると、それを見計らったようにカインに腕を取られ、逆に押し倒されてしまう。
「あっ!こら……!」
「隙だらけだな、アーサー」
またくすぐられる!と覚悟してアーサーはぎゅっと目を閉じたが、もたらされたのは想像していたようなものではなく、唇へのやわらかい感触だった。
「最初から仕返しなんかじゃなかったんだ」
「カイン?」
アーサーの耳元へ唇を寄せてカインが囁く。足の裏をくすぐられるよりも、よほど背筋は切なくしびれる。
「あのとき、オズに後ろから飛びついたり、……『助けてオズ様』なんてさ、だから……」
カインはたっぷりの沈黙のあと、小さな声で独り言のように呟いた。
「……妬いた」
カインの声色は、艶っぽく誘うようだったが、反面拗ねた子どものようでもあった。
「ふふ、それでさっき後ろから抱きしめたのか」
「……そうだよ、そうだけど、それを言わないでくれよ」
「可愛いな、私の騎士は」
「だから……いや、もう良い」
諦めたように言うカインは、それでもアーサーから離れようとせずに、アーサーの薄く開いた唇に口付けた。アーサーもカインの背中へと腕を回して抱き寄せる。
意外と焼きもち焼きなカインが、妬いたと言って少し声を低くするところが好きだった。アーサーが欲しいと訴える瞳は愛しくて、衝動的になりそうなところを抑え込む理性がいじらしかった。
そしてその理性のたがを少しずつゆるめて、外してあげるのは、アーサーの密やかな楽しみだった。
カイン、ねえ、どこから始めようか。
夜はまだ、これからだって知っている?
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「ひどい! いきなり襲うなんて!」の亡霊として生きていきます。