星に願いを/母の密告星に願いを


「お前は神話のピュグマリオーンを知っているか？」

普段は仏頂面の同期が珍しく顔を赤くしだらしない表情をしていた。ディノとは予定が合わず、2人で酒盛りをしていたところ、酔いが回ったブラッドからの唐突な問い。質問の意図が読めず聞き返す。
「彫刻の像が人間になるやつだろ？」
「フェイスはな、弟が欲しかった俺が造ったんだ」
「は？　何を言ってるんだ」
思わずグラスを落としそうになった。
当然何を言うのかと見つめているとこちらのことなど気にせず話を続ける。

勉学に飽きた齢十にも満たないブラッド少年は工作用の粘土で弟を作成しそれはもう大層可愛がったらしい。弟に本を読み、物語を聴かせ幾つも夜を越えたある日粘土細工の弟が人間の弟になったんだ、と。

「昔から俺は、どんなフェイスも愛しているんだ」
「……酔っ払いめ」
それからも奴は幸せそうな顔で延々と弟の話を続けた。普段あまり飲まない酒量だったからかなんかもう、全てがダダ漏れだった。きっと明日のこいつは二日酔いに悩まされるだろう。

「昨日のことは忘れてくれ……」
「そんなこと言われてもなぁ」
気まずそうにしているブラッドの姿に笑みがこぼれる。こいつは本当に真面目というか不器用だ。
しかし、まさかあのブラッドにこんな一面があったなんてな。
フェイスと会ったらなんと話そうか。


母の密告


「この前ブラッドがね、懐かしい話をしてくれたの」
母親が笑いながら話を切り出す。
幼いブラッドが粘土で俺を創り、愛したから人間になったんだって。ピュグマリオーンなんていつ知ったのかしら。こんなこと言うなんて意外とロマンチックなのね、と。
今の俺たちの関係を知ってか知らずか、母親はにこやかに話していた。
「もう帰る時間だから、じゃあね今度休みをもらったらまた帰るから」
「お兄ちゃんにもたまには家に顔出すのよってよろしくね、まったく忙しいって顔を見せてくれないんだから」

タワーへの帰路、それが本当ならと期待してしまう自分がいて。触らなくてもわかる、頬が熱い。
その神話なら知ってる。かつての俺は兄から女神に認められるほどの愛を注がれていたなんて。ただの冗談話だとしても、嬉しい。それも“この前”なんで表現されるほど直近に、話してるなんて。ナイトプールで兄に啖呵を切ったのに、すぐにこうだ。俺の心が乱れてるときはいつだってアニキが原因なんだ。