夜間の救命センターには、たくさんの人がやってくる。突然体調が悪くなった人や、日中にどうしてもくることができなかった人。飲み会で急性アルコール中毒になってしまった人だったり、気圧の変化がひどい時は、喘息の人がよくくる。満月の日には妊婦さんがよく運ばれてくるだとか、いろんなジンクスみたいなものがあったりする。
そんな中、今日は特によく“引く”先輩との夜間担当で、待合室は人でごった返していた。
「……はい、いいですよ。風邪をそのまま放置してしまった、とおっしゃっていましたね?」
「はい……」
「悪化して、肺炎になりかけています。ゆっくりと休んで、しっかり栄養のあるものを食べてください。今日はとりあえず点滴をして、後で処方箋を出すので、受け取って帰ってください」
「ありがとうございました」
「お大事に」
草臥れたサラリーマン風のその人を送り出すと、一織は一つ大きなため息を吐いた。今のところ大きな傷病はないものの、いかんせん人数が多すぎる。たった二人で夜間の間に捌き切るのは無理ではなかろうか。次の患者さんが来るまで、と首を回すと、ごきごきと小気味良い音がする。その発信源が、自分の首からではなければ素直に笑えたのだろうが。
はぁ、とため息を溢すと、一織の担当についていた看護師が苦笑いを浮かべた。
「っ、すみません。優木さんも大変なのに」
「いえ。和泉先生がため息つきたくなる気持ちもわかりますよ。それに、ここだけの話ですけど、和泉先生の担当、取り合いなんです。だから、謝らないでください」
にこりと笑う優木は、次の患者さんがきますよ、と呆けた一織にしゃんとするように促す。決してスルーしてはいけない何かを聞いた気がするのに、次の患者さんが待っているだろうと、言及せずに問診票を預かる。
「……え?」
「次の方お呼びしますね」