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    のなか

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    のなか

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    ココイヌ。11歳〜13歳のイヌピーの話。「スター・プレイヤー」に続きます

    #ココイヌ
    cocoInu

    トーク・アバウト・ア・ボーイ 人間の頭を躊躇することなくぶっ叩けるようになった子どもについて話をしよう。
     そんなことができるなんて、最悪なガキだって思うだろ?
     俺もそう思う。

     ケチのつき始めは小学生のときだった。火事で家が焼けた。
     自宅は父親と母親が思い切り背伸びをして建てたローン三十八年の新築一戸建てで、そこで家族全員が仲良く暮らすことが両親の夢だった。
     夢はあっけなく崩れた。まず、ローンのたっぷり残った家が、跡形もなく無くなった。次に、姉の赤音が全身に火傷を負った。同じ火傷でも、俺は比較的軽症で早々に退院したけれど、赤音は相当重症で入院したっきりになった。
     最後の、「仲良く暮らす」という点についても触れておこう。
     赤音がまだ生きていたとき、家族の心は一つだったと思う。皆、頻繁に病院に見舞いに行ったし、特に母親は赤音の病室に泊まり込んで、一生懸命に赤音のケアをしていた。ある意味で、赤音の病室が一つの家として機能してた。
     でも赤音は死んでしまった。それから母親の、張りつめていた心の系が切れた。そして父親が借家に帰って来なくなった。
     その後に春が来て、俺は中学校に進学したけれど、入学式に父親も母親も来なかったことをよく覚えている。
     事実上の一家離散を迎えた頃、家にも、学校にも、どこにも居場所がなくて、繁華街なんかをよく一人でウロウロ歩いてた。夜の繁華街を歩いているときには、子どもは早く家に帰れって怒鳴られたりもした。今考えれば、そういうふうに子どもを叱るなんて、ずいぶんマトモな大人だよな。
     でも、帰るべき居場所がない場合、一体どうしたらよかったんだ?
     その頃、俺の名前を呼ぶ人間は誰もいなかった。
     俺は自分が世界から切り離されて、一人っきりでいる気持ちがしてた。
     そもそも、火事で、俺は助かるべきじゃなかった。
     俺のことを心配してくれる人間なんて、いなくて当然だったのかもしれない。

    「お前、オレに似た良い眼してんね」
     繁華街の裏路地の、薄汚れた店の裏側で、男が俺に声をかけてきた。黒川イザナとの因縁の始まりだった。
     思うに、繁華街をウロついて歩いてる子どもの行き先は、だいたい二種類に分かれる。少女なら、その日のうちに二十人のゲス野郎から「ウチにおいでよ」と話しかけられる。少年であれば放っておかれて、そのうちに愚連隊に吸収される。俺の場合は後者だったわけだ。
     黒川イザナと俺は、お互いになんとなく顔を見かけたことがある程度の関係だったが、イザナが俺を認識した上で話しかけてきたことで、関係が変わった。
     イザナは暴走族のボスで、俺はイザナの誘いでチームに入った。単純だった俺はすぐにイザナの色に染まった。十三歳がおおよそ可能な暴力は全てやってみたし、イザナの指示で店のガラスを割って宝石強盗、なんてことにも手を染めてみた。鉄パイプで人間の頭を躊躇することなくぶっ叩けるようになったのもこの頃だった。
     バカな子どもだ。
     だから結局少年院に入った。当然のことだ。

     赤音が死んだ後、皆、自分の悲しみの中に深く沈み込んでいた。
     いっとき皆、完全に俺の存在を忘れていたんじゃないかと思う。俺も赤音がいなくなって悲しかったけど、自分が忘れられたことの方がショックだった。
     その頃、俺は、あまりにも俺の名前を呼ぶ人間が誰もいないから、自分は半分幽霊みたいなもんなんじゃないかと思ってた。
     実際、俺があてどなく街を歩いていたとき、大体の大人は俺から視線をそらして見えないふりしていた。
     誰も街をさまよう子どもの幽霊を気にしなかった。ただ一人を除いては。
    「バイク好きなの?」
     そのとき俺は店の前にはいたけど、別にバイクなんて見ていなかったはずだ。でも、そうやって真一郎君は、俺に声をかけてくれた。
     優しい言葉にすがってバイクショップに入り浸るようになり、そのうちに客である若い年長者たちから、顔と名前を覚えられた。彼らは暴走族のOBで、やがて彼らから黒龍という、時代を作った暴走族の輝かしい栄光と仲間たちの話を聞かされるようになった。
     初代総長、副総長、親衛隊長、特攻隊長。
     彼らの話に登場する仲間たちはシンプルに格好良かった。
     あの頃イザナのチームだった黒龍に入ったのは、自分にもそんな仲間が欲しいと思ったからだ。
     でも本当は、誰よりもあの頃そばにいて欲しかったのは……………………


     
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