体温その日は少しだけ、欲が出てしまった。
小脇にプリントを抱えポケットに手を突っ込んで歩く猫背、それを目指して駆ける軽快な足音が廊下に響く。
冬の太陽はとっくに地平線の向こう。外を歩く生徒の息は白い。校舎の中にも冷気は忍び込んでいて、少年の喉をツキリと痛ませた。
だから、と言う訳でも無い。
ただ何となく、触れたいと思ってしまった。
先生、と呼ぼうと開いた口を一旦噤んで、少年はその黒い背中へと手を伸ばした。
触れたら温かい気がして、先生の体温を感じられる気がして、心臓がトクトクと指先まで血液を送る。自分の手のほうが熱を持っていることになんて気付かないまま、その手の平が背中に近付く。
あと30センチ。
あと20センチ。
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