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    suzumi_cuke

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    suzumi_cuke

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    宇佐美が二階堂に「怒る」と「叱る」の違いについて語る話。原作196話後くらい。アニメでちょうどゴロンゴロンするところやってたので再掲。このときはまだ「愛です」なんて中尉が言い出すとは思ってなかったです
    https://twitter.com/suzumi_cuke/status/1146359259111677953

    怒ると叱るの違いについて / 宇佐美+二階堂 いざ片脚を撃たれてみると、確かにこれは不自由だ、と宇佐美は実感せずにいられなかった。
     何かを支えにすれば歩けないことはないが、ちょっとした段差を越える時や、戸を開けるのに片手が塞がる時など、思いもよらないところで立ち往生してしまうことがたまにある。
     例えば今も。
     両足を投げ出して座っている畳から立ち上がろうとして、支えになるものが近くにないことに気がついた。ちゃぶ台などがあれば手をついて立てなくもないのだけれど近くにはない。それか小銃を松葉杖代わりに……などと思いながらきょろきょろしていると、ぬっと目の前に手が現れた。
    「はい、宇佐美上等兵殿」
     片脚どころか片手まで失っておいて、よくもまあ二階堂はここまで復帰したもんだなとちょっとだけ感心しつつ、その二階堂が差し出した左手を宇佐美は取った。
    「はいどーもね」
     見た目に反して意外に二階堂の腕は力強かったため、引っ張られるのに調子を合わせて立ち上がろうとした宇佐美は、勢い余って危うく二階堂の胸に飛び込みそうになったが、二階堂がさっと後退ったので、けんけんと片脚でどうにか踏みとどまった。じろっと宇佐美が二階堂を睨む。
    「危ないだろ、ちゃんと受け止めなよ」
    「えっ、やだぁ……」
    「いや僕だってお前に抱きつきたきゃないよんもぉ~、面倒見てやった恩も忘れてぇ~……」
     ぶつくさこぼす宇佐美に、二階堂が小煩そうに顔をしかめる。口の達者な宇佐美に口答えしても、根に持たれてねちねちとイビられるだけである。さっさと用件を済ませて散歩にでも行ってしまおうと、仕方なさそうに腕を下から回してやり、肩を貸してしゃんと立たせた。
    「で、どこですか?厠?風呂?メシには早いっすよ」
     訊いても返事がない。顔を向けると、宇佐美はただですらでかい目を見開いて二階堂の耳のあった場所を凝視していた。傷跡の部分にはやけに白くのっぺりとした皮が張っている。
     視線の薄気味悪さに二階堂が体を離そうとすると、宇佐美がひょいと傷跡を指差した。
    「それ、鶴見中尉殿にされたんでしょ?」
     今更確認が必要なことではないはずだが、と思いながら二階堂は黙って頷く。
    「いいなあ……」
     うっとり呟く宇佐美の目が酔ったように濁る。このまま放り捨ててやろうかという考えが二階堂の頭を一瞬過った。
    「全然よかないっすよ。もう少しで鼻まで削がれるところだったってのに……」
    「ええ!なにそれ!」
    「わ、わ」
     宇佐美が目を煌めかせる。だけでなく、ときめきが止まらないのかふりふりと体を震わせるので、二階堂はふらついた拍子に本当に宇佐美を落としてしまった。ぼてっと畳に転がった宇佐美がムッとして二階堂を見上げた。
    「ちょっと!気をつけろよ、怪我人だぞ」
    「そっちが暴れるからでしょー……」
    「だって、鶴見中尉殿直々にそんなお仕置き……はァッ……胸がどきどきする……!」
     虫のようにじたばたと身悶えする上官を二階堂はしばらく無表情で見ていたが、やおら屈み込むと、低い声で囁いた。
    「そんなに拷問されたきゃ、あんたも造反してみたら?」
     宇佐美が気色悪い挙動をぴたりと止める。
    「馬鹿だねえ」
     と言って、小馬鹿にしたような目を宇佐美に向けた。
    「僕は別に鶴見中尉殿を怒らせたいわけじゃないんだよ」
    「だってお仕置きされたいんでしょ」
     やれやれと首を振ると、宇佐美は畳に寝そべって片肘をついた。
    「いーい?お仕置きっていうのは基本『叱る』っていう行為に付随する罰。で、ここが大事なとこなんだけど『叱る』と『怒る』は全然違う」
    「ふーん、どこが?」
     あまり興味があるようには見えない二階堂の態度に、宇佐美はこいつに言ってもわかるのかな、と小さく鼻を鳴らして答える。
    「『叱る』時って、どうしたら相手の為になるのか考えてするもんなの。逆に言うと、どうでもいい奴だと思ってたら叱ったりしないから」
    「そんなもんかなぁ」
    「っていうかよく知らない奴って叱れないでしょ~。怒るだけならそこの箪笥にだって怒れるけどさ」
     宇佐美が壁に沿って置かれている箪笥を顎でぞんざいに示してみせる。二階堂は箪笥の方を振り向き、先日この上等兵が転がりまくった際、箪笥の角に足をぶつけて喚いていた姿を思い出してなんとなく納得した。確かに、無機物は叱ったところで反省もしないし成長もしない。
    「怒るのはもっと簡単、というか単純?要は自分がすっきりすれば解決するんだからさ。でも叱るってのは別……叱る時は、眼の前の相手をちゃんと見てるもの……」
     そう、叱るという行為には『愛』がなくては。
     空いている手で胸元をそっと押さえて、何かしら込み上げるものを身内に留めようとするかのように宇佐美は目を閉じた。夢見るように言葉を続ける。
    「つまり鶴見中尉殿に叱られるってことは……その間、中尉殿が僕のことを考えてるってわけわかる」
     盛り上がった勢いで、突如がばりと宇佐美が跳ね起きたので、ぎょっとして身を引こうとした二階堂がぺたりと尻もちをついた。宇佐美の両目は爛々と輝き、もはや二階堂を映しているのかも怪しいもので、頬もすっかり紅潮している。はあはあと荒い呼吸を繰り返す異様な興奮っぷりを目の当たりにして、言葉もなく目をぱちぱちする二階堂の様子に、少し冷静になったのか、宇佐美はのっそりと体を横たえると、澄ました顔に戻った。
    「だから造反はだーめ。敵になっちゃったら、もう叱ってもらえないでしょ?……ああ、でも」
     ふと、素敵なことを思いついた、とでも言いたげに、宇佐美が頬を緩ませる。
    「鶴見中尉殿の手にかかって死ねるなら本望かも……」
     やや血走った目を皿のようにかっぴらき、興奮しちゃうッ、と宇佐美が畳の上をゴロンゴロン転がる。二階堂は目をぎょろぎょろさせながら圧倒されたようにその痴態を見ていたが、その目がつと、細くなった。
    「……あんたさぁ……」
     義足と自前の足とでだらだらと行儀悪くしゃがみ直すと、冷ややかな目と声で二階堂がぼそりと呟く。
    「やっぱ変態だな」
    「頭カチ割るよ?」
     全く笑っていない目のまま、宇佐美がにたりと口元を歪めた。
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