お揃いの思い出 「千鶴ちゃん?」
じ、とこちらを見る視線を感じ思わず八郎は千鶴の方へと振り向いた。
「何か僕の顔についていましたか?」
「い、いえっ…そういうんじゃなかったんですけど…」
そう言って千鶴は顔を逸らすものだから優しく八郎はその両手を包むように握った。
「僕と君は夫婦ですよね?」
顔を覗き込むように言えば、額をくっつけているからか千鶴の顔は赤く染まっていく。
「…は、はい」
「だったら何か思うことがあったら、言いたいことがあったら気にせず言ってください。何もなくても、僕は君と話すだけで嬉しいので言ってくれると嬉しいです」
「っ…本当に大したことないことなんです、今更って感じの事ですし…」
「大したことかそうじゃないかは僕が決めるよ。だから…ね?」
そう甘えるようにお願いされては抗うことなどできずゆっくりと千鶴は言葉を紡ぐ。
「八郎さんの髷が…男装していた時の私の髪型とその…似ているように思っていたので、その…髪を切られたのが、寂しいなって…思ってしまって……」
「っ」
八郎にとっては爆弾のように思えるその言葉に八郎は思わず口を紡ぎ、そして衝動的に千鶴の事を抱きしめていた。
「八郎さん…?」
「君って子は…本当………はぁ……」
そんな言葉を零しながら八郎は千鶴のことを優しく抱きしめ、そんな八郎の背におずおずと千鶴は腕を回した。
「…千鶴ちゃん、君って本当…可愛すぎますよ」
「えぇっ…!?」
「今更ながらに新選組にいたことが怖くなってきました」
「そ、そんなこと…わ、私が好きなのは八郎さんだけなので!」
「ふ、ふふ…顔が真っ赤ですよ。可愛い。」
「も、もう!」
慣れない言葉を言われますます顔を赤くする千鶴がさらに可愛く見えて八郎は、愛するように千鶴の鼻に唇を押し当てる。
「お揃いが嬉しかったなんて、本当に嬉しいです。僕も…実は嬉しかったので」
そう言って照れ笑う八郎につられるように千鶴は笑う。
「ねえ千鶴ちゃん、こういったことこれからは隠さずに教えてくれると嬉しいです。僕は君とこういったものをたくさん共有したいので」
「…わかりました」
「やった」
子供のように笑う八郎が可愛くて千鶴は思わず頬を緩ませる。
「そうだ千鶴ちゃん、実は前に髷を結っていた髪紐が箪笥の奥にしまわれているんですが君さえよければ使いますか?」
「え?いいんですか?」
「はい。僕はもう使わないもので君が持っていてくれると助かります」
「…じゃあ、お願いします」
「はい」
あの時の八郎の象徴のような髪紐をもらえることは千鶴にとっては宝物のように嬉しく満面の笑みを浮かべる千鶴だった。
-了-