映える赤 初めての再臨を終え衣替えをした僕は愛おしい背中を見つけそのまま抱きついた。
「きゃっ!?」
「雅!」
ぐりぐりと肩に頭を押し付けようとするが何故か怯えたように雅は及び腰になりつつ僕から逃げようとする。
「ま、雅?」
「あ、あなた…だ、誰ですか!私には夫も息子もおります!見知らぬあなたに抱きつかれる理由などないはずです!」
僕の腕をすり抜けた雅はきっと強く僕を睨め付けた。
「雅?僕!僕だよ!分からない?」
「詐欺は間に合っております」
「詐欺じゃなくて!」
「赤い髪の知人などおりません」
「赤い髪…、」
はたと思いつく。第二臨の姿は生前していなかった赤い髪をしていて髪自体も伸びている。だから雅が気づかないのも仕方がない、仕方がない…がショックなのも当然ですぐさま姿を一臨へと戻した。
「えっ!?」
すると驚いたような顔をして雅は目を白黒とさせている。
「し、晋様…?だ、だったのですか?」
「ああ、そうだよ」
けれどまだ疑念は晴れないらしくきっと僕と距離を取り睨んだままだ。
「いいえ!もしかしたらキャスターさんかもしれません…質問をさせてください」
「いいよ」
さすが僕の奥さん。危機管理能力が高い!と思いつつ頷く
「私の夫…高杉晋作が死ぬ直前私に送った手紙の内容は?」
「…僕が死んでも再婚せずに高杉家を守って欲しい」
「本当に晋様だったのですね」
驚いたように口に手を持っていく雅にもう一度抱きしめる。今度は拒否されることはなかった。
「君は強いなあ、強いししっかりしている」
「武士の妻ですので」
「でもかなりショックだったんだぞ?」
「晋様…もう一度さっきの姿、見せてください?」
「いいのかい?」
「はい」
にこりと笑うのを感じて姿をニ臨へと変えると彼女は僕の頬を撫でた。
「これが今のあなたですか」
「っ、」
慈しむような目だった。声は甘く優しい。
「雅……っ、」
「髪も長くて綺麗。赤もあなたにぴったりですね。目の色も少しだけ違うのですね」
興味深そうに彼女は言葉を紡ぐ。それがそわそわとしてしまって、恥ずかしくて、嬉しくて、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
「…この僕も好き?」
「ええ、どちらも。あなたが…あなたであるのなら」
綺麗な、綺麗な笑顔だったら。それが嬉しくて愛おしくて少しだけの理性の力で僕は雅の首筋に小さく噛み付く。
「し、晋作…!?きゃあっ!?」
抱き上げ部屋へと向かう。このまま彼女を愛さないでいるなんて無理な気がした。
「せっかくの機会だ、今の僕に愛される経験もしておいた方がいいと思うんだ」
「えっ…」
部屋へと入り彼女をベッドに寝かせ奪うようにキスをする。
「まさっ……まさ……、っ……」
ただ無心に彼女の名前を呼ぶ。愛したかった。繋ぎ止めていたかった。そんな子供じみた僕の独占欲を彼女は笑って受け止めてくれる。だから調子に乗った僕は縫い付けるように手を握り合い、愛を語るために口付けを交わし合った。彼女の白い肌に僕の赤い髪がよく映えて…とても、綺麗だった。
-了-