君だけのサプライズ 「わっ、雅子さんかわいい!」
思わず声を上げた私に照れたように雅子さんははにかんだ。
レトロな柄の浴衣にレースの襟と袖を合わせた和と洋の合体技のような着こなしでその可憐さが雅子さんによく似合っていた。
「ありがとうございます、マスター様」
「けど、珍しいですね。雅子さんならいつもの格好で来るのかなとか思ってたんですけど…いや、悪い意味じゃなくて!」
変な意味に聞こえて欲しくなくて弁明すると分かっています、と言って雅子さんは照れ臭そうに袖で顔を隠した。
「この格好はその……あの方が、」
「あの方?」
「……し、晋、様、が…」
そう言って顔を真っ赤にする雅子さん。その言葉にああ、と合点する。
「よく似合ってますよ」
「ありがとうございます…自信が持てます」
そう言う雅子さんと笑い合ったあときょろきょろと件の高杉さんの姿を探すが見つからない。
「デートなんですよね?高杉さんは一体どこに?」
「で、デートだなんてそんな…」
「いやいや、男が女に服贈るとか絶対デートでしょ」
と言って歩いていると川の方から灯籠が流れてくる。思わず小さく声を上げる私だったが似つかわしくない音に思わず首を傾げた。
("ひゅるるる…"って?)
そう思っていると一つの灯篭は空へと浮かびそして大きな音と共に大輪の花を咲かせた。
「わぁっ!?」
大きな声を上げる私とは反対にぽかんと口を開けたままの雅子さん。驚きすぎて放心してしまったのかと思ったが次の瞬間大口開けて笑い出した。
「あは、あはははっ…はは、ふふ…あははっ…」
普段上品でお淑やかな雅子さんがこんなふうに笑うのかと思えば思わず見入ってしまったがそんな私の視界は何者かの手によって塞がれてしまう。何者かなんて言わずとも分かるだろうが。
「時間切れだ、マスターくん」
「高杉さんって…時間切れってなんです?」
「僕の雅はそりゃあ可愛くて可憐で綺麗で美しい。それにこんな風に笑うところなんて滅多に見られたものじゃないだろう。だからこそ少しは許すとも。少しはね」
それを超えたら許せないと心の狭いことを言ったあとこの男は愛しの雅子さんの元へと近づいた。
「やあ、雅子。どうだった?気に入ってくれたかい?」
「ふふ、ええもちろん…本当、面白きお方ですこと」
そう言ってくすくすと笑っている雅子さんを見てにんまりと嬉しそうに高杉さんは笑みを浮かべた。
「君がそう笑ってくれたならサプライズの甲斐があったというものさ」
「サプライズ?」
「この灯籠流し…特に僕の灯籠流しは君へのものだよ。君を驚かせ喜ばせるためのね」
成功してよかった、と息を吐く高杉さんとは反対に雅子さんはみるみるうちに顔を赤く染め上げていく。
「雅?」
「か、顔を見ないでください…嬉しくて、嬉しくて、泣いてしまいそうで…」
その瞬間、目を丸くして「かわいいなあ」と高杉さんが呟いたのを私は見逃さなかった。そしてとても機嫌が良さそうな高杉さんは雅子さんの手を取る
「じゃ、約束通りデートに行こうか雅子」「え、えっと…!」
「あと、これも僕からのプレゼント」
そう言って高杉さんは雅子さんにメガネを贈る。そっくり、高杉さんのかけているものと同じデザインのものを
「プレゼントが役に立ってよかったよ。これであまり雅子の顔は見えなくなるし、僕とお揃いだ。いうことなしだろう?」
言われ、メガネをかけた雅子さんは上目遣いで高杉さんを見つめる。
「似合ってますか?」
「ああ、世界で一番かわいいし似合ってる。さすが僕の妻!僕の雅子だ!」
「も、もう!」
「あはは!」
そして二人は、二人の世界に入ったまま手を繋ぎデートへと赴いていく。思わずため息を吐く私だったが遠くから可愛い後輩の声が聞こえ私もまた走るのだった。
-Fin-