パンドラの箱 今日も今日とても几帳面というか晋作は奇兵隊そしてアラハバキの整備をする。しかし今日はそれに雅子もついてきていた。僕は晋作の記憶も投影されているからどう足掻いても雅子がいるだけで嬉しいし幸せになるし動悸がする。話を聞くところによると雅子が晋作に頼み込み、無理言って見させてもらっている…そうだが絶対無理なことではない。僕を含めた高杉晋作ということは猛烈に妻、雅子に弱い。我慢をさせてしまったという負い目もあるしそれを抜きにしても世界で一番愛している女性だ、人だ。だから彼女が珍しくお願いを言ってきたからにはどんなことでも叶えたくなってしまうものだ。
「これが晋様の奇兵隊…」
ほう、とため息をこぼしながら目を輝かせている雅。可愛いどころの話ではない、可愛いすぎる美しすぎる可憐すぎる…どこかに閉じ込めて誰にも見られなくしたいほどに。それはきっと晋作も同じだったらしくどこかそわそわした様子でちらちらと雅子を見つつ整備をしていて、非常に気が散っていた。
ーーと、奇兵隊を見ていた雅子が僕が宿る機体の前で止まる。雅子は実質的には僕の妻ということでもあるから何か感じるものがあるのかもしれないと思ったがふわりと笑うだけだった。ほっと安心したのも束の間、雅子は僕の入る機体に、その手に自信の手を重ねた。ギョッとした。動いたら晋作にバレてしまう…けれど雅子を抱きしめたい…けれど雅子を傷つけたくない…そんな僕の気持ちなど知らない雅子はにこにこと笑うだけ。ああ、その笑顔すら僕にとっては毒だというのに。
「いつも、晋作様を守ってくださりありがとうございます」
そう言って雅子は笑った。綺麗な微笑みで見惚れてしまうほどだった。
「これからも私の代わりによろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げる。どこまでも優等生で武家の妻らしい立ち居振る舞い。こういうとこが晋作も好きなんだろうし僕もとても愛おしく思えた。機械の体が疎ましいと思う程には。
「ーー雅!」
むしろ僕にとっては救世主のように思えた晋作は整備を終わらせ雅子の元へと駆け寄りその肩を抱いた。
「何か話してなかったか?」
「これからも晋作様をお願いしますと言っていたんです」
「雅らしいといえばらしいが…」
そう言って晋作は苦笑する。
「…何かいけませんでしたか?」
「いや、そういうんじゃないよ」
そう言って雅子の頬に軽く口付けする晋作。顔を赤くさせる雅子。目の前で繰り広げられるいつもの二人の光景にホッと息を吐く。ああ、バレてはいない…と思いながらどこか実質は僕の妻でもある雅子を本当の意味で僕のものにしたいという欲が生まれ始め、それを僕は深く深く閉じ込めたーー。
-了-