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    プ、12歳まで孤児で路上生活してたならサンタ信じてたことなさそうだよね、という話(ミラプト)

    #ミラプト

    この笑顔を見るためにホリデーシーズンのドロップシップはいつもよりにぎやかだ。色鮮やかなスキンを身に纏ったレジェンド達も、心なしか浮き足立っているように見える。それもそのはず、今日はクリスマス・イブ。この後の試合が終われば、年末年始の休暇がはじまるのだ。
    「サンタクロースの存在を何歳まで信じていた?」
    もみの木に住む小人のような装いのワットソンの問いに、共有スペースのソファで寛いでいた面々は、思わずコースティックを見た。個人スペースでコーヒーを啜っている彼はこの時期、サンタクロースのような出立ちでゲームに参加している。ガスのおじさんからサンタのおじさんにジョブチェンジした彼は、この時期だけは子供たちに人気で、特にウィンターエクスプレスでは大活躍している。主催の自分より目立たれてミラージュとしては複雑な気持ちだ。俺だってくるみ割り人形そっくりで子供ウケしそうなキュートでファンシーなスキンなのに!そう嘆いたら、白タイツがな、と恋人に難しい顔をされた。
    突然視線を向けられた人気者は、不快感をあらわに眉を寄せた後、くるりと椅子を回して背を向けてしまった。その後ろ姿はサンタクロースそのもので、思わずプレゼントの入った大きな袋を探してしまう。いつもは剣呑な視線も柔らかく感じられるから不思議だ。
    「実は私、12歳まで信じていて…パパがあまりにも上手く隠すものだから、12歳のクリスマスに告白されるまで信じていたの!」
    皆の格好を見ていて思い出しちゃった、と鈴を転がすような声で笑うワットソンは純粋だ。あのリングを作った天才親子がサンタクロースの存在で一悶着したと思うと微笑ましい。
    「俺は5歳までだったぜ!サンタの正体が見たくて朝まで起きて見張ってたんだ!」
    「次の日1日中眠そうなシルバを介抱したからよく覚えてるわ」
    「そんなことあったか?」
    すっとぼけるトナカイ姿のオクタンにライフラインがショックスティックで1発。まるでトナカイを操る手綱だ。幼馴染たちは今日も仲睦まじい。
    「俺は確か7歳くらいまでだったような…ずっと信じてたのに兄貴達にバラされちまってよ。」
    あの時はこの世の全てが信じられなくなった!ミラージュが頭を抱えて天を仰ぐと給湯室から出て来たクリプトと目が合った。フ、と鼻で笑われる。大方、情けないツラ、などと思っているのだろう。ムッとしたミラージュはクリプトに水を向ける。
    「おっさんはサンタクロースの存在を何歳まで信じてたんだよ?何でもお見通しのハッカー様ならそれこそオムツが外れる前から正体知ってそうだな?」
    クリプトの動きがピタリと止まる。あ、とミラージュが思った頃には遅く。共有スペースにいた面々の視線を受けて伏し目がちになったクリプトの手の中のコーヒーが揺れて、波紋を作って、消えて。
    「…サンタクロースという文化を知った時、同時にその正体を知ってしまったから、信じていたことはない。」
    クリプトの声を掻き消すように、試合開始5分前のブザーが響いた。

    今年最後の試合はコースティックがキルリーダー兼チャンピョンで、人気者の実力を見せつけられる結果となった。チャンピョンインタビューでは、チームメンバーのクリプトとワットソンが、サンタクロースのおかげです、などと言って人気者を弄っている。その表情に、試合前に見せた陰りはない。
    少しの安堵と、あんな顔してたクセにという気持ちで、中途半端な順位で終わってしまったミラージュの胸中は複雑だ。
    サンタクロースを信じていたことがないということは、クリプトにとっては些細なことなのかも知れない。サンタクロースになる者がいない、プレゼントを心待ちにして過ごすこともない、そういう環境に育った、それだけのこと。お子様ランチを食べたことがないと口を滑らせた時も、そのこと自体より、そこから自分の過去を推測されることを危惧しているような様子だった。
    クリプトの過去が気にならないわけではない。恋人のことを知りたいと思うのは当たり前のことだ。もしミラージュが真剣に問えば、クリプトは過去を明かしてくれるかも知れない。それとも言葉を詰まらせて俯いてしまうだろうか。最悪、何も言わずミラージュの元を去ってしまうかも知れない。様々な可能性が脳裏を過って結局、ミラージュは口を閉ざすことを選ぶ。
    秘密の多い恋人は、秘密が多いくせに嘘がつけない。言いたくないことや聞かれて困ることは上手く交わしてしまえばいいのに。それができない。真っ直ぐで、誠実で、残酷で、愛しい恋人。無理に暴きたいとは思わない。大事なのは今だ。クリプトが共にいることを選んでくれた、今を大事にしたい。過去に得られなかったものがあるなら、これから得ていけばいいのだ。たとえば顔がよく料理もできる完璧な恋人とクリスマス・イブを過ごす経験とか。
    「ディナーはお任せあれ、チャンピョン様。」
    メッセージを送って、ミラージュは一足先に帰路に着いた。

    「チャンピョン様は皮肉だろ。」
    折角アルコールも回っていい気分になってきたところなのに。夕食後、クリプトが帰宅前に送ったメッセージを見せながら突っかかってきた。
    今日ばかりはクリスマスらしくポークチョップではなくローストチキンをメインに、ポテトサラダをベースにベビーリーフやオリーブ、スモークサーモンなどをトッピングしたリースサラダとほうれん草とトマトのキッシュ、それらをスパークリングワインで楽しんだ。前日に仕込んでおいて焼いて盛り付けるだけにしておいたそれらは味もバッチリで、クリプトの言葉を借りるなら、いい準備の成果というヤツだった。デザートのチョコムースにはいちごで作ったサンタクロースも添えたし、意外と可愛いもの好きの恋人にも満足いただけたようだったのに。クリプトは据わった目でミラージュを見つめる。
    「確かにキルリーダーはコースティックだったが、いい動きしてたぜ?クリプちゃんも。」
    事実、ラスト3部隊の最終安置の混戦で、クリプトがEMPで2部隊の動きを止めたところにコースティックのガスグレネード炸裂して、キルこそコースティックのものになったが、クリプトの貢献は大きかった。それでも面白くなさそうな顔をしているのは、コースティックとの因縁のせいだろうか。ふん、とそっぽを向いてしまった頬を撫でる。冷たい金属とアルコールで熱を持った肌の温度差が気持ちよくて、ダイニングテーブル越しなのがもどかしく感じてしまう。
    「お互い今年最後の試合は不完全燃焼だった、と…なら、もうひと試合しないか?」
    何のことだ、とクリプトが思うより先に、立ち上がったミラージュに横抱きにされる。向かう先は寝室。ミラージュの意図するところに気づいたクリプトは、途端に暴れ出した。
    「ムードもへったくれもあったもんじゃない!降ろせ!」
    「コラコラ暴れるなって!」
    激しい抵抗で半ば転げ落ちるようにベッドに背を打ったクリプトの首が枕とは違う何かに沈み込む。枕より大きくて、複雑な形をした何か。上体を起こして見るも、電気をつけていない寝室は暗く、それが何か視認できない。ミラージュが笑う気配がしたと思ったら、ベッドサイドのルームランプをつけられる。
    「おっと、こんなところにメガネッシーが!一体誰が!」
    橙色の光に照らされて現れたのは、大きなネッシーのぬいぐるみだった。クリプトがデスクに置いているものよりひとまわりもふたまわりも大きいそれは、先日発売したばかりでクリプトが購入を迷っているうちに売り切れになってしまったものだ。首にはご丁寧に金色の鈴のついた赤いリボンが巻かれていて、付属のカードにはメリークリスマスと書かれている。
    「クリプト!おい、あれ!」
    次は一体なんだというのだ。興奮した様子のミラージュが窓の外を指す。ネッシーを抱えてクリプトが窓の外に目をやると、隣のマンションの屋上に人影が。月の光に照らされて浮かび上がったのは、赤と白の服を着た恰幅のいい老人だった。赤い帽子を被り、口元は白い髭で覆われていて、コースティックの背にはなかったプレゼントの入った大きな袋も背負っている。傍にはトナカイとソリ。誰が見ても完璧なサンタクロースだった。2人の視線を受けて目を細めて笑った彼はソリに乗り、そのまま浮かび上がって、御伽噺のように夜空に駆けていってしまった。
    その姿が見えなくなるまで小さくなってから、ミラージュは密かにベッドサイドに持ち込んでいたホロ装置をオフにした。ホログラフの幻術師様は自分のデコイだけじゃなく、その気になれば何でも好きなものを投影できることは、意外と知られていない。突貫工事にしてはいい出来ではあったが、賢い恋人はとっくにサンタクロースの正体に気づいているだろう。ミラージュ、と呼ぶ声が柔らかい。
    「この家のセキュリティを見直さないとな。」
    大きなネッシーのぬいぐるみに頬を寄せた恋人の笑顔は、この世の何物にもかえがたい。たとえセキュリティを厳重にしても、その隙を掻い潜って、来年も、再来年も、その先も、サンタクロースは現れるだろう。この笑顔を見るために。
    騙されたな、というお決まりのセリフは、今日だけはしまっておく。
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    MAIKINGクリプトがミラージュ宅にお世話になる話
    帰るまで終われまてん
    なんとしても書き終わらせたいなぁ

    #ミラプト
    懐かしい気持ちだった。
    熱にうなされて、苦しくて・・・
    もやもやする意識の中で、時折優しく触れる手が好きだった。
    額に触れて、撫でられて冷たくて、優しい手を俺は知ってる。






    抱き上げられるように現実に引き上げられると、そこは知らない天井だった。
    『奴らにつかまったのか?』
    反射ビクッと体を動かせば全身に激痛が走る。
    「っ!!くそっ・・・、ハック?」
    無理に体を起こせば、サイドテーブルに置いてあるハックが目に入る。
    『ハックがあれば逃げられるか?』
    部屋を見渡し、ハックを抱え扉と反対側のベッドに身を隠すように座り込む。
    外装の確認をして起動スイッチを押せば、すんなりと電源が入ることを確認する。
    『休止モードに入っていた・・・?』


    ーカチャリー


    「!!!!」
    「あ・・・。目、覚めたのか?」
    この声は聞き覚えがある・・・
    「ウィット・・・?」
    「・・・全く心配させやがって。動けるならこっちの部屋に来い。服はその・・・着てこいよ。その辺のヤツ、使っていいからな。」
    そういって、またカチャリと音がする。どうやら部屋の扉を閉めていったらしい。
    『逃げるなら逃げろということか』
    2052

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