セックスしないと出られない部屋のナオ武♀② この部屋はセックスしないと出られないらしい。
一緒に閉じ込められたナオトとセックスするのか、しないのか。その問題をタケミチはひとます先送りにして、他の脱出方法を探すことにした。
だが、いくら部屋を探索しても手掛かりは見つからない。
ドアも窓もはめ殺しで、開くことはなく例え開いたとしても、外は真っ暗でクレーターの地面が続いているだけだ。外に酸素が存在するかもわからない。外に出るのは危険だと結論づけるしかなかった。
「げっ、すげぇの見つけたんだけど」
押入れの中を探索していたら恐ろしいものを発見してしまった。衣類を仕舞っている透明の衣装ケース。その中に女性モノの服が入っていた。ナオトも後ろから覗き込んできて「なるほど」と言った。
「女性モノの服も用意されてる、と」
「そうそうブラジャーとかパンツとか……あ、これマイクロビキニじゃん。エグいなあ。AVでしか見たことねぇよ」
布面積が異常に少ない水着を手に取り、まじまじと観察した。他にもセーラー服、バニー服、猫耳メイドとコスプレ衣装が揃っていた。これは間違いなく、セックスでのそういうプレイを想定して用意されている。
「なかなかですね……」
「ラブホのコスプレ貸し出しかっての」
呆れたふうに言いながら、タケミチは内心かなり動揺していた。用意されたフリルとミニスカートの衣装に嫌でも自分が女体化したことを意識させられる。これを着てえっちなことされちゃうんだろうか……と勝手に妄想が膨らんできて、慌てて消した。コスプレ衣装もケースに詰め込み、早急に見なかったことにした。でも、下の段の引き出しを開けたところで再び固まった。背後から覗き込んでいたナオトも中に入っているモノを見て無言になる。
タケミチはごくり、と生唾を飲んだ。
そこにはありとあらゆるアダルトグッズが用意されていた。電マにピンクローター、ディルド、電動バキュームローリング刺激のTE◯GAまである。おそるおそる電マを手に取り電源を入れてみるたら、ヴイィィィン!と響くような振動が手に伝わってきた。
うわ、これ使ってセックスしろってことか……。
首の後ろがじわりと熱くなってくる。この熱が童貞ゆえのものなのか、セックスを意識したせいなのかわからない。わからないが背後の男の反応が気になった。
「はは、すげぇエグいの用意されてんな」
振り返って苦笑いをしたが、ナオトの表情にはほとんど変化がなかった。無表情にグッズを眺めていたかと思ったら、ひょいと手を伸ばしてディルドをひとつ掴んだ。かなりリアルな代物で、でっぷりとした睾丸からバキバキの血管まで再現された巨根のディルドだ。それをナオトは観察しながら、唇に親指を当てている。何か考えているようだ。
「えっ、もしかして……オマエのそんくらいあるの?」
怖い想像をしてしまった。ついついナオトの股間をじっと見つめてしまう。
「いえ、ここまで規格外じゃないです」
「だよな?! よかったー……」
ナオト真剣な顔で否定されて、ほっと胸を撫でおろす。ナオトのモノがこのディルドくらい馬鹿デカいのであれば挿入は激しい痛いを伴うに違いない。女体化した自分の身体は小柄だし、絶対に挿らない。そもそもこの身体は処女だ。普通サイズでも絶対痛いはず……。そこまで考えて我に返った。
――いやいやいや、なんでオレはコイツとえっちする前提でいるんだよ?!
カッと頬が熱くなった。セックスなんて無理だと言いながら、自分はいつの間にかナオトとセックスする方向に心が傾いていたのか。
でも、それも仕方ないと言える。探索すればするほど、この部屋はタケミチが知ってる世界と違うと突きつけられたからだ。セックスすればこの異常な空間から脱出できるのなら、パパッとすませるのが賢いやり方なのではないかとすら思う。何も「死ね」と言われている訳ではなく、快感を伴う性行為をしろとというだけなのだから。
ナオトに「セックスできます?」と尋ねられたときは事態を飲み込めなくて拒否反応のほうが大きかった。でも今は……
――ナオトとならしてもいいかも……。
女の子の身体でえっちすることに興味はある。男の身体より何倍も気持ちいいって言うのは本当なんだろうか。
ちらっと横目でナオトを窺うと、相変わらず落ち着いた様子だった。刑事という職業柄なのかもしれないが、自分ばかりビビっているようで面白くない。
「ナオトってさ、普段どんなので抜いてんの?」
「はあ? いきなり何ですか」
タケミチの問いにナオトは嫌そうに顔をしかめた。
「いや、単なる興味。オマエが興奮すんの全然想像つかねえから。ちなみにオレは綺麗系のお姉さんに誘惑されて無理矢理筆おろしされるヤツが好きだ。出来たらむちむちの巨乳がいい」
「……聞いてないのに趣味を開示しないでください。セクハラです」
「だってさー……」
ナオトはオレじゃ、駄目なんだろう。なんだったらその気になるんだよ。
口を尖らせてナオトを見上げた。今はナオトより頭ふたつ分は背が低いから自然と上目遣いになる。
ナオトと目が合うと視線を逸らされた。かなり不自然にぷいっと逸らされた。ナオトはそのまま腕時計に視線を落として言った。
「煮詰まってきましたし、そろそろ休憩しましょうか」
あからさまに話を逸らされた。だが、ナオトに言われて初めて自分が空腹なことに気づいた。