Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    かり。

    @eh_myh

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    かり。

    ☆quiet follow

    昔のサイト時代に書いたので唯一残ってたもの。
    サイト消すので一応記念に残すためにUPします。

    絶望、そして赤司



    今日は中学最後の全国大会
    少し寂しい気もするけど、それでもこれから始まる全国大会に胸を弾ませていた

    俺たちの学校は全国大会に出場は出来るものの、良い成績は残せないといったレベルだった
    けれど今年は違う
    バランスの取れたいいチームで、個々の能力も今までの先輩たちよりも高い
    このチームなら最高のプレーが出来る、そう自信を持って言える良いチームだ

    それだけに学校側の期待も大きく、その期待が良い刺激となり俺たちはなんとか四回戦まで勝ち上がることができた
    四回戦まで勝ち上がったという結果は快挙であり、さらに俺たちを盛り上がらせる

    そして五回戦目の対戦相手は帝光中だった
    その名前を見た瞬間、空気が止まったような錯覚に陥る
    同じブロックにいることはわかっていたし、勝ち上がれば帝光と当たることなんて当たり前なんだけど、帝光中という圧倒的強者をどこか遠くに感じていた
    あんな凄い奴らと俺たちが当たるわけないと考えていた
    そんな考えが一瞬頭をよぎったけれど次の瞬間には声を上げていた

    「最後の大会で帝光と当たれるなんてラッキーだな。きっと全然敵わないかもしんねーけど、全力でやってやろうぜ!」

    キャプテンの俺の声に仲間たちは我に返り、そうだそうだ!と声を返してくれた
    そうして最高のプレーが出来るよう、それぞれ気力を溜めて試合に臨んだ












    結果は惨敗

    最初は気力に溢れた表情をしていた仲間の顔が試合が進むにつれてだんだんと暗くなっていく
    暗くなっていくと同時に身体も動かなくなっていった
    試合を放棄する者は一人、また一人と増えていって、試合の中盤では俺以外の全員がやる気をなくしていた
    やる気をなくしたのは選手だけでなく、応援席に座る観客たちも同じだった

    バスケのルールを知らない人間にでもわかる、れっきとした実力の差
    それをまざまざと見せつけられ、正気を保つのもやっとだった
    今すぐにでも試合を放り出したい、こんな惨めな思いをするならバスケなんてやらなければ良かった
    そんな思いが頭に浮かぶのを止めたくて俺は足を動かした、ただがむしゃらに

    一矢報いたいなんて大それたこと考えたわけじゃない
    身体を動かしつづけなければ、試合から逃げ出してしまいそうだったから

    何も考えずにただボールを追うことだけに集中したことが功を奏したのか、相手からボールを奪うことが出来た
    ボールを奪った一瞬、会場が湧く
    けれどそれも一瞬のことで相手ゴールに向き直ったと思ったら、もうボールは相手のものだった
    奪ったのは青峰って言うやつ
    そいつがゴールを決めて数秒、試合終了のホイッスルが鳴る

    その後、コートのお前ん中に集まって挨拶をして完全に試合が終わる
    それからの記憶があまりはっきりしない
    試合後の控え室の様子も、学校へ戻るバスの中も、学校での監督の言葉も、何も覚えていない
    気づくと玄関で倒れていたみたいで、母親の「何やってるの」の声で目覚めた
    目を覚ましてからは風呂に入ったり、夕飯を食べたりと普通の生活を過ごしてベッドに入る

    でもベッドに入ってもなかなか寝付けなかった
    身体は疲れているのに、頭の中は今日の帝光中との試合のことばかり
    どんなに違うことを考えようとしてもこびりついたように離れない
    ボールを奪った一瞬の高揚感、走り去る青峰ってやつの背中、他にも試合中の様々なことが映像として、身体の感覚として思い出された

    思い出しては振り払い、思い出しては振り払いを続けているといつの間にか寝ていたようで、朝を迎えていた

    俺がどんなに昨日の試合で傷心しようとも、母親には関係ないようで学校に行けと追い出されてしまい、なんとか登校することができた
    けれど授業を受ける気にはなれず屋上で一日を過ごすことにした
    昨日の夜、何をしても追い払えなかった昨日の試合のことはほとんど頭に浮かんでこなかった
    その代わり他のことを考えることもできなかったけれど
    ただぼーっと過ごしていたら、扉の開く音がして目を向けると監督が立っていた

    「ここにいたのか」
    「はい、すいません」
    「昨日の今日で立ち直れるとは思っとらん。今回は咎めん、ただ…一つ提案がある」
    「?、何でしょうか」
    「決勝戦を見に行かんか」
    「は?」

    監督の言っていることの意味が理解できなかった
    昨日、散々惨めな思いをさせられた相手が優勝旗を持つ姿をなぜ見に行かなければならないのか
    そんなの傷口に塩を塗るようなものだ

    監督はそんな無神経なことができる人間じゃないだけにさらに意味がわからなかった
    しかも俺の沈黙を肯定と取ったのか、行くぞと言って歩き出してしまう
    ついていかないという選択肢もあったが、ここにいてもしょうがないと思い監督の後を追った


    昨日まで選手として入っていた会場に、今度は観客として入ることが想像以上に屈辱的だった
    俺は負けたのだと再認識してしまうから
    けれど後悔しても遅く俺は監督についていくしかない

    席に着くとちょうど決勝戦が始まったところだった
    まだ序盤だというのに帝光と対戦している選手たちは意気消沈している
    その理由は昨日の俺たちと同じのようだ

    圧倒的な力の差

    それを見せつけられてそれでもなお勝とうなどと思える中学生がどこにいるだろうか
    なんてことはない、ただ強い、強すぎる、それだけのことなのだ
    そんな簡単な事実がいとも簡単に俺たちの心を折ってしまう
    昨日の俺たちの試合と同様に、結果は惨敗
    優勝したのは帝光
    誰もが予測できた結果で、当の本人たちも当然のごとく優勝旗を受け取っていた

    そんな彼らを見つめることしかできなかった俺は、他の観客たちが帰り始めていることに気付かずにいた
    我に返ったのは監督の行くか、の声が聞こえてからだった
    先ほどの試合の帝光の対戦相手たちと自分たちが重なってまた昨日のことを考えてしまう
    そのせいで自分がどこを歩いているかがわからず、気づけば昨日俺たちが使っていた控え室の前に着いていた

    「監督…どういうことですか」
    「いいから中に入れ」

    監督に言われてしまえば逆らうことはできない
    重い気持ちで扉を開けて中に入る

    「ここに人が来るから待っていろ」
    「えっ…」

    「不甲斐ない監督で悪かった…」

    監督は扉を開けて一度立ち止まり、そう言って控え室を出て行った
    混乱する俺はどうすればいいのかと考えを巡らせるが、監督の言う誰かを待つほかないと椅子に座る
    昨日ここにいたときはやる気に満ち溢れていた
    けれど今はどんより沈んだ自分がいる
    その対比にまた気分を落ち込ませていたら扉が開いた

    現れたのは昨日俺たちを負かし、今日優勝旗を掴んだ帝光中バスケ部主将の赤司征十郎だった
    目の前の人物に驚きを隠せないでいると向こうから話しかけてくる

    「やあ、昨日はいい試合ができたね」
    「なんだよそれ、皮肉にしちゃセンス悪いぞ」

    何の悪意もなく放たれた言葉なのだろうが、俺にとっては馬鹿にしているとしか取れず素っ気ない返事となった

    「皮肉なんかじゃない。昨日、僕たちからボールを奪ったことは賞賛に値するよ」
    「褒めてもらって悪いがあれはたまたまだ。ただのまぐれだよ」
    「運も実力のうちと言うだろう?」
    「あのな…そういう言い方が皮肉っぽい、って近すぎっ…」

    昨日の試合の事もあって赤司を見ることができず、さらに赤司の言葉にイラついてそっぽを向いていたのが、最後の言葉にイラつきが最高に達して赤司の方を向くと予想以上に近くにいた
    赤司は俺よりも身長が低くて見下ろすことになった
    しかし不思議なことに見下ろしているのは俺でも、優位に立っているのは赤司だ

    「今日、ここに呼んだのは僕だ。あることを伝えたくて監督に連れてきてもらった」
    「あること…?」
    「僕と同じ高校に進学しろ」
    「は?何言ってんだよ、何で俺が帝光中のキャプテンと同じ高校行かなきゃならないんだ。そんなの俺にとって苦痛でしかない」

    あまりに突飛なことを言う赤司に俺は馬鹿にするように言ってしまった

    「その態度、お前だから見逃すが…次はないぞ。それに帝光中のキャプテンじゃなく、ちゃんと名前を呼べ」

    スッと眼光が鋭くなったかと思うと、もう逆らえる雰囲気は微塵もなかった
    赤司から発せられる威圧感に固まってしまう
    これがあの帝光中をまとめるだけの力を持つということなのか

    「あ、かし…っ、……残念だけど俺は赤司の期待に応えることはできない。バスケはもう辞めるんだ」

    赤司の威圧感に気圧されながらもなんとか声を出して自分の気持ちを伝える

    「バスケを辞めることは僕が許さない、お前に拒否権はないよ。…それにお前がバスケを辞めるのは自分の実力の無さだと思っているようだが、それは違う」
    「…っ!赤司に俺の何がわかるって言うんだよ。たかが昨日試合しただけじゃないか。しかも完膚無きまでに負かされた試合で、だ」
    「わかる。お前のことなら全てな」
    「わかってねえよ!わかってんなら俺にバスケ続けろなんて言わねえだろ!…お前らは…俺たちにっ…後悔さえ与えてくれなかったじゃねえかよ…全力でぶつかることもさせてくれなかったじゃねえか…そんな奴のそばでバスケなんかできねえよ…」

    赤司の言葉に俺は感情を爆発させる
    昨日処理しきれなかった思いが今溢れ出るようだった
    情けないことに泣きそうになっていた


    「それはお前のせいじゃない。チームメイトの能力値が低かったせいだ。お前と同等の能力があれば、そんな思いをせずに済んだ」
    「それは違うっ…あのチームは最高だった!今までにない良いチームだったんだよ…それなのに…」
    「それはお前の学校のレベルの話だろう?残念だけどあの学校はお前には不釣り合いだったんだよ。うちからすればまだまだだ。けれど、お前だけは違う」
    「俺が違う…?」

    赤司の言うことは俺にとって受け入れられない言葉のはずなのに、完全に負かされて精神的に辛い状況で正常な精神状態じゃない俺は赤司の言葉に耳を傾け始めた

    「そう、お前はあんなところで収まる人間じゃない。俺のそばで
    能力を発揮すべきだ。そうすればもうあんな惨めな思いをすることはない」
    「もうあんな、苦しい思い…しなくて済むのか…?」
    「ああ、俺のそばにいると約束するなら保証しよう」
    「赤司のそばにいれば、俺はもう惨めにならない…?」

    赤司の言葉は力強かった
    まるで赤司が言うことは全て実現可能な未来であるかのように

    昨日の仲間たちの顔が思い浮かぶ
    試合前の意気揚々とした表情
    試合が進むにつれてだんだんと沈んでいく表情

    苦しかった
    そんな表情をさせてしまう自分の不甲斐なさに
    どうして走ってくれないのだと仲間を責める自分に
    あんな試合で最後の全国大会が終わってしまったことに

    全部、全部苦しかった

    だから…赤司の言葉は、赤司の存在は今の俺にとって全てを委ねられる相手に見えた
    俺の思いに応えてくれるのは赤司だけだ、そんなことまで思った
    もう…赤司の言葉に逆らう意思はなかった

    「赤司…俺を赤司のそばに置いてください…」
    「もちろんだ。歓迎するよ」

    はは、これでもう苦しまなくていい
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💯👏☺👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    かり。

    PROGRESS一次創作。
    今書いてるものの、進捗。
    警備員×芸能人そろそろ空も白んできそうなころ、麻木トーマはやっと番組の収録が終わり、帰り支度をしていたところだった。テレビ局スタッフや他の演者に挨拶をしながら、エントラスが見えてきたところで、ササッと身なりを整える。もしあの人がいたら、と思うと少しでもよく見られたかった。
    「お疲れ様です!」
    少し高めのトーン。照れてしまいそうになるのをテレビ用の笑顔を貼り付けてなんとか隠す。
    「お疲れ様です」
    頭を少し下げて挨拶を返してくれたのは、この局の警備員をしている高根という男だった。トーマはこの警備員に対して、助けられた瞬間から恋をしている。高根の挨拶は無愛想な人間だと思ってしまうような抑揚のないものだったが、恋をしているトーマからすれば仕事を頑張っていると映り、胸をときめかせてしまう。彼の横を通り過ぎたあと、被っていた帽子をさらに深くする。彼の前では醜態を晒せないと気を張れるのに、姿が見えなくなると一気に顔の緩みと熱が襲ってくる。こんなところを見られたら何を言われるか。特にマネージャーにはあれこれ突っ込まれるだろう。車に戻るまでになんとかしないとと考えた末、思いっきりにやけてしまうのが一番だった。そうすればスッキリして案外早く収まるものだと気づいた。
    7055

    recommended works