伝説のステージ「勝っちゃった、ね」
「ああ全くだ」
FF優勝という勝利に沸くサッカーグラウンド。
紙吹雪が舞うここは地上ではなく、空に浮かぶ要塞のようなスタジアムで。自分たちの時代にあったアマノミカドスタジアムと地上から離れた高いグラウンドでたたかうという点では同じだが、もしかしたらこの10年前の方がテクノロジーは発達していたのではないだろうか、と目の前の胴上げされている円堂を眺めながら松風天馬はぼんやり思った。
遡ること1週間ほど前のこと。久しぶりにフェイたちと再会してイナズマタイムキャラバンでタイムワープするところまでは良かったものの、謎の不調によりこれまた何故か天馬と剣城だけがタイムキャラバンから振り落とされてしまうというアクシデントが起きてしまう。気が付けば10年前の円堂たちが中学生だった時代にまで戻ってしまったが、奇妙なことに天馬と剣城の存在は雷門中サッカー部の一員として既に受け入れられているパラレルワールドであった。タイムキャラバンが迎えにこない限りはこの世界から脱出することができないため、「迎えが来るまでいっそこの世界を楽しんじゃおう!」という天馬の提案に反対する理由もなく、天馬と剣城に課せられた設定に逆らうことなく雷門中のサッカー部1年として、口伝でしか聞いたことのなかった歴史の数々を二人は目の前にしている。なんだか妙な気分ではあったが、非常に気分が高揚した。と、まあ気付けばあれよあれよという間にFF優勝まで二人は雷門中サッカー部の一員としてたどり着いてしまった。10年前の雷門中のユニフォームを着たままで。
「まさかアフロさんが神を名乗って、軍事用の強化薬飲んでるなんてびっくりだよね」
「この人たちが化身とか使わずに勝ててることの方が驚きだ…まともじゃない…」
「あはは、それだけ円堂さんたちが強いってことでしょ!」
あまりにも強すぎた世宇子中相手に、剣城が本気で化身を試合中に欲していたのは内緒である。とはいっても化身などなくても最終的に円堂の鼓舞と勢いと気合と根性で打ち破ってしまった。
「いつ迎えが来るんだろうなあ」
「このままだとエイリア学園って宇宙人がくるんじゃなかったか」
「あ~…というかそのままFFIまで一緒に戦うことになっちゃったりして。」
「……あまり考えたくないな」
「一緒にサッカーやるのは楽しいんだけどね…」
このまま聞いていた歴史をたどる旅は非常に魅力的であるし興味を惹かれるものがあるが、エイリアと戦っていた期間は決して短くない期間だったはずだ。その期間までずるずると行動を共にすることになることを考えると頭が痛くなる。
「…この話題はやめるか」
「…そうだね」
まあなんとかなるだろ、と隣の相棒兼好敵手兼恋人の伝染ってしまった口癖を心の中で剣城は呟く。サッカーを奪われたり、歴史を改竄されたり、宇宙人に攫われたり、と今まで大小問わず様々な経験を積んできたこの身はとりあえずなんとかなるだろうと深く考えないことを覚えた。いい影響なのか悪い影響なのかは自分でも判断し兼ねる。だが不思議と悪い気分ではない。
「おーい!天馬、剣城なにやってんだ!こっちこいよ!」
「あ、はーい!いくよ剣城?」
「おう」
大勢に囲まれて大きくこちらに向かって手を振る円堂が握っているのは、日の光に照らされて輝く優勝カップ。自分たちも少なからず手を貸してしまったこの優勝が10年後あんなことになってしまう一因を作ってしまうんだよなあと思うとなんだか剣城は複雑な気持ちになってしまうのだった。同じことを思っていたのか、大きく手を振る円堂の元へと向かって走っている最中、隣の天馬が視線だけをこちらにちらりと向けて、にやりとちょっと人が悪そうな表情を浮かべる。
「このまま帰れなかったらさ…剣城、聖帝とかやれば?」
「…お前がやればいいだろう」
「ぜっっっったい無理!おれ顔に出ちゃうもん!」
「確かにな」
そんな冗談を言い合いつつ駆け出していく二人は、この後様々な恥ずかしい黒歴史を目撃していくことをまだ知る由もないのだった。
(2016/9/16 31:46)