ここはささやかな酒宴の席。テーブルには色とりどりの軽食と、各自の好みのドリンクが用意されている。そして、ルガールが朗らかな調子でギースに祝辞を贈った。
「KOF15へのご出演おめでとうございます」
「ああ、わざわざご丁寧に、ありがとう」
ギースが軽く会釈する。少しだけ戸惑っているらしい。早速、といった体でベガが尋ねる。
「誰と組むのだ?」
「ビリーと山崎竜二」
ギースが宣材写真を見せた。ベガが一瞥するなり言う。
「ヤ○ザチームだ」
「違う。サウスタウンチーム」
「運営が気を遣ったのだろうが、これはヤ○ザチームだぞ」
確かに、だいぶ強面なメンツが揃っていた。
「やってることがね」
「そういうルガールは何故出んのだ」
「私は、もう引退してるからね」
「ハッハッハ。冗談がお上手で」
趣味が復活ゆえに。だが、もう何年ぐらいカードが組まれていないのか。何年……? まあ良い。今は無意味だ。
「万が一、出るとしたら誰と組む?」
ベガにとっては割と気になるテーマらしい。
「一人で出るよ。豪鬼もそうだろう?」
「何故我に話を振る。まあ、一人で出るが」
「だよね。ベガは?」
ベガはたっぷりと間を置いた。
「……。居ない、ので、出ない」
ギースが噴き出す。
「待ってくれよ。貴様にはお気に入りのやつが居るだろうが」
「何のことだ」
とぼけているのかと思ったが、どうやら魔人の天然気質が発動したらしい。思わず突っ込んでしまった。
「唾を付けすぎて誰の事を言われておるのか判って無いな?」
だが冗談ではなく心からの本心だ。ベガの人間関係は拗れている。
「まさかFANGの事を言っているのか」
直感したベガに対し、ギースが大きく頷いた。
「そうだとも。ファナティックアンドニューグラデーションのことだとも」
わざと間違えるギースに対し、ルガールが訂正を入れる。
「ファンタスティックアジアンノトーリアスギャングだよ」
なんで覚えていられるんだろうか。
「ああそうだった。ベガよ、あんなにお前のご執心のやつなど他におらんぞ? 無論実績もある。名前を挙げてやるのが筋ってもんだろうが」
とギースは言うが、俺には皮肉に聞こえる。ベガは一点を見つめたまま硬直した。
「止まったね」
「めちゃ悩んどる」
ルガールとギースが興味深そうに、長考するベガを観察する。
「……KOFは基本三人組だな?」
と、ベガ。ルガールが、別に二人でもいいんだよと宥める。しかしベガは首を横に振った。
「否。それではあまりにも」
生真面目な質が困った形で出ているようだ。
「……私とFANGが組んだ場合、もう一人が思い浮かばない」
思い悩んでいる。見かねたギースが提案した。
「他の四天王とか、ジュリとか」
「ジュリはキラービーと組ませたい」
「欲望がだだ漏れ」
うら若き娘が喧嘩しているさまを眺めていたいという性癖よ。
「そうだ、私が邪魔になる。百合の間に割って入る男になってしまう」
我に返らなくていいところで返ってしまった。
「誰もそんなこと思わないよ」
「つまりベガとFANGと組んだ場合はBLにしゃしゃり出てくる女になるわけか」
まずい。独り言が漏れ出てしまった。
「別に女性に限定してないでしょ」
「BLて」
「振り返るべきはそこじゃないよ」
「ベガとFANGとバルログ、バイソンとエドと誰かとかさ。色々あるだろ、やりようが」
俺とルガールの不明瞭なやり取りの横で、ギースが諦めずに提案を続ける。ギースとベガが同じチームで出場するという選択肢は、恐らくない。これは共通認識というか暗黙の了解というか。
しかしながら提案することは正解か? ただ相槌を打てばいいのでは?
「キラービーと組んだら?」
とルガール。すると、
「親と組むのは嫌だって」
すかさずギーズが返す。そういえば、例の少年も出るのだったか。
「ほら、運動会じゃないんだしさ」
気を取り直したように、シニカルにギースが言う。ルガールが笑った。
「タクマやハイデルンへの悪口かな?」
「いやいやいや、お前だって、それはちょっと……だろう?」
「私は別に? ああでも、向こうは嫌がると思うよ」
兄弟と一緒に出場するだけギースは大人だと思う。俺は御免だ。
「ベガはお友達が多いだろう? 悩んでしまうよね」
ベガは黙り込んだまま動かない。
「めちゃ悩んどる」
頭を抱えている。そこまで行くものかね。
「あー。こうなったらもうだめだ。悩みの迷宮から出てこないぞ」
ギースが微笑ましそうにベガを眺めていた。