ラプンツェル背中が熱い。
炎の勢いはまるで衰えることなく、狭い吹き抜けの中を喰い尽くすように上へ上へと浸食してくる。
階下はもう火の海だろう。どうにもならずに吹き抜けに沿うように作られた階段を、隼人を抱きかかえたまま駆け上がる。
力が入らないらしい長い脚のせいでバランスを取りにくいが、カムイの力なら大したことはない。
ぐっと首にかけられた腕に力が籠る。
「カムイ」
柄にもない小さな声が何を伝えようとしているのかわかってしまって、絶対に目を合わせるものかと目線を上げる。
どうせ俺を置いていけとか、ろくなことを言わないに決まっている。
隼人の声を耳に入れるつもりがないことを、カムイのその顔で悟ったらしい。
小さく笑うと、灰で汚れた頬を拭ってくれる。
ただそれだけで。
カムイはぐっと足に力を籠めると、更に速度を上げ走り続けた。
(……着いた)
最上階の扉を蹴破ると、いったん隼人を下ろし扉を再び閉める。
煙が充満する吹き抜けの中では息がし辛く少し酸欠気味になっていたのか、はぁ、と乱れた息を整えようとすると頭が痛くなる。
「カムイ」
呼ばれて、這うようにカムイに近寄りながら腕を伸ばしてくる隼人へと駆け寄ると強く抱きしめる。
「離せ」
「嫌です」
やっと会えた。もう絶対に、
(この人を、離さない)
煤けてしまった顔に唇を寄せると、深く口付ける。
そんな場合か、とでも言いたいのだろう。ゴン、と拳で頭を叩かれるとようやく唇を離し、再び抱き上げた。
「どうするつもりだ」
この塔には他に逃げ道などない。唯一ある扉はもう開けることが出来ない。
それでももう、腹は決まっている。
カムイは塔の縁へと足を掛けると、吹き上げる風に煽られないようバランスを取る。
夜明けが近いのだろう、水平線に一筋赤い線が見える。
(迷っている時間などない)
「神さん」
「俺と、来てくれますか」
真っ直ぐに目を見て告げると、呆れたように笑われる。
「他に選択肢はない。それが正解だろう」
心中するつもりなど毛頭ない。生きる。生かす、この人を。
足が硬い石の塔を蹴り上げ、宙に浮いたと思った瞬間落下が始まる。
時間にしたら数秒もなかったろう。
けれどその瞬間確かに隼人と目を合わせ、笑いながら水面が二人を受け入れるのを待ちわびた。