20230524like a kiss微かなリップ音と唇に触れる感触で目が覚めた。
捕まえようと伸ばした腕は空を切り、素早く避けられたことから、ほんの一瞬でそこまで行動を読まれての動きだとわかる。
夕暮れの少し涼しい風が通るリビングのソファでうたた寝していたのは五分にも満たないだろうが、疲れていたのか意外と眠りは深かったらしい。近付いて来ることに気付かなかったとは。
いつの間にかそこまでの身体能力を身につけていたのだな、と妙な感慨に耽っていると、ようやく少し離れたところから様子を伺っているらしいカムイと目が合った。
(何故お前の方が、そんなショックを受けたような顔をしている)
「神さん……」
普段感情をあまり表に出すことのないこの子が、珍しく動揺しているらしい。何やら言い訳を言っているようだがごにょごにょと口篭っていて、よく聞き取れない。
「どうした」と常と変わらないトーンで声を掛けると、またあーだかうーだか唸っている。
隼人に口付けたのは、本当にただの衝動だったのだろう。
じりじりと後退りながら、それでも隼人の言葉を待っているような。
顔が赤く見えるのは、夕暮れの陽のせいか。
教えなければいけないことがまだまだ多いと思いながら、隼人はゆっくりと立ち上がると立ちすくんだままのカムイの横を通り過ぎ、ドアを背に振り返ると僅かばかり口の端を上げた。