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    ume8814

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    ume8814

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    文章整理

    #刺客×牢人

    地獄をのぞむ視界がバタバタと五月蝿い鴉に覆われていく。
     刀を振るおうとも既に削られた体力。身体は膝を着く寸前、暗具も気力も無く、未だ香も焚ける状態ではない。
     刺客は何処に居るだろうか。せめてあいつだけでも。あと少し、あと少しで香が焚ける。見えないまでも自分の近くに居ないかと視線を巡らそうと思っても、どうにかして鴉から逃げようと藻掻くばかりになる。そんな中で刺客の元へ行こうと思っても右も左も分からないだけだった。
     もういっそ、1度くたばってしまうのが良いのではないか。どうせここでなら死んでもまた生を受けるのだ。刺客はどこで何をしてるのか。生きているのか死んでいるのか分からないが、普段なら分かるはずの刺客が死んだと告げる虫の知らせも無いままだ。それなら尚更、もう良いだろう。

     鴉に集られ、地面に膝を着いて暫く、仄暗い思考に従って諦めかけた時、何処かで微かに刺客の声がした。
    「……闇鴉ゥ!!!!!!」
     遠くで敵の倒れる音がする。ドサッとくず折れる肉の音が徐々に近づいてくる。何も出来ずに聞いていると、すぐ近くまで来たらしい刺客へ天狗の意識が向いたのか、自分に纏わりついていた鴉の圧が遠のく。それから直ぐに、肉に刀が埋まる鈍い音、風に巻かれて砂が掻き消えるような音が聞こえた。
     天狗の操る鴉の圧から開放されて、一息ついて地面を眺めていると段々と足音が近づいてくる。静かになった空間に刺客の微かな足音だけが響いていた。恐らく敵は、あの天狗で最後だったのだろう。
    「おい」
     地面を眺めるばかりだった視界に足が入り込む。仕方なし、のろのろと脚から徐々に視界を上げていく。視界が刺客の格好を脚先から背丈の半分程の高さまで見上げたところで、こちらを見慣れた面に覗き込まれた。誰のものかわからない血に塗れた白い狐面。変わるはずのない、歯を剥き出しにした口角が笑っているように見える。
    「ンハハハ、生き延びたな」
    「……お前のおかげでな」
     どうしたって笑顔に見える刺客の狐面が眩しくて向ける顔がない。ズイッと顔を近づけてくる刺客から距離を取ろうと背を反らせる。それでも尚近づいてくる刺客の面はより一層口角が上がっているように見えた。
    「生きてるな」
    「ああ、生きてる……」
    「死のうと思ったな?」
     確かにそうだ。死のうと思った。何も言えずに刺客の顔を眺める。
     何も言えずにいる自分の顔を、刺客も眺めていたが、刺客は終ぞ何も言わずに、いつの間にか出現していた鳥居へと視線を向けていた。
    「次は何処へ行く」
    「……何処がいい」
    「そうだなぁ、楽しい所へ行こう」
    「何処へ行っても化け物ばかりだぞ」
     ンハハ、そういって相も変わらず笑う刺客はまるで何も気にしてないようだった。
    「良いだろう。お前といればきっと楽しい」
    「……そうか」
    「ああ、きっとな」
     重い腰を上げて袴に着いた砂埃を払う。いつの間にか貯まっていた香を焚く。もう鳥居を抜けるだけだが景気付けに良いだろう。
    「お前の香は本当にいい匂いだ」
     鼻を動かし匂いを吸い込む仕草をした刺客は、そう言って先に進んでいく。ずんずんと進む刺客は自分よりもひと足早く鳥居を抜けてしまった。引き摺られるように吸い込まれる身体の感覚はいつまで経っても慣れるものではない。刺客の思考に毒されたのか、気味の悪い鳥居に引きずり込まれながら逃れられない次があるのだなと思うと、少しでもそこが楽な場所なら良いなと思った。
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    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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