カーテンコールをもう一度 カット、の声がかかると、一秒、二秒未満の時間を置いて場はざわつき始めた。目の前にいる、まだ強張った面持ちの男に軽く手を挙げる。
「ネロ」
「……ああ、ブラッドリー、さん。お疲れ様でした」
「何だよ、ブラッドでいいっつっただろ。敬語も」
「けど」
「ブラッド。はい復唱」
「……ブラッド……」
「よくできました」
本当にただ復唱しただけ、という風だけども及第点としよう。軽く肩を叩くと困ったように顔を背けた。
ブラッドリーは舞台役者である。映像作品に関わることは稀だが、演技の経験値は目の前の男──ネロ──よりあるのは確かだ。顔合わせの際はあまり見慣れぬ人間がいると思ったが、なるほど本業はモデルらしい。よく思い返せば演劇の場以外では見たことのある顔だった。
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