あまりにも古典的(雷コウ) 路面電車のある風景にももう慣れたものだ。何度も会議やら何やらで行き来した広島本部周辺の地理はほとんど頭に入っていてもはや地図は必要ない。D4会議を終えてコウは一人でホテルへの道のりを歩く。少しだけ本部に用事があり一人居残りをしたために他のメンバーはとっくにホテルへと戻っているはずだ。
夏の終わりの日が短くなった世界。オレンジ色の空に東から紫が混じって、雑多な街並みの色合いを一秒ごとに変えていく。人々の喧騒は福岡も広島も変わらず、街に溢れ返る人波に逆らわないように、白いコートを翻らせながらコウは歩いていた。福岡ではちょっとした有名人であるコウも、広島ではまだまだ知名度が低い。誰にも声をかけられず、誰にも振り返られることなく歩く道は少し新鮮でもある。
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