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    nanana

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    わじきさんガチ恋の少女の幽霊に憑りつかれたカミサマの話。
    年下の人の無自覚片思い。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    波打ち際の白昼夢(雷コウ) 柔らかな波の音に包まれて夜の闇に意識を落とした。周回中だった携帯の端末は落ちてく意識ギリギリで充電に繋ぐことができたかは目覚めた時に結果発表だ。海に一番近いこの部屋。干したてのシーツの香りと高知のそれとは違う透き通るような水の香り。雷我は宴会の熱の冷めきらないシャークハウスで眠りについた。
     こうやってたびたびシャークハウスにD4のメンバーで泊まるようになったのは、サマービートの一件で駄目な大人たちが味をしめたせいである。半年に一回くらいの頻度でこうやって交流会と称して沖縄に呼び出されてはこうやって宴会を繰り広げる。二回、三回とお世話になってしまえばこの家にも慣れたものだ。毎回律義に行われる部屋割りのくじ引きで雷我が今回引いたのはこの海に近い石垣真那人の部屋だった。
     祭りの喧騒のあとはやけに静寂が耳につく。同室者の寝息と波音だけを聞いて眠りについたのだから目覚めるときもそうだと信じていたというのに、翌朝雷我を目覚めさせたのはあわただしく部屋の前を数人が行き来する声と足音だった。
    「雷我くん!」
     ノックもなく部屋に飛び込んでくる穏人。慌てて飛び起きたところを二百超えの握力で腕を掴まれた。同居人の真那人はおらずとっくの昔に目覚めて部屋を出ていたことを知る。折れるのではないかと言う強い力に引きずられてたどり着いたのは依留の部屋だった。そこに泊まっていたのは、住人である依留と穏人とそしてもう一人。
     窓際奥のベッドと、その手前の床に敷かれていた布団が二つ。何故か沢山の人が集まっているその部屋。その人々に囲まれるようにして寝巻で布団を足元にかけたまま、ぼんやりと上半身だけを起こしている男が一人。朝の七時、沖縄の太陽が窓から差し込みその男の淡い金の髪がきらきらと光を反射する。
     ドアを開けた瞬間に、雷我、と声を発したのは誰だっただろうか。その声につられるようにして囲まれていた男はゆっくりとこちらを向いた。
    「らいがくん……!」
     青と緑のオッドアイが柔らかく細められて、愛し気に呼ばれたこともないような呼び方で雷我の名前を呼ぶ。中心にいた天神コウその人は誰も見たことのないような熱のこもった視線で雷我に向かって微笑んだのだった。

    ***

    「天神さんの中には確かに二つオーラが見えるね」
     いったん状況を整理しようと部屋から連れ出された雷我の目の前で、依留は指を二本立てながらそう言った。部屋に残ったのは同室だった穏人と、コウのことをよく知っている信乃と敦豪。
     様子がおかしくなったコウ自身が語った話と、依留が語った話を混ぜ合わせてできた話は生憎オカルトを信じていない雷我にとってはどうにも信じがたい話だった。
     曰く、今の天神コウの中には事故で亡くなってしまった高校生の少女がいる。本気で雷我に恋をしていたその少女はせめて最後に雷我に会いたいと霊体のままここまでさ迷ってきたらしい。そして雷我を見つけ、どうせなら誰かに憑りついて雷我と話をしたいと思ってコウに憑りついたという。
     しかも、腹立たしいことに神様気取りのあの男はあろうことか少女の事情を聞いて、少しだけだと約束を交わして自ら体を差し出したというのだ。なんという呆れた話だろう。
     少女の願いは一つ、雷我とデートをすることだ。この沖縄の海辺を歩いて、話して、それで満足するらしい。なんとも奥ゆかしいことだ、本当にそうならば。
    「それで、それを信じんの?」
    「信じるも何も、他に手が無いからね。それで駄目なら次の手を考えるだけだよ」
     部屋にいた全員の瞳が雷我を見つめていた。面倒だと断ることなど許さないという圧力に、もはや雷我一人の意見などは必要が無かった。
    「……着替えてくる、あいつも着替えさせとけ」
     あいつじゃなくてあの子だよ、だなんて余計な言葉は無視をして部屋に戻った。

    ***

     あのね、それで、そうなの、だから。
     もう高くまで昇りきった太陽がじりじりと砂浜に映る影まで焼いていく。まだ初夏だというのに沖縄はこんなにも暑い。
     このくそ暑いのに日焼け止めだと言って長袖に帽子、日傘まで持たされた少女はいけ好かない男の顔をしてくるくると表情を変えながら雷我に話しかける。碌に気の利いた返事などしていないのと言うのに、少女はまるで地球最後の日であるかのようにすべてを語ろうと話し続けていた。いや、まるでではないのだ。この少女が言うことを信じるのならば、今、この瞬間が少女にとっての地球最後の日で間違いはないのだ。
    「……なんでよりによってそいつに憑りついたわけ?俺のこと知ってんなら俺と『カミサマ』が仲悪いのも知ってただろ」
    「うーん、それは知ってたけど……どうせ憑りつくなら綺麗な人になりたかったの」
     両手を小さく目の前で合わせながらキャッキャと表現するしかないようなあまりにも少女染みた笑いをこぼす。それは元々の中性的なビジュアルと相まってあまりにも錯綜的だ。
     それはそう、と雷我は納得をする。この男の中身はともかくビジュアルだけならばこの男より眩しい人間を見たことが無い。
    「依留さんとも迷ったんだけどなんかあの人入りにくそうだったし、あと、この色の違う瞳から見る世界ってどんななのかなって思って」
     歩いていた少女がぴたりと足を止める。一拍遅れてゆっくりと二つの色の違う瞳が雷我を見上げた。
    「……それで、なんか違う景色でも見れたか?」
     いつもとは違う、嫌悪の混ざらないオッドアイは雷我に戸惑いを与える。この目に負けたことはないというのに今日はどうにも落ち着かず言葉がうまく紡げない。
    「ふふっ、その言い方、雷我君も知らないんだね。誰か知ってるのかな、devaのメンバーなら知ってるのかな」
    「どういう意味だよ」
    「秘密、教えなーい」
     少女は片目を押さえながら笑う。どう見たって姿かたちは天神コウなのに、その仕草が、笑い方が、『雷我君』という呼び方が、これは違う生き物なのだと本能に訴えかける。
    「雷我君、好き、大好き。ずっと大好き。死んでも大好き。一緒に連れて行きたいけど、一緒に連れて行ったら私の好きな雷我君じゃなくなっちゃうのも知ってるから」
     ――だから、最後にキスして
     少し大きめの口が愛を紡ぐ。潤んだ瞳に滲むのは恋慕の情。絶対に天神コウは自分に対してこんな視線を向けないという雷我にとっての事実が、何よりも目の前にいるのは天神コウではないという現実を知らせてきた。
     絶対に自分には向けないのだ、そう改めて感じた感情はどうしてか酷く重い。
    「……他人の体でいいのかよ」
    「もう自分の体焼けちゃったし、別にいいかなって思ってたけど――」
     少女は言葉を止める。平素よりも随分柔らかな緑と青の瞳がゆっくりと閉じられる。そして少し拗ねたように口元で笑ってから、少女はくるりと海の方へ体を翻して雷我に背を向けた。
    「憑りつく人、間違えたなぁ。この体でキスするのなんか凄く悔しいや」
     少女は傘を開いたまま海に投げ捨てる。傘は波打ち際で遠くで流されることなく行ったり来たりを繰り返す。
    「私に付き合ってくれてありがとう。天神さんにもありがとうって伝えておいてくれると嬉しいな」
     何かを掴むように少女の腕が海へと伸ばされる。ばいばい、と呟かれた小さな言葉は波の音にかき消されて消えた。
     途端に崩れ落ちる体。地面は砂地だ、倒れたとてそこまでの怪我にはならなかっただろう。すんでのところで抱きかかえた体は思っていたよりもしっかりと男の体をしていた。
     慌てて口元に手を当てる。目覚めないものの呼吸は規則的に繰り返されていた。どうやら眠っているだけらしい。雷我が初めて見た不眠症の男の寝顔はあまりにも安らかだった。
     抱きかかえてシャークハウスに戻ろうとしたけれど男の体は意外と重かった。仕方なくポケットから電話を取り出して助けを呼ぶ。
     駆け付けた敦豪がひょいと一人でコウを抱えたのがなんだか酷く悔しかった。
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