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    nanana

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    付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
     昼前の集合時間に間に合うように朝一番のバスで高知へと戻るつもりだったのだけれど、この雪でもしかしたら遅れが出たり欠航になるかもしれない。それは少し面倒だとさっきまで少し雪に浮かれていた気持ちが小さくなる。できれば予定通り高知へと戻りたい。
    「別に、都合のいい日が今日だっただけなんで。アンタこそ、今日は予定が詰まってるんじゃないんスか?」
     彼女とかそういうの、そんな気持ちを込めて聞いた言葉。別にそこまでこの男の交際関係を知りたかったわけではないのだけれど。
    「いや、今日は何もない。明日皆でケーキを食べる予定にはなっているが」
     皆というのはおそらくdevaのメンバーの事だろう。美術の教科書に出てくる彫刻のような整った顔立ちとよく回る口、それをもってすれば恋人なんて選り取り見取りだろう男には特定の相手はいないらしい。
     まぁ特定の相手がいるのならば自分と関係を持つこともないのか。雷我は一つ息を吐く。数年前からひょんなことから始まった身体だけの関係は今も続いているし、今日だって夜にまた会う予定にはなっていた。
    「もつ鍋は好きではないか?」
     この男の中で今から二人で何かを食べに行くのは確定事項らしい。正直なところこの男と二人きりで食べる食事など気まずくて何を食べてもまずくなりそうで御免被りたいところだったというのに、どうしてかタイミングよくなってしまった己の腹の音のせいで断る機会を失ってしまった。
    「……別に、嫌いじゃねぇけど」
    「なら良かった、ちょうどお腹も減っているようだし向かおうか。少し歩くが、君の泊まる予定のホテルからは近いから問題ない」
     男はさっさと書類を鞄にしまい込んで店へと予約の電話を入れながら玄関へと歩き出す。その背中を追うように雷我は部屋の扉を閉めて歩き出した。

    ***

     福岡の街を彩るイルミネーションは高知のそれよりもずっと明るい。小降りになった雪ときらめく七色の光。隣り合って歩くのも何か気まずくて、人が一人入れるくらいの距離感覚で白い背中を追いかけるようにして人混みを行く。
     devaの天神コウとしての知名度ゆえか。それともその持って生まれた美貌ゆえか。前を歩く男の顔を見てはすれ違った人が次々と振り返っていく。それにおそらく気が付いているだろうに、慣れっこなのだろうか、男は一つも気にする様子はない。
     クリスマスイブに超弩級の美人とイルミネーションを見ながら歩いた、だなんて友達に告げれば羨ましがられるだろう。実際のところ外見は良くても中身が最悪なので、雷我としては一つも嬉しいことはない。
     そんなことを考えていたせいか歩みが遅くなる。等間隔で後ろをついてきたはずの雷我がついてこないのを気にして男が不思議そうに振り返った。ミルクティー色の髪がふわりと揺れる。長い睫毛に縁どられた左右色の違う大きな瞳がイルミネーションを反射してゆらゆらと輝く。白い肌に目立つ目の下の紫色した隈がマイナスポイントではあるけれど、そんなものは些細なことというように整った少し大きめの唇が、和食君、と名前を呼ぶ。
    「どうした?何かあったのか?」
    「別に。ちょっとイルミネーションに見てただけ」
     本当は少し考え事をしていた。咄嗟についた嘘はどうやらばれなかったらしい。そうかと呟いて男は右目に被っていた前髪をすくうようにしてイルミネーションを眺める。パチパチとゆっくり二回瞬き。いつもへの字に結ばれている唇が柔らかく微笑んだ。
    「確かに綺麗だ」
     気取ってもいない、作ってもいない、やや幼く笑うその横顔に雷我の中で何かがざわついた。そうやって笑えるのは知っていた。けれど雷我と二人きりの時にこの表情を見せたのは初めてだったのだ。
    「予約の時間に遅れてしまう。少し早足で歩こうか」
     歩き出した背中をまた間隔を空けて追いかけていく。男の首元に巻き付いている飾り気のない黒のマフラーはところどころほつれて汚い。カミサマなんて人気商売なのだからもう少しそのあたりを気を付けなければいけないのではないか。
     ふと横目で見た店のショーウインドウに飾られているのは、ファッションに疎い雷我でも知っているようなブランドのマネキン。その首元を飾るのはベージュ色をした暖かそうなマフラー。
     ああいうの似合うんじゃねぇの。
     脳裏に浮かんだそんな想像を、自分たちはそういう関係ではないと振り払う。そういうのはきっと似合わないし男だって嫌うだろう。
     気が付けばもう目当てのもつ鍋屋の看板が目の前に迫っていた。
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