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    nanana

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    ちゃんと付き合ってる年下彼氏のバイクの後ろに乗る話。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    夏を走る(雷コウ)「乗ってけ、駅まで送る」

     目の前の投げてよこされた丸いヘルメットは真新しくて傷一つない。渡された青いそれと、男の青い瞳を交互に見つめてコウは立ちすくんだ。
     高知で行われたHEAD会議のあとのこと。解散、という利狂の言葉で四人はばらばらの方向へと歩き出す。地元の雷我は我先にと会議室を飛び出して、流は飛行場へのタクシーの手配をする。利狂はといえばまだ高知でやることがあるらしく、残されたコウは新幹線に乗ろうと駅に向かい建物の玄関をくぐった。
     玄関先にいたのは、真っ先に飛び出したはずの男だった。バイクにまたがりながらコウにヘルメットをポンと投げてよこす。
    「んだよ、アンタ散々杁さんの後ろ乗ってっだろ。つけ方わかんねぇわけじゃないよな」
    「いや、それはわかるが」
    「じゃあなんだよ」
    「……その、君の、後ろに乗ることになるとは思ってもみなくて」
    「不満か?」
    「そんな、まさか!」
     慌てて否定するコウを雷我は鼻で笑った。それがどうにも年上の矜持を傷つけられたようでコウの癪に障る。戸惑っているのも、少し慌てていることも目の前の年下の男に知られたくなくて、なるべく手際よく見えるように被ったヘルメットは新品特有の匂いが鼻についた。
     雷我の肩につかまりまたがった大きなバイク。コウは敦豪の後ろにしかバイクの後ろ乗ったことはなかった。当然ながらこういう風に掴まれと教えられたやり方しか知らない。一つしか知らないのに、いや一つしか知らないからこそそこに腕を伸ばすのを躊躇った。
     そんな自分を隠したくて心にもない嫌味のような言葉を漏らしてしまう。
    「――君が、私に優しいなんて珍しいと、そう思っただけだよ」
     瞬間、「あ」に濁点がついたような、そんな不機嫌めいた声が雷我から漏れる。振り向いてコウを見つめた表情は、怒り半分、呆れ半分というところだろうか。そんな表情ににらまれてコウはいたたまれなくなって視線を地面に落とす。
    「別に、好きなやつに優しくしてぇのは普通だろ」
     そんな言葉を最後まで紡ぎきる前に雷我は前を向いてしまう。後ろから眺めた耳がじわじわと赤く染まるのがコウにもわかってしまった。多分これは夏の暑さのせいではない。
     それがわかってしまったから余計にコウは腕の置き場所に困ってしまった。いつも敦豪にやっているように腰に腕を回してその身を背中に預ければいいのに、どうしてだろうか、雷我相手には躊躇ってしまう。
    「早く掴まれ」
     声に促されるようにして腕を伸ばす。覚悟を決めてその背中に抱き着くようにして腰へと腕を回した。
     年下のくせにコウより大きな背中が、一瞬大きく跳ねた。

    ***

    「……アンタ、杁さんの後ろに乗るときいっつもこうやって乗ってんの?」
     自分の口調があからさまに躊躇いを帯びていることは雷我自身も自覚していた。言いたいことは言ってきた、本音で話さないのは嫌いだ。けれどこの状況はそんな雷我でさえ言葉を濁さざるを得ない。
    「こう、と言われても」
     コウは他にやり方を知らない。だから捕まるところなんて他にはないと思っているのだろう。実際にはバーであったり、肩であったり、抱き着かずとも腰に手を伸ばせばいいだけなのだ。
     揶揄っているわけでもない、この男は本気で知らないのだ。雷我は一つため息をついた。ただ一言、他にも掴まるところはある、と教えてやればいい話だ。こうやって抱き着くように腕を回されてしまえば動きが制限されて走りにくい。プロである敦豪ならば問題はないかもしれない。けれどこちらはようやく後ろに人を乗せて走ることが許された新米である。
    「――あー……別に、なんでもねぇ」
     ただそのぎゅっと強く回された腕の強さだとか、預けられた体重の重さだとか、背中越しに伝わるような気がする心音だとか。そんなものがどうにもくすぐったくて、それでいて愛しくて、他の選択肢を提示する気になれない。後ろの男には気が付かれないように一つ小さくため息をついた。それは多分どうにもこうにもこの男に弱い自分自身に対してだった。
    「出発する、振り落とされんなよ」
    「振り落としてくれるなよ」
     ぎゅっとダメ押しのように握られた服。どうにももどかしい気持ちを抱えながら、雷我は後ろにいけ好かないけれどどうしてか好きになってしまった男を乗せて走り出した。
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    nanana

    DONE付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。
    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
    2302

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