Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nanana

    @na_7nana

    @na_7nana

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 67

    nanana

    ☆quiet follow

    和食誕。
    付き合ってる雷コウ。割と浮かれがちな高校生と、驚くほど恋愛適性のない大人の話。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    ハルノヨ(雷コウ) 和食雷我の誕生日は酷く騒がしく始まった。携帯電話は午前零時から次々と祝いのメッセージを届けて鳴りやまず、朝目覚めて朝御飯にしては豪華な食卓へ向かえば全員におめでとうと告げられた。朝はあまり得意ではないのに自然と目が覚めたのは、並んでいるものが全て好物で匂いが部屋まで漂ってきていたせいである。
     生まれてこの方この味で育ってきたのだ、口に合わないはずもない。朝からこんなに食えるかよと手を付けたはずの料理は瞬く間に腹の中へと消えていく。最後に酔わない程度に僅かに注がれた日本酒を祖父と酌み交わし学校へと向かった。朝にこんなに詰め込まれたのは、学校が終わればそのまま遊びに行って今日は帰らないと伝えたせいだろう。
     学校での騒ぎもさらに酷いものだった。名前も顔もよくわからない人間から祝われて、静かにソシャゲを開く暇すらなくて多少はうんざりしたものの、それが全て善意の行動だと知っているので無下にもできずただ「ああ」とか「おう」と返事を繰り返し続けた。
     ようやく訪れた昼休み。一人になれるかと思えば穏人に凄い力で空き教室に連れ込まれる。そこにはどうやって持ち込んだのかわからないどでかいケーキと護とノラが待っていた。それが酷くこっぱずかしくて、勝手にこんなことしてもいいのかよと照れ隠しのように呟けば、先生の許可済みですよ、とノラが笑う。多分詳しく聞かないほうがいい話だ。
     そんなこんなで酷く騒がしい一日だったのだ。

     速すぎて何も見えない新幹線の窓。辛うじてわかるのは空の色がうつり変わっていくこと。良く晴れていた青は次第にオレンジへ、そして東の端から青く染まっていく。一人で新幹線に乗っているとさっきまでの喧騒が遠い昔のように思えてくる。
     高知から博多まで新幹線で四時間半。授業が終わるとすぐに向かった高知駅の新幹線乗り場は思ったよりも閑散としていた。車内で食べる軽食と飲みものだけ持って乗った自由席。到着するまで仮眠を取ろうと思っていたのにどうにも上手く眠れなくて、仕方なく鞄から充電器を取り出してコンセントにつなぐ。到着したころには、予定よりもイベント順位が上がってしまっていた。

    ***

    「いらっしゃい」
     チャイムを押して出迎えた家主は珍しくラフな格好をしていた。いつもはワックスで綺麗にあげられている前髪も下ろしたままで、いつも着ているオーバーサイズの白いコートも着ていない。何も弄っていない細い香色の髪はいつも以上に幼い顔立ちを強調して。羽織られたカーディガンはコートと同じくオーバーサイズ気味だけれども、体全体を大きく見せていたしっかりとした作りのコートとは違って、柔らかな素材でできたカーディガンでは余計に身体の華奢さを際立させている。
     これが普通の女だったら抱きしめたくなるような、とでも思ったかもしれない。けれどこの「カミサマ」ではどこか危うくて、弱弱しくて、それが酷く腹立たしくてならない。
    「オジャマシマス」
     この部屋に入るのは二度目だ。一度目の時はこの家の同居人も一緒だった。今は二人きり。どこに座ろうか悩んでテレビの前の二人掛けのソファーへ向かう。机の上に置かれていたコーヒーカップ一つ。家主が座っていただろう位置の隣へ腰かける。
    「……鬼童町のガキは?」
     コーヒーを淹れてくれようとしているのだろう。キッチンに立った家主へと問いかける。
    「信乃なら敦豪のところだ。ちなみにここに君が泊まったらいいと言ったのは信乃だよ。こちらに来ると言ったら、自分は敦豪のところに行くから自由に過ごしてもらえばいいと」
     へぇ、と返した声が酷く低かったのには自分でも驚いた。なるほど、家に泊まっていけと言ったのはこの男の提案ではなかったのか。
     多分少し浮かれていたのだ。こうやって誕生日にわざわざ金も時間もかけて、恋人であるこの男の元へといそいそとやってきてしまうくらいには。家に招待されたのは向こうもそれなりに浮かれてくれているのだと思っていた。
    「……福岡に遊びに来るのは歓迎するが、夜遅くになるのは感心しない。それに明日も学校だろう。行けない理由があるのならともかく、遊びのために学校をさぼるのも高校生としてはいただけない」
     来客用のカップを運びながら男がいつもの小言を口にする。さっきからの苛立ちも含めて大きく舌打ちが漏れた。朝から福岡に行くのはさすがに浮かれ過ぎだろうとやめた、同じ理由で意味もなく早退を決めるのもあいつらに色々言われそうだし、となると向かうのは学校が終わったあとになる。そんな言い訳も恰好が悪いし、言い返したところでまた何か新たな小言を言われるだけだと口をつぐんでスマホの電源ボタンを押す。日付が変わるまであと一時間。
     コーヒーカップの横に並べられたカップの横に並べられた砂糖とミルク。侮られるのが嫌でそれらを無視して口をつける。飲みなれないそれは酷く苦い。
    「今日は君の誕生日だと聞いて」
     皿に乗せられた苺のショートケーキを差し出して男はソファーの隣へと座る。そのケーキは誕生日のケーキとしては余りにも無難な存在だった。多分、おそらく、きっと。この男はこちらの好みを知らない。でもこちらもこの男の好みをほとんど知らないからお互い様でもある。
     この男の事を嫌いかと聞かれれば大嫌いだと答える。けれどこの男の特別が他の誰かになるのも許せない。カミサマぶったこの男の人間らしい顔も、ベッドの上でぐちゃぐちゃに乱れる様も他の誰かが見るなんて考えたら目の前が真っ赤に染まりそうなほど腹立たしい。
     生まれた時から体は半分生きて半分死んでいるのだ。感情だって半分嫌悪、半分執着だって両立するはずだ。どちらが死んだ感情なのかなんて考えたくもないけれど。
    「……あと、大したものでもないが、誕生日プレゼントだ」
     手渡された封筒に入っていたのは、課金ができる魔法のカード。それはもらって一番うれしいものではあったけれど、恋人への贈り物としてはあまりに色気が無い。
    「……気に入らなかっただろうか?一応昔君が欲しいと言っていたものを選んだつもりだが」
     真面目にこのカードを購入しているこの男を想像したら酷く愉快だった。そうじゃねぇよ、と言おうとしたけれどそれは喉の奥から自然と漏れた笑い声にかき消されてしまう。
    「気に入らないなら返してくれ」
    「いや、だから気に入ってるって」
    「じゃあなんで笑っているんだ」
    「いや、色気がねぇなぁって」
    「贈り物に色気……?」
     口元に手を当てて真剣に考え込んでいる様子を見るに本当にわかっていないらしい。頭はいいはずなのに、どうしてか変なところでこの男はポンコツだ。
    「ちなみに聞くけど、明日、アンタ仕事は?」
     死んでいる左手で頬に触れる。体温の低い掌と、いつもよりも少し温度の高い男の頬。
    「……休みだ、隆景にもたまには休みを取れと言われていたからな」
    「ハッ、上等」
     色気のあるプレゼントってそういうやつだよ、と説明してやったのに、驚くほど恋愛に適性の無い男は一つも理解できないという顔で首を傾げ続けていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works