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    nanana

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    事後の話。
    足腰立たなくなったコ様。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    青春アラカルト(雷コウ) ぼんやりとした意識が徐々にクリアになっていく。性行為後の気怠さと節々に残る痛みを感じながら虚ろにホテルの天井を眺める。最後に、落ちるなシャワー浴びろ、と頬を叩かれたことは覚えていた。返事だけをした記憶はあるもののそのまま寝落ちてしまったらしい。申し訳程度に掛けられていた薄いシーツが上からかけられていた。
     狭い室内、音は全て筒抜けで浴室のシャワーの音も全部聞こえていた。当然それはさっきまで肌を重ねていた男がシャワーを浴びている音だろう。
     喉が渇いた。
     もぞもぞと緩慢に起き上がる。シーツを剥いだ途端に感じた冷気。またあの男はクーラーの温度を下げている。ぞわぞわと肌が粟立つのを感じながらベッドから降りるために地面に脚をつく。最初に感じたのは床がぐにゃりと柔らかく変形したような錯覚。力を込めたはずの膝がかくんと折れ曲がり体は重力に負けて落下していく。咄嗟に捕まろうとしたした手を伸ばしたサイドテーブル。それはただ上にあった携帯電話を派手に落下させただけでなんの役にも立たなかった。
     ドンガラガッシャン、だなんて擬音が古典的な漫画なら土埃と共に添えられていただろう破壊音。足腰が立たなくてベッドから落ちたという事実を一番受け入れられなかったのは自分自身だった。何故、どうして、受け止められない事実にぼんやりと落下した状態のまま固まる。
     シャワー室から断続的に聞こえていた音が急に止まった。慌てたような足音。髪も体も濡れたまま、咄嗟にタオルだけ腰に巻いた男がシャワー室から飛び出してきて同じように固まった。
    「……何やってんだ」
     問われた問いに答えるのは少々、いやかなり気が引けた。それに答えることはどうしてもこちらのプライドが許さない。
    「……足腰立たねぇのかよ」
     必死で言い訳を探していたというのに一瞬で正解を導き出されてしまった。図星をつかれて口ごもる。それを見て確信を得たのだろう、ハッと男が小さく笑った。
    「なんだアンタ、さっきまでのセックスが良すぎて足腰立たねぇってやつか」
     近づいてわざわざ目の前にしゃがみ込んで男がケタケタと酷く愉快そうに笑う。
    「違う!」
    「違わねぇだろ、そういや今日ナカだけでイってたしな。そんなにヨかったかよ?」
    「――ッ、う、うるさい……!」
     ぐいと腕を引かれてベッドの上に引き戻される。濡れたままの髪の毛から零れ落ちる雫が肌について酷く不快だった。
    「戻すな!」
    「あ?戻すなってそのまま一生床と仲良しする気かよ」
    「そんなわけないだろう、俺は、喉がッ、ケホ、ゴホッ」
     叫んだせいか乾ききっていた喉が空咳を繰り返す。止まらないそれにせり上がる嘔気。ポンポンと背中を叩かれて、大丈夫か、とかけられた声色が酷く優しくて困惑した。
    「み、みず……」
     少し咳の止まったタイミングで再び水を得ようとずりずりとベッドの端へ向かう。ぐらりと今度は頭から落下しようとして肩を掴まれて再びベッドに引き戻される。
    「――ッ!あっぶねぇな!馬鹿かてめぇは!」
     ころんとベッドに転がされてまた天井を眺める羽目になった。強い力で掴まれた肩が少し痛い。
    「水が欲しいんなら言えばいいじゃねぇか」
     ホテルの冷蔵庫を開けて、ベッドの上に投げて寄越されたペットボトルの水。施しを受けたようで少し気に入らないけれどカラカラに乾ききった喉はそれを欲していて、なるべくがっついているように見えないようにゆっくりと起き上がってそれを手に取る。
    「開けれるか?」
     そんな馬鹿にしたような言葉は無視をして蓋を捻る。赤子ではないのだから当然のように開いた蓋を片手に握ったままそれに口をつけた。一口飲みだしてしまえば止まらなくて。何故か隣に座って見つめてくる男の視線も、まるで飲料水のCMの如く喉が音をたてていることもわかっていた。恥じらいよりも欲求のままに飲み干して、気が付いたときにはペットボトルの中身は三分の一ほど。
    「満足したか?」
    「……まぁ」
     足腰が立たない情けない姿も、浅ましく水を求める姿も、きっと隣の男の目には愉快に映っているだろう。気に喰わない男の醜態が見られて喜んでいるに違いない。
    「他は?」
    「え?」
    「他にしてぇことないのか?」
     問いかけられてふと気が付く。身体は裸のままだし汗やらなにやらでべとべとだった。寝落ちてしまったためにシャワーを浴びていない。一度気になったらどうにも駄目だった。さっきまで我慢出来ていたはずのことがどうにも我慢ならない。
    「……シャワーを浴びたい」
     ただどうにもこうにもポンコツのこの足腰はうまく動きそうにない。這うようにしていけばたどり着けるかもしれないけれど、そこまでの無様な姿は見せたくもない。どうしようかと僅かに逡巡。
    「わかった」
     一体何をわかったというのか。頷いた男の言葉に文句を一つ二つ投げかけるより前に白と黒の両腕がこちらへと伸ばされた。眩暈にも似た浮遊感。抱きかかえられていると理解した時には本当に眩暈がした。
    「ちょっと、こら、下ろせ!」
    「暴れんなって。クソ、思ったより重ぇ……」
     これならば這いずって行ったほうがましだった。バクバクと鳴っている心音はどちらのものか。暴れるのを諦めてあまりの事に真っ赤になった顔を隠すように胸元へと埋める。本当に腹立たしい。幼子の様に扱ってくるこの男もされるがままになっている自分も。
     シャワー室の椅子に座らされて、高くに置いてあったシャワーのヘッドを渡される。幼子の様に扱われているのではなくてもしかしたら介護状態なのかもしれない。
    「背中流してやろうか」
     くつくつと抑え込むような笑い声。いらないと一喝してシャワー室から男を追い払う。出てくる時は呼べよ、なんて言っているけれど絶対に呼ぶものか。
     薄い扉の向こう。男が機嫌よく鼻歌を歌う。この曲は宵宵乱舞か。
     嫌いな男の弱みを握って、情けない姿を堪能しているのだ。そりゃあ楽しいだろうな。クソと普段は気を付けていた罵声を漏らして、腹の底から湧き上がる苛立ちをぶつけるように、勢いよくシャワーを流した。
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