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    nanana

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    二十歳になった年下彼氏が一緒に酒を飲む話。
    酒は強くても弱くてもいい。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    アルコールは甘くない(雷コウ)「和食君のところのお酒は、噂に違わず美味しいな」
     それは普段よりも柔らかで、舌っ足らずに甘い声だった。
    一応、というように用意されていた徳利と杯は最初こそ使用されていたものの、お互いにペースを上げるうちにまどろっこしいと直接酒瓶からビールグラスに注がれるようになり、もはやテーブルの片隅に片付けられてインテリアと化した。
     二十歳の誕生日が来たら君の家のお酒が一緒に飲みたい、と言い出したのは目の前に座っている年上の彼氏のほうだった。高校卒業を機に始めた一人暮らし。この部屋にコウが訪れることは今までにも何度かあったがこうやって酒を酌み交わすのは初めてだった。この生真面目な男が未成年にアルコールを飲ませるなんて許容できるはずもなかったのだ。
     冬場は炬燵へと変化する狭いテーブルに向かい合って、深夜の売れ残りの安い刺身をつまみに二人でグラスを傾ける。コウが持ってきた高いつまみもあったけれどそれは早々に胃袋の中に消えた。
    殻になったコウのグラスを見て雷我は酒瓶に手を伸ばす。飲むか?と視線を送ればそれを受け取って男がグラスを差し出した。グラスに注がれていく淡い琥珀色を帯びた液体。そのくらいでいい、という静止は聞こえなかったのでなみなみと注いでいく。
     注がれたそれを、ビールグラスだというのにワインのようにくるりと回して男は匂いを嗅いだ。瞬間に僅かに緩む唇。男はそれを半分ほど一気に飲み干していく。ふうと息を吐きだして、左右色の違う瞳がとろりとアルコールに揺れた。
     正直なところ、一見線が細く女のような顔をしたこの男が見た目の通り酒に弱いなどとは雷我は思ったことがない。というより酷く強い部類だと思っていた。何をそんなに振りまく必要があるのかというくらいの愛嬌を振りまきながら宴会やパーティで酒を飲む姿はどれだけの量を口にしても崩れなかった。あんなに白いというのに耳の一つも赤くせず、くだらない講演会をしているときと同じように背中は針金でも入れているかのようにまっすぐなまま。
     だが今のこの状況はなんだろうか。確かに弱いわけではない。一升瓶を二人で今半分ほど開けているのだ。弱いものならとっくにつぶれている。弱いわけではない、ただいつもと様子が違う。
    「アンタ、酔ってんのか?」
     パチ、パチと大きな瞳が瞬く。反応が少し遅い。
    「飲んでいるんだ、そりゃあ酔うだろう」
     声がいつもよりも艶っぽくて鼓膜からじわじわと熱を帯びていくような錯覚。どうもこちらもそれなりに酔っている。
    「普通ならな。アンタ飲み会の時ずっと素面みたいな顔で酒飲んでるだろ」
    「別にあの時も酔っていないわけじゃないが……そうだな、今日はあまり飲みなれない酒で少し酔いが回るのが早いかもしれない」
    「そんなもんなのか」
    「そんなものなんだろう」
     グラスをテーブルに置いて、男は頬杖をつく。一人暮らしを始めてから気が付いたことが一つ。天神コウという男は胡坐をかく。じゃあ他にどんな座り方をするのだと聞かれれば思いつかないけれど、なんとなく意外だったしその姿を見るのは雷我はなんとなく嫌いではなかった。
     かっちりとした席の宴会ではまずそんな座り方はしなかったし、なんならこの男と二人っきりになるのはホテルだけだった頃には知らなかった事だ。
    「わじきくんは、酔ってはいないのか?」
     また先ほどよりもさらに蕩けたような声だった。相も変わらず真っ白な綺麗な顔をしているというのに、瞳と声だけがゆらゆらと揺らいでいる。
    「あ?まぁそれなりに酔ってるけど」
    「ふふっ、そうか」
     何がそんなに楽しいのか。上機嫌な男が笑いながらグラスの代わりに箸をとる。残っていた鯛に箸を伸ばして自分の皿へと移す。酔いが回ったせいで手元がおぼつかなかったのだろう、するりと滑り落ちた鯛は勢いよく皿へと落下して溜まっていた醤油を散らす。真っ白な手に飛び散った黒の染み。それをぼんやりと眺めてから、真っ赤な舌でべろりとなめ上げる。その仕草が妙に扇情的で、アルコールで弱った脳はすぐにその映像を性的興奮へと変えていく。
     えっろ、と声に出さなかったのは本当にギリギリのところだった。その視線に気が付いたコウがまっすぐに雷我を見つめて蠱惑的に微笑む。アルコールに溶けた瞳は蕩けそうなほどに甘い。
    「……アンタ、そろそろ酒はやめておいたほうがいいんじゃねぇか」
     少し声が震えていたかもしれない。酔った相手をどうこうするのはどうにも性に合わなかった。それが好いた相手ならなおさらだ。今すぐにでもこの男をベッドに連れ込みたい欲望を抑えて男からグラスを取り上げる。
    「わじきくん」
     不服そうな男の視線と声。相変わらずそれはどちらもふにゃふにゃと頼りない。冗談ではなく本当にもう飲ませてもらえないのだと悟ったのだろう。男は抵抗をやめた。むうと膨れた顔のまま頬杖をついていた男がゆっくりと一度目を閉じて、口を開く。
    「和食君は据え膳はあまり好まないタイプか」
     やけにはっきりとした芯のある声に驚いて雷我は男の顔を見た。その瞳は先ほどのものとは変わって、揺るがない強い視線だった。
    「は……?」
     鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはこのことか。素面と変わらぬその姿に脳がキャパオーバーを訴える。さっきまで確かにアルコール漬けだったはずなのだ。それが今はなんだ。さっきまでの姿は全部「酔ったふり」だったのかと気が付いて背筋が冷えた。
     誘いを断って心底良かったと思う。簡単につられていたならば何も知らずこの男の思い通りということだ。そんなことはプライドが許さない。
    「酔っていることは酔っているんだ。じゃあなきゃ君を誘おうなんてできないからな。まぁ、どうも失敗したみたいだが」
    「試したのかよ」
    「人聞きが悪い」
     コツ、コツ、頬杖をついていないほうの男の細い指先がテーブルを叩く。
    「アンタにのせられんの癪なんスけど、まぁこっちも酔ってるんで」
     さっさとベッドに行ってもらっていいですか。その言葉に男はこらえきれないという風に笑い声をあげて立ち上がる。何もわからないままにのせられていたなら非常に腹立たしかったが、わかったうえでのせられるのはまぁ妥協できる範囲だ。
     酔った相手をどうこうするのは性に合わないけれど、酔った相手がどうこうされたいのなら仕方がない。そう自分に結論付けて、雷我は己のベッドに寝転がった男の上に覆いかぶさった。
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