「もうすぐ、あなたの誕生日ですね」
エーリッヒがそう告げたのは、まだ四月に入ってすぐの頃。
「え?もうすぐって、お前誰と間違えているんだ?」
シュミットが不機嫌さに頬を膨らますと、エーリッヒは真面目な顔をしてその頬をつつき、
「もうひと月を切っているんですよ?たった数十日で、あなたのお誕生日が来てしまう」
と言い返した。
「なるほど?浮気相手と私の誕生日を間違えたわけではなさそうだな」
「浮気なんて、僕がするとお思いですか?出来るわけないでしょう。あなた以上に魅力的なひとなんて、出会ったことすらないのに」
エーリッヒは眉を下げる。
シュミットは面白そうに、「で?私の誕生日が近いと何なんだ?」とエーリッヒを揶揄した。
「誕生日の贈り物も、そろそろネタが尽きてきましたからね。あなたが喜んでくれそうなものは、とっくに前に贈っていますし。何を贈るか悩んでるんです」
はぁ、とエーリッヒは溜息をつく。
シュミットは、くくくと笑い、
「お前のそういう真面目なところが好きだよ」
とエーリッヒの頬に触れた。
エーリッヒは頬に触れたシュミットの手を絡め取り、そっとその指先にキスをする。
「今年はどうしますか?勿論、僕は仕事は休みを取ります」
「そうだな………お前と過ごす時間が取れるなら、プレゼントなんてなにもいらないよ」
シュミットは目を細めて、心からの本心でそう言った。
しかしエーリッヒは納得はしない。
「僕だって毎年そう言っているのに、あなたは僕の誕生日やクリスマスや、記念日ごとになにかしら贈ってくれるじゃないですか?そりゃ、僕の稼ぎじゃあなたが買えないでいるような高価なものは贈れませんけれど、でも──」
頬を少し紅潮させて主張するエーリッヒが愛しくて、シュミットは伸び上がってエーリッヒにキスをした。
「エーリッヒ、私が欲しいものは、そう簡単に手には入らないよ」
「分かっています。でも、一応何が欲しいか聞かせてくれませんか?」
「……お前の全て。時間も、思考も、全て私が独り占めにしたい」
「なんだ。そんなこと」
エーリッヒは破顔し、シュミットの腰に緩く腕を回す。
「いつだって、僕はあなたのために存在していますよ。あなたのためなら、どんな予定だって後回しにしますし、どんな時でも僕の心にはあなたが棲んでいて、僕はいつもあなたのことを想っている」
「その言葉が欲しかった!」
シュミットは嬉しげに、今は随分体格差も出来てしまったエーリッヒの胸に顔を埋めた。
「エーリッヒ、誕生日は、何にも邪魔されないようなところで、二人で過ごそう。どこか、田舎のシューマッハの別邸のひとつに、ふたりで引き篭ろう。一日中、ハグしていてくれ」
「良いんですか?……なんだかそれだと、僕がプレゼントを貰ったみたいですね」
ふふ、とエーリッヒが笑う。
「あなたを独り占めに出来るなんて、僕はとんでもない果報者ですよ」
「それは私の台詞だ」
くすくすと笑い合い、どちらからともなくキスをして、シュミットの艶やかな髪を梳くようにエーリッヒが撫でた。
「どこに行きたい?国内?外国なら、ヨーロッパ内がいいか?それとも…」
はしゃぐシュミットの頭を何度も撫でながら、エーリッヒは「シューマッハ家は何軒の別邸を持ってるんだろうな……」と改めて身分の違いに思いを馳せた。
シュミットがどんなに裕福かを思い知らされ、そしてそのシュミットが何よりも欲しがっているのが『エーリッヒと過ごす時間やエーリッヒの思考』だというのが、何とも愛おしくなり、エーリッヒはシュミットの腰に回したままの腕にぎゅっと力を込め、心のままにシュミットの髪や頬や唇に、たくさんのキスをした。