もうひとつのシュミット誕2020「もうすぐあなたの誕生日ですね」
エーリッヒに告げられ、そう言えば、とシュミットは思い出す。
ここのところ、エーリッヒがそわそわしているように思えたのは、それが原因なのだろうか。
「あなたは、欲しいものはなんでも自分でさっさと買ってしまうから──プレゼントを選ぶのに僕は、毎年とても苦労するんですよ」
「それはすまない」
苦笑するエーリッヒに苦笑を返し、
「だが私だって毎年お前の誕生日プレゼントには頭を悩ませているぞ?お前は物欲が薄いから」
とやり返す。
エーリッヒは肩を竦めて、やれやれと頭を振って見せた。
「僕は、プレゼントなんてなくても良いんですよ。あなたが隣に居てくれれば」
「それこそ私だって同じだよ、エーリッヒ。お前と過ごす時間以上に欲しいものなんてないさ」
言うとエーリッヒは目を見開き、少し照れたような顔をして、
「……ありがとうございます」
と答えた。
「でも、誕生日プレゼント、何が欲しいかはきちんと考えて、教えてくださいね」
でないと、とエーリッヒは続ける。
「僕の気がすみませんから」
「とは言ってもな」
ふっと笑い、シュミットは左手を掲げてまじまじと眺めた。
「これを貰った時点で──」
と視線をやった左手薬指には、華奢な指輪が輝いている。
昨年、エーリッヒがシュミットに贈ったものだ。勿論エーリッヒの左手にも同じものが主張している。
「──お前の人生、貰ったようなものだし。これ以上何かを望むなんて、できないよ」
ふふ、と昨年の誕生日を思い出しシュミットは笑う。
跪いて左手の薬指にキスをしたエーリッヒの、緊張した面持ち。
それから差し出された指輪。
きゅっと心臓を鷲掴みにされたように思えた、永遠のようなほんの数瞬。
ペアリングなんです。あなたは魅力的で、僕は時々心配になってしまうから。
そう告げたエーリッヒの、いっぱいいっぱいな顔。
思い出して、シュミットはくすっと笑い、そう言えば、と口を開く。
「ただの虫除け、だったかな、この指輪は。お前の人生を貰ったなんて、舞い上がりすぎたかな?私は」
と意地の悪い微笑みを浮かべて、指輪に口付ける。
「何を言っているんですか。僕の人生なんて、その指輪より何年も前に、あなたに捧げてますよ」
と、当然のようにエーリッヒは返してくれる。
「そうか、それなら」
シュミットは愛しさが胸に拡がるのを感じて目を細めた。
「今年は、結婚式でもねだろうかな」
冗談のつもりで口にすると、エーリッヒはがばっとシュミットに抱きついてきて、
「シュミット……!ああ、愛していますよ、僕のシュミット…」
と何度も何度もキスをする。
「結婚式、しましょうね。たくさんの人に、祝福して貰いましょうね」
シュミットはキスを受け止めながら、くすぐったさに声を漏らして笑った。
「その前に、きちんとプロポーズしてくれないか?昨年は、指輪だけで言葉はなかったから」
「すみません。必死だったもので……」
「分かっているよ」
シュミットだって、エーリッヒが軽い気持ちでこの指輪を贈ったなんて思ってはいない。
それでも、聞きたくて、我儘と知りながらエーリッヒを急かす。
「言ってくれ、エーリッヒ」
穏やかに、促すと。
エーリッヒは視線をじっとシュミットに据えて、一年前と同じように跪いた。
そして、恭しくシュミットの手を取り、
「……僕の、生涯の伴侶として、ずっと隣にいてください。愛しています、シュミット」
と告げた。
胸をいっぱいにしながらシュミットは、Jaと答えた。