烈の誕生日には、こした堂のいちごショートケーキを用意するのが恒例だった。
豪は今年も、ケーキを用意して烈を待っていた。
──仕事が終わったら、俺んち来るよな?
烈にそうメッセージを送ったが、既読がなかなかつかない。
忙しいのは分かっている。
分かっているが。
「父ちゃーん。烈おじさん、来ないのー?」
翼が眉を下げて、待ちくたびれたと言うようにソファでごろごろしている。
「もうケーキ食べちゃおうよー」
「待て!駄目だ。あれは、烈兄貴の誕生日ケーキなんだから」
「だって。烈おじさんだよ?あんなにかっこいいんだもん、今日はきっとカノジョとか、気になる女の人とかと、デートだよ」
翼が言うのに、豪はふんと鼻を鳴らした。
「兄貴にそんな女いねーよ」
豪は、烈の他人への興味が極端に薄いことを知っている。それに、恋愛に疎く、自分に向けられる好意に鈍いことも。
──万一そんな女がいたら、全力で引き離すつもりでもある。
「とにかくちょっと待ってろって。絶対今日は来るから」
「えー?そんなの、分かんないじゃん……」
烈おじさん、わざわざ誕生日に父ちゃんとこになんて来るかなー?
まだブツブツ言う翼を無視して、豪は烈に電話を掛ける。
ほんの数コールで、烈はすぐに出た。
『豪!ちょうどよかった。翼くん、ショートケーキとチョコレートケーキ、どっちが好きかな?』
電話に出るなり、烈は訊ねてきた。
「は?ケーキ?」
『そう。後で、こした堂に行こうと思ってて』
「こした堂のケーキなら、もううちにあるぜ。早く来いよ、兄貴」
豪が苦笑すると、烈は電話の向こうで笑った。
『毎年よく覚えててくれるよな、お前』
「そりゃあな、何年一緒に祝ってると思ってんだ?忘れたくても忘れねぇ」
『仕事、もうすぐ終わるから。待っててくれ。──ケーキありがとな、豪』
「おう。待ってるぜ」
メッセージなんて送らなくても、烈が豪と誕生日を過ごすつもりだったことに、豪は嬉しくなる。
翼が言うように、烈とこの日を過ごしたがる女性も勿論居るだろう。
だが、どんな美女にも、豪はこの日を譲る気なんてさらさらないのだった。