ゴリ花 妹が連れてきた桜木花道という男は変な奴だった。
赤い頭のリーゼント、バスケをタマ入れアソビと揶揄したくせに、ムキになって入部したがった。晴子目当てだろうことは明らかだったし長く続くとも思えない。放っておけばそのうち諦めるだろうと思っていたのに、根性を認めて入部させれば今や大事な戦力になった。全く予想外な行動ばかりするくせにそのくるくるかわる表情と、メキメキ上達するプレイから目が離せなくなった。もっとずっと見ていたい。
パーソナルスペースの狭いこの男はすぐにベタベタくっついてくる。自分のことを仔犬だとでも思っているのか大きな図体で飛びついてくるが、それに悪い気はしない。
なんだかんだで可愛いと思ってしまう自分がいる。
「好きだ、桜木」
だから、そんなことを言ってしまったのは思っていたことが不意に口をついて出てしまったからで、どうにかなろうとかそんな事は一切考えていなかった。
「俺もゴリのこと好きだぜ!」
にししと笑ったその尖った下唇を優しく食んで、キスしたらこいつはどんな顔するんだろう。
「ゴリーゴリー」
雛鳥のように後ろをついてくる。密着した体は以前と変わらない距離と言われればそうだが、関係が変わった。
「いいのか?」
「? おうよ」
自分の手を桜木のTシャツの裾から潜り込ませる。少し汗ばんだ、しっかり鍛えられ筋肉のついた男の体。身長だって自分とさほど変わらない、いかつい男のそれに、頭が沸騰しそうなくらい興奮した。しっとりと吸い付いてくる肌の感触を楽しみながら、いつかに思ったように下唇を優しく食んだ。そこで桜木の顔を見れば、明らかにフリーズしていた。
「は?! なんだ?!」
「なんだもなにもないだろう。聞いただろう、いいか、って」
「……あ!」
やっと合点がいったらしい桜木が一気に青くなる。こいつ、まさか意味分からないで返事したのか。
いや、違う。俺が悪い。いいか、なんて大した説明もなしに同意だけ求めた。
「ゴリのこと好きだけど、そんなつもりじゃなかった……その、ごめん」
「……明日からまた、いつも通りだ」
「……おう」
死刑宣告にも等しいそれに、どうにか平静を装って返事をする。毎日部活で顔を合わせる相手だ。絞り出した声は震えていたかもしれないが、あからさまにホッとした桜木の顔を見ればこれでよかったんだと思える。蟠りを残したまま、部活をすることは難しい。桜木は単純な男だ。いつも通りと言えば今日のことも忘れて普通に振る舞えるだろう。きっと、多分。
かくして、失恋をしてしまったわけだが