耳朶のさきまで 白を基調とした生地に目の覚めるような青を合わせた衣服は、いわゆる公的な場でも問題なく纏うことのできる社奉行としての正装だ。そこに華美でない程度の金色と、珍しくも僅かな暖色も差し色として合わせていく。常のそれよりも少しだけ気楽に着崩して、それでもなお彼の身分を表すように品を損なわないよう。とある貴人との会食であるというのなら、その場に選ばれた店の雰囲気にも合わせたものに。彼の服飾を管理する古参の家人たちと誂えたその衣服を彼に着つけるのは、今日も家司であるトーマの役割だった。
まだ日差しが眩い夏の昼下がり。夕の会食に出るにはあまりに早すぎる時間帯である。じりじりと肌を焼くような暑さに大通りの人影もまばらとなるほどではあるのだが、それでも出立の刻限は迫りつつあった。涼しい顔をしている主も、ひとである以上汗は流すのだ。日差しの強さに体調を崩しやしないかと心配にはなるが、それを押してもと相手が望んだのならば今の『神里綾人』に逆らう術はないのだと、トーマだって知っていた。
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